昨年初め、産後の有給休暇を現行の12週間から26週間へ伸ばそうというインド政府の意向を受けて、英国BBCが取材したビデオがあります。そこに映し出されるのは、産後のインドの女性たち。3カ月の産休後に職場復帰するのは周囲の助けなしには無理という、日本にも見られる光景です。

このビデオによるとインドの12週間のほかに、産休は英国では39週間(うち最初の6週間が給与の90%の有給)、中国の14週間(少なくとも会社の平均給与並みの有給)、米国の(雇用者に支払い義務なしの)12週間となっています。ちなみに日本では、子供が1歳になるまで育児休業法で定められた育児休暇を取ることできます。

女性労働力の縮小

インドでは現代史上初めて、女性の労働参加率が低下し、労働力に占める女性の総数も減少しています。

- 2004年から2012年までに、仕事を辞めたインド女性は約2千万人。
- 働く女性の労働率は1993年の42%から、2012年には31%に低下した。
- 女性労働率の落ち込み全体の53%が、15~24歳の農村部に住む女性で占められている。
- 農村部では女性の労働率が2004年の49%から、2010年には37.8%に低下した。
- 2004年から2010年の間に2千400万人以上の男性が労働力に加わったが、女性労働者の数は2千170万人減少した。

これらはインド女性の労働力への参加率の下落を示す数字です。

女性の労働参加の低い国

インドはもともと、女性の労働参加率の低い国として知られています。国際労働機関(ILO)は2013年にインドを131カ国中121番にランクし、女性の労働への参加が世界で最も低い国の一つと評価しています。
インド女性の職場離れは不況のせいなのかと言えば、そうではありません。インド経済は着実に成長しています。この経済成長の中で、インド女性の労働力の減少はどうして起こっているのでしょうか。世界銀行の研究チームは、インド政府の全国調査機関(NSSO)のデータや国勢調査から、原因の解明に乗り出しています。

労働参加の低さが意味すること

女性の労働参加率の低さには2つの面があります。1つは 就職しようとする女性の総数が減っていること。もう1つは 働く女性の離職率が高いことです。

職場へ妊娠を伝えた女性ジャーナリストが、その1か月後に「業務成績が悪い」ことを理由に解雇通知を受け取ったという事例があります。妊娠中の解雇は不法だと彼女は裁判に持ち込みましたが、法律で定められている「3か月の産休と元の職場に復帰する権利」を無視されても、たいていのインド女性は泣き寝入りで、離職に追い込まれます。

首都デリーとその近郊の1千人を対象に行われた調査では、出産後も仕事を続ける既婚女性は、全体のわずか18~34%。インドでは伝統的に「子育ては女性がするもの」と見なされており、育児の分担やイクメンという先進諸国のコンセプトは見られません。この伝統の深さを、女性議員で実業家のアヌ・アジャ氏は、「産後に職場復帰する女性は、仕事でどんなに成功しても、後ろめたさからは逃れられない」と表現しています。

これに加え、職場では男性の仕事が尊重される傾向があり、産後復帰した女性は長時間勤務ができないために、重要でない仕事に格下げされるケースがほとんどです。職場での男女の格差は、どんなトップ企業でも乗り越えられていません。そして男性労働者は有り余るほどいるのです。

インド女性の離職率の高さは、結婚、母性、男女間の不平等と偏見、家父長制などの社会規範に強く起因しているようです。

もう1つの理由

しかし原因はそれだけでしょうか。結婚は女性の労働力への参加率に確実に影響を与えます。都市部では未婚女性の労働力参加率が、既婚女性のそれを明らかに上回っています。しかしこの状況は、農村部では逆転しているのです。

研究者たちは、女性労働率の落ち込みが農村部で著しいことに注目し、女性の「願望の上昇」と「相対的な繁栄」が仕事離れの原因ではないかと考察しています。

労働力への参加率と教育参加率(若い女性の就学率)を見ると、「農村部の女性」と「15~24歳の女性」の労働参加率の低下には、昨今の高等教育の広がりと、社会規範の急速な変化で 「早期に就職するより、高等教育を受けよう」とする女性が増えていることが原因ではないかと考えられるのです。

「子供を学校に送る」ことで、所得の変化が大きく期待されるのは貧困層です。また、定職に就いている男性の賃金が上がって家計が安定すると、女性は仕事を失うことになります。家計の所得の改善が、女性が職場で働くことを阻害するのは少し皮肉なことですが。

若い女性たちが労働から身を引くのは高等教育を受けるためとはいえ、それが将来の彼女たちの就業を保証するものではありません。「女性の教育成果のレベルと労働参加率の関係」の調査では、高校レベルの教育を受けただけでは、労働者としての付加価値はつかないという結論が出ています。

まとめ

インドの近隣諸国では、中国の女性労働率が2004年の68%から、2012年には64%に低下しているものの、労働参加率はインドと比べてはるかに高くなっています。スリランカにも女性の労働参加率の低下は見られますが、それはわずか2%にとどまっています。

短期間での急激な低下で、インドの女性の仕事離れは際立っています。多くの女性が都会での就業にシフトしているインドでは、農村部の労働市場が、女性やその家族に受け入れられる、魅力的な雇用を提供する必要があるのは明らかです。

どちらにしても女性や男性の仕事への社会的規範が変わらない限り、インド女性の仕事離れはこの先も改善されることはなさそうです。

記事制作/シャヴィット・コハヴ (Shavit Kokhav)

ノマドジャーナル編集部
専門家と1時間相談できるサービスX-bookを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。