元々、日本は直接金融主流の社会でした。日本の伝統的な資金調達手法でもあるクラウドファンディングは、金融をあるべき姿に戻す、戦中・戦後で形成された日本型金融排除構造を打ち崩すための切り札となるかもしれません。

日本型金融排除構造からの脱却へ

戦中・戦後の統制経済を通じて銀行を中心とした間接金融が主流になっていく中で、十分な担保や保証のある企業・信用力の高い企業にしか資金が流れない「日本型金融排除構造」と呼ばれるものが生まれていきました。
日本型金融排除構造の中では、信用力の低いベンチャー企業やリスクをとって新商品開発に挑戦していこうとする企業が資金を手にすることは難しいです。第7回でも説明したように、本来的に銀行中心の間接金融構造では、中小企業向け融資はコストばかりがかかる不採算部門なのです。成長の芽・イノベーションの起爆剤になるような中小企業に資金を供給していくためには、銀行中心の間接金融から直接金融に舵を切っていく必要があり、その中でクラウドファンディングは大きな役割を果たしていくものと期待されています。

銀行のリスク評価では計ることが難しい企業の将来性や市場の期待値をクラウドファンディングという形で評価し、担保や信用力のない企業に対しても市場から直接資金が供給されていくことで日本型金融排除構造からの脱却にもつながっていきます。

経営者保証という悪習をなくしていく

銀行中心の間接金融からクラウドファンディングをはじめとする直接金融へと舵を切っていくことは、資金供給を受けた後の企業体質にも変化を生じさせていきます。その最たるものが融資に紐付いた経営者の個人保証でしょう。
銀行が中小企業に融資をしていく上で重視するのは、その資金を通じて企業が成長するかではなく、貸し付けた資金が滞りなく返済されるかです。このため、不動産担保や経営者の個人保証といった保険を求めていくのです。仮に資金返済が滞った場合には、不動産担保を売却したり、経営者個人の資産を差し押さえることで、貸し倒れによって生じた損失をカバーしていきます。

このような銀行の行動は、ひとつの企業体としては正しいものですが、弊害も大きいところです。特に経営者の個人保証については、法人である会社としての債務と経営者を同一視するものであり、経営者個人のリスクが際限なく高まっていきます。会社経営に躓いた瞬間に経営者個人の未来も閉ざされてしまい、再チャレンジも難しくしています。また、個人保証は経営者が代替わりする度について回ってきますので、これが中小企業の事業承継を妨げているのではないかという指摘もあるところです。
クラウドファンディングのような返済性のない資金の調達が一般的なものになっていけば、個人保証が怖くて新規投資ができない、親世代の経営者の個人保証を引き継ぎたくないから会社を継がないということが減っていくかもしれません。法人としての会社とその経営者の関係性が正しい姿へと変わっていくきっかけにもなるでしょう。

クラウドファンディングで変わる金融構造

中小企業の資金調達手法に、クラウドファンディングという新たな選択肢が増えることで、間接金融にも良い影響が広がりつつあります。これまでは、中小企業が資金を調達していくには、実質的に銀行等の金融機関から融資を受けるしかありませんでした。金融機関側の立場が圧倒的に強く、中小企業は金融機関側が提示する条件に従うしかなかったのです。これが中小企業側でクラウドファンディングというカードを持つことで交渉の姿も変わっていきます。

第6回で紹介した常陽銀行のクラウドファンディング協調融資のように、クラウドファンディングの状況を審査に組み入れるといった動きも出始めていますし、AIを活用した無担保・無保証融資といった取組も始まっています。中小企業側の資金調達手法が広がることによって、金融機関側でも融資商品の見直しを迫られ始めているのです。従来のような不動産担保と経営者個人保証と固めこんだ融資条件では、中小企業側の支持が得られなくなっているとも言えるでしょう。

資金の受け手が望む形で資金を供給し、資金供給の成果が社会に還元されていく、クラウドファンディングによって日本の金融構造はあるべき姿、かつてあった姿へと変わりつつあります。

記事制作/ミハルリサーチ 水野春市

ノマドジャーナル編集部
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