最近解禁の動きが進んでいる副業。その名の通り、本業を持っている人が、本業とは別に仕事をすることを指します。ですが日本には根強い「副業禁止令」が蔓延しているので、副業解禁が浸透していくのはなかなかむずかしそうです。
一方、今回参考例にするドイツでは、副業をしている人が増加しています。副業のメリットやデメリット、日本ではどのように広がっていくか、ドイツを参考に考えていきましょう。
やっと動き出した、日本で副業解禁の動き
日本の大半の企業は、副業を禁止しています。事実、厚生労働省のモデル服務規律の遵守事項である第11条には、「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」と明記されています。
それを裏付けるように、昭和57年には、無許可で副業して解雇された裁判に対し「仕事に支障が出る可能性や体面を保持する」ために解雇は妥当だ、という東京地裁の判決が出ています。
ですが副業に関しては議論が続いていて、「プライベートはなにをしようが自由」「そもそも副業の定義とはなんだ」といった点で論争が続いています。
たとえばわたしはブログを書いていますが、会社勤めをしながら趣味でブログを書いて毎月お小遣いを手にしている人は、副業禁止に抵触するんでしょうか。家業の手伝いではどうでしょう。
そういったことがきちんと議論されず、慣習的に「副業禁止」が根付いていました。
現在では入社した会社に定年まで勤め上げる人は減り、ワーク・ライフ・バランスの推進など、働き方は多様化しています。
そのため、昔のように「ひとつの企業に尽くし続ける」という考え自体が合っていないという指摘もあり、副業を解禁する企業も増えてきました。厚生労働省も、原則禁止から原則容認に切り替えるようです。
副業解禁の例として、株式会社エンファクトリーのように専業を禁止したり、兵庫県神戸市のように職員に対して副業を推進することを発表した地方自治体もあります。地方自治体が公に副業を推進するのは、とても珍しいことです。
このように、日本では少しずつではありますが副業解禁の動きが進んでいっています。
企業が「一生養っていきます」という時代ではなくなった以上、収入を分散させることはリスクヘッジになります。これから日本は、副業解禁に向け本格的に舵を切っていくでしょう。
ドイツの副業は収入が足りないから?
ドイツには、ミニジョブという雇用形態があります。月450ユーロ以下の収入で課税されない、という雇用形態で、主に学生がアルバイトとしてミニジョブをしています。
ですが最近は、副業としてこのミニジョブをする人が年々増加しています。
ドイツで2015年に導入された最低労働賃金は、時給8,84ユーロです。ミニジョブの上限収入である450ユーロとなると、月50時間、週にすれば10時間程度の労働になります。週5時間×2日、もしくは3時間×3日程度労働のイメージです。
2016年の7月9日付けのフランクフルター・アルゲマイネ紙の記事では、副業として人気なのはガソリンスタンドで、副業従事者の46.9%がガソリンスタンドで働いています。次に人気なのは、建物の清掃業で42.2%となっています。
日本よりもドイツの方がプライベートの時間が長く副業しやすいという側面があることはまちがいないでしょうが、副業をする人が多いのは、単純に収入が足りない場合が多いようです。
それも当然で、フルタイムで働いている上でさらに働くというのは、ただのやり甲斐や趣味の延長としてはなかなかできることではありません。
ドイツでは数少ない日曜日や夜遅くまで営業しているガソリンスタンドが副業人気第1位になっていることからも、その様子がうかがえます。
ドイツではたしかに副業ができる環境が整ってはいますが、だからといってみんなが生き生きと副業しているかというと、疑問が残ります。
副業とワーク・ライフ・バランスの両立
副業により収入を底上げしたり、ちがう分野で活躍することはたしかに可能です。ですが副業解禁は、日本が必死で整備しようとしているワーク・ライフ・バランスからは遠ざかる動きでもあります。
約4割の労働者が非正規雇用という日本で副業を推進してしまえば、収入が不安定なために、より長く働かなくてはならなくなる人が増えてしまうかもしれません。
副業により収入のリスク分散はできますが、一方で労働環境や福利厚生などのチェックが甘くなってしまうという懸念があります。
副業という選択肢が増えることは良いことではあるものの、「給料が足りないなら副業すればいい」、「本業の労働時間をごまかして副業扱いにして労働時間の改ざん」などが横行しないような管理体制が必要になります。
これからさらに広がっていくであろう副業。「解禁してあとは労働者に丸投げ」ではなく、解禁した後副業制度をどう運営していくかをしっかりと考えていかなくてはなりません。
特に、収入的・立場的に不安定で副業をせざるをえなくなりそうな非正規労働者の副業に関しては、ちゃんと管理・監視が行われないでしょうから、もっと対策について議論されるべきです。
副業解禁の動き自体は進歩ではありますが、単に解禁するだけでなく、「ワーク・ライフ・バランスの充実」を意識しながら推進していってほしいところですね。
取材・記事制作/雨宮 紫苑