クラウドファンディングは資金を調達するための一手法です。クラウドファンディングを成功させるためにビジネスを行うのではなく、あくまでビジネスを成功させるためにクラウドファンディングを行うのだということを忘れてはいけません。
クラウドファンディング特有のルール、メリット・デメリットを理解した上で資金調達を進めていきましょう。

「all or nothing」と「all in」

クラウドファンディングでは、目標金額を定めた上で資金を募っていくことが一般的です。そして、目標金額に達成しないと資金を手にすることができないall or nothing」と目標金額に届かない場合も集まった資金を手にすることができるall in」の二つの方式に分けることができます。

「all or nothing」で100万円の資金を募り、結果として50万円しか集まらなかった場合は1円も手にすることができません。しかし、「all in」では、50万円を手にすることができます。「all in」の方が資金調達の確実性が高いよう感じられますが、資金提供者へのリターンを考えるとリスキーな面があります。

そもそも、なぜ目標金額を100万円と設定したのか考え直してみましょう。
たとえば、新規発行する小冊子の制作代として100万円と設定したと仮定します。
1人あたり250円の支援、4,000人から支援を受けることで100万円。
小冊子を4,000部印刷するのに必要な経費が20万円(単価50円)。 
資金提供者へのリターンとして小冊子を郵送するのに必要な経費が72万円(単価180円)。
資金調達額100万円から必要経費を差し引いた8万円を利益とする計画です。

このような計画のもとでクラウドファンディングを実施したところ、集まった資金が50万円(資金提供者2,000人)だったとします。
all or nothing」であれば、資金を手にすることはできません。しかし、この失敗をもとにして、部数の見込みを修正したり、クオリティを調整して印刷単価を抑えたりと事業計画を見つめ直すことができます。
一方、「all in」では50万円を手にすることができるかわりに、採算割れであっても資金提供者にリターンを送る必要があります。

印刷物は部数が少なくなるほど1部あたりの制作単価が高くなっていきます。仮に制作単価が50円から80円になったとすると2,000部の印刷に必要な経費は16万円、そして郵送経費は36万円と調達額50万円を超えた経費がかかることになります。

「all in」によって資金調達を行うにあたっては、目標金額に届かなかった場合のリスクを加味しておく必要があるということです。

クラウドファンディング成功から入金までのタイムラグ

また、クラウドファンディングによって目標金額を調達できたとしても、実際に資金が手元に来るまでにはタイムラグがあります。
クラウドファンディングでは募集期間を設定して資金を募り、期間終了時点での資金の集まり具合で成否が決まります。成功した際にはプラットフォームを通じて資金が供給されるわけですが、これは即日で行われるわけではありません。大手プラットフォームでいうと、CAMPFIREでは募集期間終了から2週間程度。makuakeReadyforでは2ヶ月程度の期間がかかります。

たとえば、クリスマス商戦が本格化する11月頃までに洋菓子店を開店したいとします。開業しようとする場所が空き店舗か居抜き店舗かでも異なってきますが、遅くとも開店の2ヶ月前には店舗物件を決定していなければいけないでしょう。そうすると9月には物件オーナーと賃貸契約を結び、敷金、保証金、前払い家賃と支払うことになります。
クラウドファンディングでこれらの資金を工面したいのであれば、8月末には資金が手元に届くようにと逆算して募集期間を設定していかなければならないということです。

クラウドファンディングに固執してはならない

先ほどの洋菓子店の例でクラウドファンディングを行うとなると、4月には事業計画を固め、6月中には募集を終了しておくことが理想的です。しかし、これを実現するためにはいくつものハードルがあります。

まず、洋菓子店の売上は立地条件に大きく左右されます。そして立地条件が良いほど物件の空き条件は流動的です。事業計画を練っている4月の段階で良い物件を見つけたとしても、それが9月まで空いている保障はありません。物件オーナーと交渉するにしても、クラウドファンディングの成否も分からない状態だと難しいでしょう。

物件選びはクラウドファンディングの成否が分かる6月頃から始めると割り切ったとしても、この場合は必要経費の見込みを立てにくいというジレンマに陥ります。洋菓子店を開業するためには菓子製造業の許可をとっていきますが、借りようとする物件の設備が許可要件を満たしてない場合は流し台を増設するといった追加工事が必要になります。工事の内容によってはクラウドファンディングで調達した資金以上の出費となる可能性も出てきます。

このようなジレンマ状態に陥るのを避けるためにも、即応性・スピード感が求められる資金は自己資金や金融機関からの借入れ、クラウドファンディングでは開業後の運転資金を調達と使い分ける感覚が必要になってきます。

クラウドファンディングを成功するためにビジネスを行うのではなく、あくまでビジネスを成功するためにクラウドファンディングを行うのだということを忘れてはいけません。
必要経費とその支出時期を精査した上で、クラウドファンディングが向かないものは別の手法をもって調達していくと割り切っていくことが大事です。

記事制作/ミハルリサーチ 水野春市

ノマドジャーナル編集部
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