前回の「【どこが違う?日本と欧州の働き方】第2回:副業解禁で長時間労働に歯止めが効かなくなる? 副業の促進にはルール作りが必要」では副業について取り上げましたが、今回は複業について考えていきましょう。副業と複業は同じ読み方ではありますが、考え方が大きくちがいます。副業=専業+もうひとつの仕事、複業=専業×2以上、という感じです。
副業に関しては日本でも認められてきてはいますが、複業を解禁しているのはまだ一部の企業のみ。複業の解禁のためにはフレキシブルな働き方が可能であることが大前提となるので、日本ではまだあまり一般的にはなっていません。
ですが今回例に挙げるスイスのように、複業が一般的になっている国もあります。日本では浸透しづらい複業が、なぜスイスでは可能なのか。そのちがいを考えていきましょう。
「名刺をふたつ持つ」複業とは?
人口減少が取り沙汰され、労働力不足に対して危機感を感じている方も多いのではないでしょうか。その労働力不足の解消のひとつの手段として注目されているのが、複業という働き方です。
複数の仕事をもち、「これが本職です」ではなく「全部本職」という働き方です。いままで、会社に主軸を置いてより幅広く活躍するという意味での副業は知られていましたが、「複業」という概念は、比較的新しいものです。
複業を一言で表すのであれば、「名刺をふたつ持つ」ことです。
IT企業の役員でありながらお笑い芸人でもある厚切りジェイソンさんや、お笑い芸人であり作家としても注目されている又吉直樹さんなどは、この「複業」にあたるのではないかと思います。
ですがたとえば、又吉さんがお笑い芸人としてほんのたまにコラムを執筆する程度でしたら、「作家」とは名乗らないでしょう。その場合は、「作家は副業である」と表現した方が正しいことになります。
副業と複業のちがいは、ふたつの職業で名刺を持つかどうか、といえます。
日本ではあまり浸透してはいないものの、新しい働き方に積極的なベンチャー企業や、人材確保が難しい中小企業などが複業に注目しています。
サイボウズ株式会社では複業を解禁し、株式会社エンファクトリーは「専業禁止」にまで乗り出しました。
とはいえ、日本で複業が一般的になるのはまだまだ先の未来だといえるでしょう。
複業が当たり前?スイスの複業事情
ヨーロッパで最もパート勤務が多いとされているスイス。パートタイム勤務というと学生や主婦が従事しているイメージですが、スイスでは、企業勤めのサラリーパーソンや管理職にまでその波が広がっていっています。
というのも、スイスではパートタイム勤務は、日本のような時給で働く非正規雇用労働者を指すわけではなく、文字通りpart(部分)+time(時間)を意味しています。日本でいえば、時短労働という方が意味合いとしては近いでしょう。
そのため、パートタイムの仕事をふたつ掛け持つということが可能で、容易に複業をすることができます。
swissinfo.chでは、複業に従事しているのは高学歴であり専門的な資格を持っている者が多いからである、という意見を紹介しています。
たしかに、化学の研究をしつつ講師として授業をしている方や、執筆業をしながらコメンテーターとして活躍している方などは、みなさん輝かしい経歴を持っています。
そういった面から考えると、複数分野で活躍できる能力と自己管理力、自己プロデュース力がある人だからこそ、複業が可能なのです。
なんのスキルもなくただ複数の仕事をこなしているだけ、たとえば居酒屋とアパレル店員のバイトを最低賃金でしていたとしたら、それは「複業」とは言いづらいでしょう。
日本で複業をするなら「フリーランス」がカギ?
日本は会社に尽くす、愛社精神、貢献、奉仕といった考えがあるので、なかなか複業解禁に踏み込めない企業も多いでしょう。
特に、企業としては「同じ分野で複業するくらいなら自社に貢献してほしい」と思うでしょうし、ちがう分野で活躍するのであれば「本業に専念してほしい」と思うでしょう。
また、勤務時間や福利厚生の部分でもあいまいさがあります。副業はあくまで本業の片手間でやれる範囲ではありますが、複業となると自分で仕事の裁量を決めていかなくてはなりません。それには、企業の理解と複業をする労働者の自己管理能力が必須になります。
現在、現実的に複業するとなったら、複数の分野でフリーランスとして仕事を得るか、もしくは時短で会社に勤めながらフリーランスとして働く、というかたちになるでしょう。会社勤め×2はまだまだ非現実的です。
スイスのようにパートタイム×2は「かけもちバイト」としてある意味複業ではありますが、日本でアルバイト(非正規雇用)として複業するのでは、将来のキャリアアップにはつながらないでしょう。
副業解禁の動きはあるものの、複業となるとまだまだむずかしいのが現状です。
ですが多様な働き方が注目されている現在、ベンチャー企業を中心として複業の波が広がっていけば、日本にも浸透していく可能性もあります。
その際に活躍できるように、いまから複数分野でのスキルを磨いておくといいかもしれませんね。
取材・記事制作/雨宮 紫苑