前回では日本のメンバーシップ型雇用について、かんたんに紹介しました。それに対し、欧米をはじめ多くの国では、ジョブ型の働き方が一般的です。

 

新しい働き方が広まっているのは、主にジョブ型の国。では、なぜジョブ型ならば新しい働き方が導入しやすいのでしょうか。

 

メンバーシップ型、ジョブ型のちがいを比較しながら、ジョブ型の働き方について考えた上で、メンバーシップ型雇用の日本で「新しい働き方」を導入するための仕組みを考えてみましょう。

「人」と「仕事」はどっちが先?

日本のメンバーシップ型の特徴は、労働者が企業という共同体のメンバーになるところです。つまり、「人」が第一に来るのです。

 

そのため、まず「人」を採用して、人事異動や転勤によって人員調整をして仕事を割り振ります。給料も「人」によって決まるので、部署が変わっても連続性が保たれます。そして、共同体のメンバーとして自己犠牲や忠誠心が求められます。

 

一方のジョブ型では、第一にくるのが「仕事」です。「仕事」に対して人を割り振るので欠員募集が一般的で、仕事の内容も明確です。給料は「仕事」によって決まるため、日本のように年次が上がったから自動的に仕事の難易度が上がり昇進する……ということはありません。

 

ジョブ型では「仕事」が前提にあるので、「その仕事ができる人」、つまり即戦力を求めます。そして仕事内容は、基本的には3年、5年、10年と変わることはありません。

 

仕事の内容をレベルアップさせて昇進したいのであれば、ハイポストの求人に応募して転職することが一般的となっています。

 

そのため、労働者は企業への忠誠心などは持たず、企業も期待していません。「仕事」に対していいパフォーマンスをしてくれる人には多くの給料を渡し、そうでない人はクビにするだけなのです。

 

労働者もそれを理解しているので、納得がいかない条件を提示されたら、もっといい待遇を求めて転職します。

 

給料とは仕事に対する報酬、という認識なので、仕事さえやっていれば文句は言われません。

 

日本のメンバーシップ型では解雇しづらいですが、ジョブ型では比較的解雇しやすいといえます。そのため、労働者の権利を守るためにさまざまな規定が設けられています。

自立を求めるジョブ型では柔軟な働き方が可能

ジョブ型では仕事の内容が個々人でハッキリしているため、働き方を柔軟にすることは日本よりはかんたんです。

 

時短ワークにするのならばその人の担当分を減らせばいい、担当分の仕事をするのなら家で働いてもいいし副業をしててもいい、という考えになるのです。

 

また、日本のように企業内で職業教育(研修や社内資格の取得)などを行っている会社は稀です。というのも、日本のように新卒一括採用、年次が上がるにつれ自動的にキャリアアップすることがないので、わざわざ素人を採用して育てるメリットがないのです。

 

年齢や性別で区別、差別せずに「その仕事ができる人」を採用するので、常に即戦力を求めます。

 

そのため、スキルアップになる複業やパラレルキャリアといった考え方が受け入れられやすいのです。

 

欧米で働き方改革が進みやすいのは、日本とちがい「企業が面倒を見る」という前提がないから、と言えます。

 

何年働いていてもスキルアップしなければ仕事内容は同じですし、企業がイチから育ててくれるわけではありません。

 

だからこそ労働者には自立性が求めら、企業も「仕事さえしていればそれでいい」というスタンスなのです。

 

日本では「企業が労働者の面倒を見る」ことが前提になっているので、「出来る限り会社に忠誠を尽くすこと」が求められます。

 

愛社精神が悪いというわけではありませんが、滅私を求める風潮では、柔軟な働き方は受け入れられないでしょう。では日本には、なにが必要なのでしょうか。

ほどほどキャリアで柔軟な働き方を可能に

わたしは、「ほどほどキャリア」路線を作るといいのではないかと思っています。

 

日本では、勤続年数が長くなってくると、自然になにかしらの肩書を得ることになります。それにともなって給料は上がりますが、責任も増します。

 

ですが、みんながみんな、ハードワーク&高給取りを目指しているわけではありません。

 

ほどほどに働いて、ほどほどにお金をもらって、のんびり暮らしたい。そういう人もいるはずです。

 

そういった人に向け、「ほどほどキャリア」コースを作るのです。

 

仕事内容を明確にしておき、基本的にはその仕事だけをする。昇進はないぶん、勤務時間や働く場所の融通を効かせる。

 

子育て中や介護中、夜間の大学に通っている人、ミュージシャンとしてプロデビューを目標としている人……そういった人には歓迎されるでしょう。

 

このかたちならば、リモートワークや副業、複業、パラレルキャリアにも対応できます。契約社員のかたちに近いですが、労働時間ではなく仕事内容と契約するのです。

 

企業としても、昇給させなくて済みますし、多彩な人材を集めることが可能となります。「こういう人も働ける」「ワーク・ライフ・バランスを充実させたい人向け」といったアピールもできます。

 

メンバーシップ型を根本から変えるのは、現実的にむずかしいでしょう。主流はメンバーシップ型のままにしておき、+αとして、柔軟な働き方を前提とした「ほどほどキャリア」を導入するのはどうでしょうか。

 

そうすれば、日本でも柔軟な働き方を導入しやすくなるかもしれません。

 

取材・記事制作/雨宮 紫苑