前回、ジョブ型とメンバーシップ型のちがいについて言及しました。今回はもう少し具体的に、「ジョブ型雇用」が実際どんな感じなのかを紹介します。

 

わたしは日本で大学を卒業し、その後ドイツに移住しました。ジョブ型であるドイツで就職活動をし、実際に働いていました。

 

ジョブ型の一例であるドイツでの経験をもとに、日本がジョブ型に移行できるのかどうかについて、現実的に考えていきましょう。

「新卒」という概念がないジョブ型雇用

ジョブ型で就職活動をする場合、新卒一括採用がなく、欠員補充が一般的です。つまり学生は、自分が就職したい時期に自ら企業に連絡するのです。

 

たとえば「保険会社の経理」に欠員が出た場合、企業は「経理の仕事ができる人」を募集します。管理職の募集では職歴を求められますが、そうでない場合は新卒(大学卒業予定の職歴がない学生)や3年間経理の仕事をしていた人などの区別はありません。

 

こういった仕組みの就職活動なので、学生も即戦力になっておかなければなりません。そのため、若者はインターンシップをしたり職業教育を受けたりして、即戦力になるように努力するのです。

 

わたしが就職活動するときは、いろいろな企業の「採用」ページを調べて、自分がやりたい仕事に空きポストがある企業を探しました。そして連絡をしてアポイントメントを取って面接、といった流れです。

 

ドイツでは大学の専攻や職業教育が重視されるので、応募の段階で「○○を大学で専攻、もしくは職業教育をした経験」が求められることが多いです。

 

面接では長所や短所、将来の展望や趣味など、日本でもよくある質問をされました。日本とはちがうと思ったのは、「なにができるか」という質問と、「給料はいくらほしいか」という質問です。

 

ジョブ型では欠員補充・即戦力採用の前提があるため、「その人がなにをできるか」に注目します。大学で何を専攻し、何を学び、何ができるのか。ここで「わたしはこういうことができます」としっかりアピールしなくてはいけません。

 

また、日本のような一括採用ではないので、給料も「初任給」のように決まってはいません。面接で自分からいくらほしいのか伝え、交渉することとなります。

ジョブ型とメンバーシップ型の働き方のちがい

採用が決まると、職務記述書を作成して互いがサインをします。労働契約書のようなものですが、職務記述書には勤務地や労働時間、仕事の内容や有給休暇取得、病欠の扱いなど、待遇に関して細かく書かれています。

 

すでに仕事内容が明確な欠員補充式だからできることで、労働者と企業がそれぞれ責任と義務を確認しあうのです。

 

この職務記述書がある限り、企業の都合で勝手に人事異動や転勤を命じることはできません。

 

また、仕事内容が決まっているため、雇用契約を更新しない限りは同じ仕事をすることが前提となります。同じ仕事で難易度が上がっていくことはありますが、職務自体が勝手に変わったり、自動的に昇進する、ということはまずありません。

 

また、給料体系も異なります。

 

日本では「人」の職務遂行能力で給料が決まるので、年次が上がれば給料が上がりますし、担当部署を異動しても給料の連続性が保たれます。

 

一方ジョブ型では仕事に対して値段が決まっているので、仕事内容が変わらなければ給料も上がりません。もし部署を異動することになったら、キャリアをイチからはじめることになります。

日本でジョブ型雇用への移行は可能なのか

ジョブ型は、メンバーシップ型の日本と大きくちがいます。というより、世界の多くの国ではジョブ型を前提として機能しているので、日本が特殊といえるでしょう。

 

特殊なのが悪いわけではありませんが、グローバル化が進むなかで、日本の労働環境の特殊さは時にデメリットになります。新卒一括採用では海外の人材を採用することがむずかしいですし、日本に興味を持っている外国人も、労働制度にちがいによって敬遠するかもしれません。

 

長時間労働の問題が注目されるようになってメンバーシップ型の欠点に注目されるようになってきました。そして現在、「日本もジョブ型に移行しよう」という声が大きくなっています。

 

ジョブ型に完全移行するとなると、職業教育の制度が整えること、新卒一括採用から欠員補充型にすること、給料体系を変えることなど、根本的な改革が必要になります。そのために、労働環境だけではなく、教育制度や社会制度自体を変えなくてはなりません。

 

一朝一夕でできることではありませんし、企業としても、ジョブ型に移行する大きなメリットがなければ体制を変えることに魅力を感じないでしょう。

 

そのため、前回提案した「ほどほどキャリア」のように、メンバーシップ型は残しつつジョブ型雇用のかたちで働けるもうひとつの道を作っていく方が、現実的です。

 

たとえば、すでにスキルを持っている人を、仕事内容や勤務地、勤務時間を限定したジョブ型の働き方で雇用する。仕事内容が明確ならば副業や複業しやすいので、新しい働き方の導入も進みます。

 

日本はメンバーシップ型なので、ほかのジョブ型の国と同じような働き方改革をすることは、無理があります。

 

いまの働き方はそのままにしておき、もう1つの選択肢として、新しい働き方を視野に入れたジョブ型雇用を進めていくといいのではないでしょうか。

 

取材・記事制作/雨宮 紫苑