以下は、世界経済フォーラム(World Economic Forum)調べのビジネスモデルに変化を与える要因を表したグラフです。これらの要因の中で一段と際立っているのが「仕事の性質の変化、フレキシブルワーク」。そのインパクトは2015年以降(青色部分)、かなり感じられている(濃い青色部分)ようです。
フレキシブルワークとは「雇用者が一日の労働時間数や、従業員全員が出勤すべきコアタイムを決めるなどの権限を保ちつつ、労働者が自らのスケジュールをある程度コーディネートできるワークスタイル」だと一般的に定義づけられています。これには在宅勤務、時短勤務、リモートワーク、フリーランスなどが含まれます。
ビジネスに特化したSNS、LinkedInの資料による以下の棒グラフは、フリーランサー(濃い青色)やビジネスオーナー(青色)が経済に占める割合を示しています。(数字はLinkedInメンバーが占める割合)フリーランサーやビジネスオーナーの多い国から順番に米国、イタリア、カナダ、ギリシャ、オーストラリア、英国、イスラエルなどとなっています。
このように今や見逃せないビジネスモデルとなった、世界のフレキシブルワークについて探ってみたいのですが、あいにく世界的にまとめられた調査結果がありませんので、地域ごとの統計を見ていくことにしましょう。まずは欧州からです。
欧州の事情
欧州連合統計局(Eurostat)は、欧州連合(EC)28か国のパートタイム労働者が、労働者全体に占める割合を発表しています。
欧州連合全体で、パートタイムを主な仕事とする20~64歳の労働者の割合は、2005年から2015年の10年間に、16.5%から19.0%へ増加しています。パートタイム労働者の割合が一番高い国はオランダ(46.9%)で、それに続くオーストリア、ドイツ、ベルギー、英国、スウェーデン、アイルランド、デンマークの各国でも労働者全体の20%以上を占めています。
パートタイムの雇用が少ないブルガリア(雇用者の2.2%)、チェコ、スロバキア、ハンガリー、クロアチア(それぞれ5.2%から5.9%の間)でも、クロアチア以外はこの10年間に何らかの増加を見せています。
また女性のパートタイム労働者数は、男性よりもはるかに多く、2015年には20~64歳の女性の31.5%がパートタイムで働いたのに対し、男性のパートタイム労働者はわずか8.2%でした。同年、パートタイムで働いた女性の割合が一番高かったのはオランダの75.3%で、4人に3人の女性がパートタイムで雇用されていたことになります。
英国フリーランスの統計
英国のフリーランス事情を取り上げて見てみましょう。英国では140万人のフリーランサーがあらゆるセクターで働いています。フリーランサーは過去10年間に14%増加しています。
英国人全体の中で、フリーランスはワークライフバランスを与えてくれると思う人は78%、家庭生活にポジティブな影響を与えると考える人は72%います。
英国のトップクラスの学生の87%、そうでない学生の77%がフリーランス業を「非常に魅力的かつ収益性の高いキャリア」だと見なし、実際には、大学の最優秀卒業生の21% がフリーランス業に就いています。この先5年以内にフリーランス業を視野に入れていると答えた大学卒業生は全体の29%いました。
フリーランスの利点については、大学卒業者の69%が「フレキシビリティ」を最大の利点だとし、39%が「バラエティのある異なったプロジェクトで分野を問わずに働けること」だとしています。一般的に英国人はフリーランスを好意的に見ており、英国のフリーランス経済は発展を続けています。
「未来の労働:欧州の独立した専門家の台頭」(”Future Working: The Rise of Europe’s Independent Professionals“)という報告書では、欧州全体のフリーランス経済は、2013年には45%増加し、EU労働市場で最も急速に成長している分野となっています。
米国の事情
次に米労働統計局の2016年の統計を見てみましょう。米国の全労働者のうち、パートタイム労働者の占める割合は18.62%。これは欧州の19.0%と酷似した数字です。
フリーランスについては、the 2016 Freelancing in America reportが、米国の全労働者の35%に当たる5,500万人がフリーランスとして働いていると報告。そのうちの63%が自らの希望でフリーランスを選んだとしています。
米国では最近、contractor(コントラクタ、契約労働者)という言葉がよく聞かれます。シェアエコノミーの代名詞であるUberでは、2,000名の従業員に対して、契約ドライバーの数は16万人。このような契約労働者主体の企業はほかにもたくさんあり、米国税庁の個人事業主向け申請書フォーム1099から「1099エコノミー」という言葉も生まれています。
契約労働者に業務を委託する動きは一般の大企業から中小企業にも広がっており、Microsoftでは個人契約ワーカーが従業員全体の3分の2近くを占めています。
日本のフリーランス事情
日本の大手クラウドワークサイトのランサーズによる「フリーランス実態調査」は、日本のフリーランス人口が前年度対比で17%増加し、1,064万人に達したと告げています。現在日本では7人に1人がオンラインで何らかの仕事を受注しており、景気を反映してか、副業系パラレルワーカーの増加が前年の3倍近くと目立っています。
安定性か、柔軟な働き方か
フレキシブルワークの台頭で、「一人の労働者が複数企業の仕事を請け負って働くこと」が近い将来の主流ワークスタイルになるだろうという予想は、欧米ではすでに何年も前からありました。たしかに企業が個人ワーカーと直接契約して業務を委託する形態には、双方に利点があります。
ランサーズのようなプラットフォームを利用すれば、個人の仕事請負人にとってこれまで困難だった仕事の獲得も容易になり、企業側も必要に応じて、必要な数の人材にアクセスすることができます。
このようなワークスタイルが可能になったことで、働き方への価値観にも変化が現れてきました。現代の労働者の中には伝統的な9時~5時の勤務よりも、柔軟な働き方や自主性により価値を置く人が増えてきています。
労働者のセーフティネット
企業勤務からフリーランスに切り替えたいと考える労働者の最後の障壁は、経済的な安定性の問題でしょう。米国では医療保険制度の改革(Affordable Care Act)が、雇用主に頼ることなく健康保険を得られるという改革で、多くの人の自立を助けています。正規雇用者にあるような法的保護の少ない個人労働者を助ける保険サービスや、Freelancers Unionのようなサポートコミュニティも生まれています。そして5年先には米国労働者の40%以上が個人ワーカーになるだろうと予測されています。
まとめ
先進諸国では、労働と個人生活への価値観が確実に変化しつつあります。テクノロジーの進歩で技術的には私たちはすでに、個人に見合った働き方をデザインできるようになっています。
しかし日本でより多くの人が自分の望む働き方を実現するためには、米国にあるような個人労働者の生活をサポートする法的保護の施行が必要です。
また上記のようなマッチングサイトでは、労働力を格安に買い叩く傾向も見られています。これにも最低料金を設定するなどの、ダンピング防止の対策が早急に必要でしょう。
記事制作/シャヴィット・コハヴ (Shavit Kokhav)
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