前回の『海外で生活するフリーランスとして「フリーランス」を振り返る〜【どこが違う?日本と欧州の働き方】第11回』は、フリーランスとして活動しているわたしの仕事模様についてお伝えしました。フリーランサーは、これからの日本の経済を担う有用な人材になるのでしょうか。また、企業や社会は、フリーランサーを受け入れるのでしょうか。
今回はイギリスのフリーランサーを取り巻く環境を踏まえ、日本とイギリスの「フリーランス」に対するイメージのちがいを比較していきましょう。
二極化するフリーランス
フリーランスになるためには、弁護士や行政書士などの特殊な分野を除き、資格や許可は必要ありません。
「わたしはフリーライターです」と言った瞬間からフリーライターになれますし、「わたしはフリープログラマーです」と言えば、プログラムなんてなにも知らなくてもフリープログラマーになれるのです。
「だれでも名乗れる」という点では、フリーランスへの入り口はとても広いといえます。ですがそのぶん、稼げる人と稼げない人が二極化しやすいのも事実です。
だれでもフリーランスを名乗れるため、クライアントが「この人は本当に実力があるのか」と心配になるのは当然ですよね。
そのため、実績がない人は高単価の仕事を得る機会が少なく、安い単価で仕事を請けて量をこなすしていくしかありません。そこから順調にキャリアアップできればいいのですが、そうでない場合、低賃金で長時間労働……ということになりかねません。
一方、実力がありそれなりに有名で、固定ファンを掴んでいるフリーランサーには、依頼が集中します。
企業がフリーランサーを利用する場合、実績や知名度を重視します。自社では採用できないような人物にも、単発なら仕事依頼が可能だからです。
そうすると、やはり実績と知名度がある人に依頼したい、と思うのは、クライアントとして当然の心理です。
こういった背景があるので、フリーランスは活躍具合が極端に二極化しやすいのです。
英国でフリーランスは「魅力的&稼げる」イメージ
当サイトに、英国フリーランスの統計を紹介している記事があります。この記事を見ると、イギリスでは後者の「実力がある稼げるフリーランス」のイメージが強いようです。
英国では140万人のフリーランサーがあらゆるセクターで働いています。フリーランサーは過去10年間に14%増加しています。[……]
英国のトップクラスの学生の87%、そうでない学生の77%がフリーランス業を「非常に魅力的かつ収益性の高いキャリア」だと見なし、実際には、大学の最優秀卒業生の21% がフリーランス業に就いています。この先5年以内にフリーランス業を視野に入れていると答えた大学卒業生は全体の29%いました。
「未来の労働:欧州の独立した専門家の台頭」(”Future Working: The Rise of Europe’s Independent Professionals“)という報告書では、欧州全体のフリーランス経済は、2013年には45%増加し、EU労働市場で最も急速に成長している分野となっています。
出典元:https://nomad-journal.jp/archives/1978
イギリスで「フリーランスが魅力的」と思われる理由は、3つ挙げられるでしょう。
一つ目は、「働き方を労働者自身が決められる」こと。ワークライフ・バランスを重視するヨーロッパでは、自らの裁量で働けるフリーランスは魅力的に映ります。
二つ目は、「収益性が高い」こと。ジョブ型のヨーロッパでは、ジェネラリストよりもスペシャリストが求められます。
就職や転職の場では「自分のスキルを売り込む」ことが常識となっているので、「フリーランスはスキルを正当に評価してもらいやすい」というイメージがあるのかもしれません。
企業としても、プロジェクトごとに最適な人材を起用できるので、いいパフォーマンスをしてくれる人には十分な報酬を払うことが一般的です。そのため、スキルさえあれば高給取りになることが可能、という認識なのです。
三つ目は、いくつかの分野で活動できる点です。スペシャリストというと格好いい響きがありますが、そのぶん、自分の職種以外の仕事はできないという問題もあります。イギリスでは、企業内でちがう職種に異動することはまずありません。
たとえばプログラミングもできるし記事も書ける、という人にとって、ジョブ型の働き方では活動の範囲を限定されてしまうのです。
こういった背景があるから、イギリスをはじめヨーロッパでは、フリーランスという働き方が魅力的に思われているのではないでしょうか。
日本のフリーランス環境のこれから
日本では会社勤めが一般的なうえ、「○○社の社員」という仲間意識も強いので、プロジェクトや単発の仕事のためによそ者を雇うことに抵抗がある人も多いかもしれません。
また、以前「まとめサイト」が問題になったときは、低賃金で記事執筆の依頼をし、会社でフルタイム勤務ができない人(育児中・介護中・闘病中など)が低賃金でフリーランスとして働いていることが指摘されました。
つまり、「社員に任せるほどではない仕事」を押し付けていた、ということですね。
もちろんこういった問題は一部であり、多くのフリーランサーはクライアントと良好な関係を築いてはいますが、日本のフリーランサーを取り巻く環境はまだまだ発展途中です。
日本はまだ「フリーランスは不安定で社会的立場が低い」というイメージがあり、事実そうなのですが、それはフリーランスの一面にしかすぎません。
稼げるスキルがあり、それを評価してくれるクライアントと出会えれば、フリーランスという働き方はとても魅力的なものなのです。
フリーランスという働き方がもっと理解され、企業が積極的に評価する社会になっていけば、フリーランスの可能性はもっと広がっていくでしょう。
手に職があり、特定の分野に特化したスキルを持っている方は、フリーランスという働き方を視野に入れてみるのもいいかもしれません。
取材・記事制作/雨宮 紫苑