現在では、文系総合職にも広まりつつある、フリーランスという働き方。本シリーズでは、興味はあるものの、「現在の仕事や職種と、どう接続できるのかがわからない」という方に向けて、フリーランスとして活躍するために必要なスキルや経験の身に付け方について、解説をさせていただいています。

 

いまや、いわゆる”安定した企業”など、もはや存在しないと言っても良い時代です。「どんなに大きな会社でも、倒れることはある」と、私たちは学んできました。人材の流動化も活発になり、新卒で入社した会社に勤め続ける、というキャリアは、ますます減って行くことでしょう。
モデルケースを通じて解説する第三弾の今回は、一社に長く勤めた後で、会社都合で早期退職を促されたケースについて、考えてみたいと思います。

 

【モデル:Cさん】
社会人23年目、男性46歳。新卒で入社した大手電機メーカーに勤め続けている。これまで、ディスプレイ事業、家庭向け家電事業に従事。営業、企画、プロモーション、生産・物流統括など、事業運営に必要なポジションはすべて経験済み。マネジメント経験も10年に及ぶ。
安定した大企業であるという点で入社を決めたものの、業績は徐々に悪化。45歳以上の社員を対象に、早期退職プログラムが導入された。退職金が上乗せされることに惹かれる気持ちや、これを機に新しいことにチャレンジしてみたい気持ちはあるものの、独立への恐怖もあり、悩んでいる。

あらゆる事態・リスクに対する備えをしておく

「早期退職プログラムに応募するかどうか」というのは、重たい気持ちで検討される場合も多く、生活がかかった非常に切実な悩みです。なぜなら多くの場合、家庭を持ち、家計を支える大黒柱である立場の人が対象となるからです。

 

2017年現在は、景気が上向いており、会社の業績悪化に伴う早期退職プログラムの導入例は、減りつつあります。しかし、そんな中でも、東芝、大日本住友製薬、三陽商会といった大手有名企業で行われているのが実態です。ある日突然、自分自身に降りかかる問題になってもおかしくはありません。

 

早期退職プログラムは、場合によっては、二次募集、三次募集がかかる場合もあります。想定人数に達しなかった場合や、業績が想像以上に悪く、さらなる経費節減が必要となった場合などです。後者の場合、企業財力が落ちていますから、退職金の上乗せ額が減ったり、最悪の場合は上乗せされないこともあります。どのタイミングで申し込むか、慎重に検討しなくてはいけないポイントでもあります。

 

Cさんも、安定性に惹かれて入社した国内大手有名電機メーカーが、20年後に業績が傾くとは、まったく思っていなかったことでしょう。今後の生活や自身のキャリアを考えると、転職か、フリーランスか、あるいは独立か…と悩むことも多いと思います。
では、Cさんがフリーランスを選択した場合、どのような活躍の仕方がありそうか、見ていきたいと思います。

40歳を過ぎたら、社外での人脈や価値をつくることに注力する

大手電機メーカーで長年勤め、あらゆるポジションを経験し、マネジメント経験も豊富なCさんですから、
・人望、人脈
・マネジメント能力
・折衝力、交渉力
・組織で成果を上げる経験

などは、兼ね備えていることでしょう。
しかし、年齢を鑑みれば、これらは身に付けていて当然とも言えます。

 

厳しいことを言うようですが、社内調整力(政治力)だけでここまでやってきた人には、正直フリーランスは向いていないと思います。フリーランスに向いている人というのは、内向きでない、自身のキャリアに客観的である、自己研鑽を忘れない、といったタイプの人です。組織として力を上げることと、組織と自分を同化させてしまうことは、全然違います。常に自分を客観的に見て、社内だけでなく、顧客や社外の友人知人とも積極的に交流し、ありたい姿に向かって努力し続けられる人なら、きっとフリーランスになっても活躍されることと思います。

 

“何を強みとしたフリーランスになるか”は、やはり自分の心が知っているもの。一番ワクワクできて、他の人と比べて自信があると断言できる分野に特化することをオススメします。
マネジメントや組織運営に一番ワクワクを感じていたCさんの場合、コンサルタントなども良いかもしれませんね。不採算事業の立て直しなどの経験があれば、大いに役に立つことでしょう。
なぜなら、

・新たな目標に向けた、ヒト、モノ、カネの再分配
・データ分析力
・やるべきことと捨てることの取捨選択
・暗くなりがちな組織を、どう活性化させるか
・失敗は許されない・後がない状況で、踏ん張り、力を発揮する精神力

などの経験を積み、知見が培われているはずだからです。これらは、規模こそ小さいものの、経営に近い経験だと言えるでしょう。

 

社内外問わず、人望や人脈があることは、大きな強みになります。「何かあれば声をかけてもらえる」という状況を作りやすいからです。このシリーズでも何度も言っていますが、フリーランスは人脈で仕事が回ってきます。「○○社の△△さん、独立したらしいよ」と聞けば、優秀な人材ならすぐに声がかかります。

過剰な自信は困りものですが、40代半ばも過ぎれば、自身の力や市場でのポジションを客観的に眺めることができるはずです。経験に裏打ちされた自信、というのは、人を惹きつけます。ぜひ、自信を持って臨んでいただきたいと思います。

“新人”だった頃のように、なんでもやる姿勢が大事

では、フリーランスで活躍するために今後身につけるべき力とは、どのようなものがあるでしょうか。
・マルチタスク力
・フットワークの軽さ
・見栄やプライドを捨てる力

などが挙げられると思います。

 

フリーランスは、基本的にすべて自分でやらなくてはいけません。社会保障周りや経理、広報など、会社でやってくれていた業務にも、時間を割く必要が出てきます。会社員時代より業務の幅が広がりますから、いつまでに・何を・どの程度進めておかなくてはいけないのか、細かく管理し、抜け漏れないように進める力は、磨くことを心がけられると良いと思います。

 

かつてはフットワーク軽く動き回っていたけれど、マネジメント畑にいる時間が長くなるにつれ、自身で手足を動かす時間が減ってきた、という方もいらっしゃるでしょう。昔を思い出し、ぜひ身軽に行動してみてください。新たな人、思わぬ人、次に繋がるチャンスに出会える可能性が高まります。
また、好奇心を持つことも大切と言えるかもしれないですね。
若い頃ほど、いろいろなことに興味が向かなくなってきた、流行ものに興味が持てなくなってきた、という人は、アンテナを張り直すことをオススメします。

 

最後に、見栄やプライドについて。一概には言えませんが、年齢が高い男性は、プライドが高い傾向にあると思います。自負を持つことはとても大切ですが、自身の経験に固執したり、自分の意見を押し通そうとしたり、見栄を張って自分を大きく見せようとしたりすると、あとで痛い目を見ることになります。もしトラブルが起きたとしても、尻拭いをするのも自分自身。かばってくれる人や、一緒にカバーしてくれる人はいないのです。

 

「『できない』と断るのは恥ずかしい」「名前のある企業でそれなりのポジションにいたのだから、独立後も活躍していないと格好がつかない」といった思いが自分の中にないか、冷静に見つめてみてください。自覚しておくだけでも全然違うと思いますが、できることなら捨ててしまいましょう。プロとして、自分が最初から最後まで責任を負える仕事のみを引き受け、誠実に仕事をし続けていれば、かつてとはまた違った形ではあっても、社会的ステイタスを手にする日が来ると思いますよ。

 

フリーランスという働き方は、すべての人に向くわけではありません。モデルケースが自分に近いからと言って、同じような動きをすれば必ず成功する、というわけでも、もちろんありません。
もし、早期退職といった話が聞こえてきたら、ある意味チャンスだと捉えて、客観的に自分を見つめる機会にし、家族と一緒に今後の道を探って行かれることをオススメします。

専門家:天田有美

慶應義塾大学文学部人間科学科卒業後、株式会社リクルート(現リクルートキャリア)へ入社。一貫してHR事業に携わる。2012年、フリーランスへ転身。
キャリアコンサルタントとしてカウンセリングを行うほか、研修講師・面接官などを務める。ライター、チアダンスインストラクターとしても活動中。