人口が減少していることに伴い、労働力不足が指摘されている昨今。そんななかで、「人手不足」が理由で倒産している会社があることをご存知でしょうか。

 

帝国データバンクによれば、2017年の上半期で、49件もこの「人手不足倒産」が認められています。

 

「AIに仕事が奪われる」という警鐘が鳴らされてはいますが、いまのところ「人口減少による労働力不足」の方が喫緊の問題といえるでしょう。だからこそ、日本は積極的に外国人労働者を受け入れているのです。

 

ヨーロッパでも状況は同じようなもので、労働力不足を改善するために「ジョブシェアリング」という新しい働き方が注目されています。

 

今回は、ジョブシェアリングについて考えていきましょう。

仕事を分け合うジョブシェアリング

ジョブシェアリングとはその名の通り、ジョブをシェアすることです。フルタイムで働いている人ひとりが月に100の仕事をするとしたら、労働時間を半分にしてふたりを雇い、50・50働いてもらう、という考え方です。

 

日本ではまだなじみがない働き方なので、「しっくりこない」という方も多いかもしれません。ですがヨーロッパでは、少しずつではありますが取り入れられています。

 

このジョブシェアリングのメリットは、企業としては人材確保がしやすいこと、労働者にとってはワークライフバランスを意識しやすい、という点にあります。

 

親の介護中、子育て中、ほかに仕事を持っている、というように、フルタイムで働くことができない人は少なくありません。

 

短時間労働やある程度のフレキシブルさが前提のジョブシェアリングでは、そういった状況に身を置いている人も働くことが可能です。

 

フルタイム勤務はむずかしくとも働きたい、社会復帰のきっかけにしたい、趣味の時間を確保しつつ社会でも活躍したい、と考えている人にとって、ジョブシェアリングという働き方は魅力的です。

 

労働者は、ジョブシェアリングの導入によって、ワーク・ライフ・バランスを意識できるのです。

 

前回紹介した「複業」でもそうですが、これから企業は優秀な人材を取り合うようになるでしょう。

 

そうすると、興味・強みのある分野だけで勝負できる柔軟なジョブシェアリングは、企業にとっても「優秀な人材を繋ぎとめる働き方のひとつ」として認識されるかもしれません。

ジョブシェアリングで可能になる生き方

もう少し、ジョブシェアリングを具体的に考えてみましょう。

 

たとえば、田中さんは妊娠し、出産のために休暇を取りました。その間、田中さんの穴を埋めるために佐藤さんが契約社員として雇われました。

 

田中さんは出産を終えて仕事に復帰したいとは思っているものの、子どもがまだ小さいので、フルタイムでの勤務をためらっています。一方の佐藤さんは小学校に通う子どもがいるのでフルタイムでの勤務はむずかしいのでは、でも仕事がないと困るし……と悩んでいました。

 

そこで、ふたりが一人分の仕事を分け合うジョブシェアリングをすることにしました。

 

ふたりは綿密に連絡をとり、学校の行事や子どもの様子に合わせてうまく連携し、子育てと仕事の両立を試みます。

 

わたしのまわりには「趣味のダイビングをしたいからフリーターのままでいる」「アイドルのおっかけをしているから、ツアーに動向できるようにバイトと日雇い労働をメインにしている」という人もいます。

 

そういった人に、ジョブシェアリングはうってつけです。ジョブシェアリングでは単純に労働時間が減るので給料が下がるでしょうが、ワークライフバランスを優先させるのであれば、労働時間がフレキシブルであることは大きな魅力となります。

 

企業としても、ひとり分のコストでふたり雇うことができるので、多彩な人材を集められます。子育てと仕事の両立をしたい女性も積極的に採用することができるのです。

働き方は労働者が決めるもの

柔軟な働き方を可能にしようと試行錯誤しているオランダでは、1年以上働いていれば、労働時間の延長や短縮を申請することができます。

 

たとえば15時で帰りたいだとか、週休3日にしたいだとか、そういった希望を正式に出し、認められれば希望通りの働き方が可能になります。労働時間を決めるのは会社ではなく自分自身、という裁量権を認めているのです。

 

そういった柔軟さがあれば、ジョブシェアリングなどの新しい働き方も推進しやすいでしょう。

 

一方日本では、「労働者が働き方を決める」よりも、「企業が労働者の働き方を決める」という認識が根付いています。

 

そのため、オランダのように「働き方は労働者が決めるもの」という考えを前提とした働き方改革はむずかしいのが事実です。

 

それでも労働力を増やすためには、その人に合った働き方の選択を可能にしていかなくてはなりません。

 

特に日本では、女性が妊娠・出産後に仕事復帰しづらく、いまだに子育てが女性メインになっています。労働時間を調整できるジョブシェアリングによって、女性は子育てしながらでも働きやすくなるでしょう。

 

ジョブシェアリングの波が広がれば、もっと能動的に自分のキャリアやワークライフバランスについて考える男性も増えるはずです。

 

共働きが進んでいるうえ、ひとりひとりの負担が大きく長時間労働につながりやすい日本にこそ、ジョブシェアリングという働き方が必要かもしれません。

 

取材・記事制作/雨宮 紫苑