直接金融主流の文化から、戦中・戦後の統制経済を経て間接金融が主体となり、金融構造は政府の政策路線から大きな影響を受けます。現代になって直接金融であるクラウドファンディングに再注目が集まる中、政府の政策路線はどちらに舵を切っていくのでしょうか。

ローリスク・ローリターンからリスクの許容へ

第5回で紹介しましたが、2015年に金融商品取引法が改正されました。これまでの強固な岩盤規制に穴を開け、大企業・プロフェッショナルにしか許されなかった株式投資の世界にクラウドファンディングの風を吹き込ませたのです。
戦後以来、日本の株式市場は、良くも悪くも安全主義であったため、株式公開のハードルは高いものでした。2000年代には新興企業向け市場が整備されましたが、それでも新規上場は大企業か成長志向の強いベンチャー企業に限られていました。ごく普通の中小企業が自社株を公開したり、新規株主を募集していくような舞台にはなりませんでした。

これが金融商品取引法の改正、株式投資型クラウドファンディングの登場によって、ごく普通の中小企業でも新株発行による資金調達が容易になったのです。大企業と比較した場合、中小企業への株式投資はリスクが高くなります。一方、成長に向けた伸びしろ・可能性は無限大です。投資家にとっては、企業を小さなうちから応援し、ともに成長の喜びを味わえるという一面もあります。
政府がとりまとめている成長戦略にも市場へのリスクマネー供給を促す仕組みづくりを行っていくとの記述があります。政府側には、リスクを受け入れながら企業を応援していく投資環境を整備したいという思いが強いのかもしれません。

ソーシャルレンディングには厳しい目が向けられる

株式投資型クラウドファンディングには追い風が吹く一方で、ソーシャルレンディングには厳しい目が向けられつつあります。
前回の記事でもソーシャルレンディングをクラウドファンディングの一種に位置づけることについて疑問を呈しましたが、現在国内で行われているソーシャルレンディングは借り手の顔が見えないファンド形式で行われています。これは一人一人の投資家が貸金業法の規制を受けないようにと生み出された手法ですが、貸出先の選定に不透明さが生まれるというデメリットがあります。

今年の3月にはソーシャルレンディングの運営会社に対して金融庁が業務停止命令を行うという事案も発生しました。これは投資家から集めた資金が説明内容とは異なる運用がされており、運営会社の関係会社や代表者個人への貸付が多くを占めていたというものです。
この1件の事例だけを見ても、ソーシャルレンディングによって集められた資金が説明どおりに使われるか、投資家側の想いに近い貸付がされるかは、運営会社次第の面が強く、性善説に依ったものになっています。
6月にもソーシャルレンディング運営会社に対して業務改善命令事案も出るなど、金融当局による監視の目が強まっています。

ITと金融の融合の波は止まらない

一部のソーシャルレンディング運営会社で不祥事が発生しており、監視の目が強まっている面もありますが、政策全体の流れとしては、クラウドファンディングに代表されるようなITと金融の融合・Fintechの推進へと舵が切られています。

昨年の12月には金融庁の諮問機関である金融審議会がオープンイノベーションに向けた環境整備に関する報告書をとりまとめ、FinTechの推進に向けた政策の方向性を示しました。また、今年の5月には政権与党の自由民主党が『FinTechへの戦略的対応(第2弾)と金融仲介機能の更なる向上』と題した政策提言を公表しています。
2015年の金融商品取引法改正に続いて、今年は不動産特定共同事業法が改正され、不動産分野におけるクラウドファンディング活用に向けた規制緩和が行われたところです。これからもクラウドファンディングを含むFintechの推進に向けた法整備の流れは止まることなく続いていきそうです。

記事制作/ミハルリサーチ 水野春市

ノマドジャーナル編集部
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