現在では、文系総合職にも広まりつつある、フリーランスという働き方。本シリーズでは、興味はあるものの、「現在の仕事や職種と、どう接続できるのかがわからない」という方に向けて、フリーランスとして活躍するために必要なスキルや経験の身に付け方について、解説をさせていただいています。

第5弾の今回は、文系総合職の中でも比較的専門性が高い、広報、人事、経理などの職種から、人事職について考えてみたいと思います。

 

モデル:Eさん

社会人14年目、男性37歳。中堅不動産会社の人事課長。転職経験1回あり。1社目でハウスメーカーの営業を6年やったのち、同じく営業職として今の会社に転職。3年営業を務めたあと、人事へ移動し、採用に携わる。人事の仕事は好きで、向いているとも感じているが、今の会社に行き詰まりを感じている。転職するか、残るか、フリーランスになるかで悩んでいる。

営業経験は、採用活動に生きる強みを得られる

一口に人事と言っても、様々な役割があります。大きく分けると、採用・評価・異動処遇・教育・制度・労務から成ります。人事部の規模にもよりますが、大きな組織になると、担当が分かれているケースが多いです。

それぞれに専門性が高く、全て網羅するには、かなりの時間を要するでしょう。例えば、採用といっても、新卒採用と中途採用では、手法やサイクル・スピード感が違います。労務の中には、労働時間管理、社会保険手続き、健康診断なども含まれます。極めると、社会保険労務士という資格に行き着きます。

 

Eさんの場合は、採用を経験してきたとのことでした。

採用活動は、営業活動に似ています。ターゲットを定め、特徴や指向性を把握し、提供できる手段の中から最適なものを選んでプレゼンし、最終的に選んでもらうことを目的としています。営業の場合は、自社の商品サービスをプレゼンしますが、人事の場合は、自社そのものを売り込むわけです。そういう意味では、Eさんの9年の営業経験は、大きなアドバンテージになったことでしょう。

 

また、採用の課長職なので、実務担当者としての経験に加え、上流工程にも携わっていると仮定できます。

  • 採用要件定義
  • 計画立案
  • 進捗管理、メンバーマネジメント
  • 外部パートナー(情報サイト、転職エージェントなど)コントロール

といったことは、おそらく経験しているはずです。

 

フリーランスを目指すならば、これらの経験を、一般化したスキルに昇華させる必要があります。

他社の価値観、基準で判断できることが、外部人材として採用に携わる必須条件

自社採用の場合は、社内事情や現場の声を拾いやすく、要件定義を固めるのも比較的簡単です。しかし、フリーランスで外部の人間として他社の採用に携わるとなれば、そう簡単にはいきません。まずは、キーマンをあぶり出してアプローチし、実情や本音を引き出す必要があります。

経営者と、採用担当者と、入社後配属予定の現場の責任者とで、求める要件がずれている場合もよくあるため、調整や確認、クライアント内でのすり合わせなどをお願いすることもあります。

 

また、会社によって“何を良しとするか”の基準は異なります。A社では高く評価された人物が、B社では書類選考で落ちる、ということなどしょっちゅうです。会社ごとに頭を切り替え、その会社の基準で判断するフレキシブルさが求められます。

 

私も他社の採用に携わった経験がありますが、会社ごとに採用基準が異なる、という状況に慣れるのに、努力を要しました。

自社採用の場合、自身の価値観・判断基準をそのまま持ち込むことができます。「デスクを一緒に並べて働いているイメージがつくか」「後輩として迎えた時に、この人なら責任を持って育てようと思えるかどうか」という視点で判断ができるのです。

 

ところが、クライアント企業の求める要件で判断する場合、必ずしも自分自身の価値観が合うとは限りません。時には、これまで一緒に働いたことがないタイプや、個人的には相性が良くないと感じるタイプに、合格を出す場合があります。頭を切り替えて臨んではいますが、慣れないうちはとっさに自分自身の価値観が頭をもたげる瞬間があり、注意が必要でした。

このように、状況が異なっても柔軟に対応できるようになれば、採用代行やコンサルとして十分に通用するようになるでしょう。

これから求められる「戦略人事」として活躍するには

それでは、クライアントに選ばれ、活躍するためには、どのような経験を積んでおくと良いのでしょうか。以下の4つは、やっておいて損はありません。

  • 経営に近い視点で人事に携わる
  • マネジメント経験をさらに積む
  • 評価、異動処遇、教育など、採用と近い業務にも携わっておく
  • キャリアコンサルタント、社会保険労務士などの資格を取得する

 

人事業務は本来、経営と非常に近しいものです。特に最近では、オペレーションを中心とした人事ではなく、経営戦略に則り、実現したい姿に向かって人員配置や採用を行う、“戦略人事”が主流になってきています。戦略人事では、採用要件定義や組織図を考える時に、必然的に経営戦略への理解が求められると思いますが、より強く意識し、接続をスムーズにできると良いと思います。自分自身が意識するだけでなく、マネジメントをする立場として、メンバーの視座を上げさせることも心掛けてみてください。

 

なお、採用だけでなく、評価や異動処遇、教育にも携わっておくことで、組織作りを一通り経験することができます。評価制度の見直しや人事制度改定などのチャンスがあれば、経験しておくと良いでしょう。

また、人事領域の中でもココ、という分野が定まれば、キャリアコンサルタント、社会保険労務士などの資格を取っておくことをお勧めします。体系化された知識や手法を学んでおけば、仕事現場でもすぐ生かすことができますし、独立後プロとして任されやすくなると思いますよ。

 

いかがでしたでしょうか。

比較的専門性が高く、フリーランスになりやすい人事職。一方で、組織にグッと深く入り込む必要がありますので、非常に難易度の高いコミュニケーションが求められます。いったんは転職を選ぶとしても、将来独立することを見据えて、様々なチャレンジをさせてくれる組織を選ぶと良いかもしれないですね。

 

記事制作/白井龍