2015年に8兆ドル(約892兆1千億円)の製品とサービスを生産したインドは、今日世界第4位の経済国です。しかしインドが上位3位の中国(19.5兆ドル)、EU(19.2兆ドル)、米国(17.9兆ドル)に追いつくためには、まだ長い道のりがありそうです。

不況にもかかわらず成長率は2014、2015年に7.3%、2013年は6.9%と、インドはこれまで急成長を遂げてきました。過去10年間で貧困率も10%下がっています。

インドの経済は、労働者の半数が伝統的な農業に依存し、3分の1がサービス産業に雇用されている複合経済です。この国の経済が市場経済に向かって成長しつつあることが、サービス産業部門に国の生産高の3分の2を上げさせています。

インターネットが大役を務めたインドの経済改革

1990年代以降、インドは複数の産業規制を緩和し、多くの国営企業を民営化し、外国直接投資への扉も開いています。この経済改革を経てインドはグローバリゼーションと国際経済統合の新時代を迎え、1993年から2002年にかけて年間6%以上の経済成長を達成しました。この経済改革の一部は、国内の大幅なインターネットの利用に起因しています。

インドの情報技術は、ITサービスとビジネスプロセス・アウトソーシング(BPO)の主な2要素からなっています。この分野はインドのGDPを1998年の1.2%から、2012年には7.5%にまで引き上げるのに貢献してきました。NASSCOMによると、この部門が2015年に上げた収入は1,470億ドル(約16兆392億円=輸出収入990億ドル、国内収入480億ドル)で、成長率は13%です。

2014年5月に選出された、敏腕なビジネスマンであるナレンドラ・モディ首相は「Digital India」というプロジェクトを掲げ、インド内外におけるITの地位の確保に努めています。

2016年3月モディ首相は、ハイテク企業の立ち上げを促進するために15億ドル(約1,672億円)の資金調達と減税を決めました。このプログラムは特許出願と投資を合理化し、これによって今後5年間でインドのスタートアップは11,500社へと倍増する見込みです。

IT 産業開発の成功

情報技術とビジネスプロセス・アウトソーシングは急速に成長し、これらの生産高は2000年のGDP構成比の3分の1を占めるまでなりました。インドのIT部門の成長は、英会話に精通し、高度に熟練されて専門に特化した労働者が低賃金で働くことに起因していると言われています。

インドのアウトソーシング・サービスは外国の消費者から引く手あまたで、この数年シリコンバレーにも多くのインド人IT労働者が見られるようになりました。

経済開発のもう一つの可能性

世界最大かつ急速に成長する2経済である中国とインドの緊密なパートナーシップを表す言葉に、Chindia(China + India)があります。両国合わせて世界人口の3分の1を占めるChindiaには、グローバル経済で巨大な経済大国に成長しうる可能性が十分に秘められています。

両国はともに急成長しているだけでなく、相補的な経済を持っています。インドには原材料があり、中国には製造力があります。インドはハイテクを持ち、中国にはそれを使うビジネスと消費者がいます。

しかし両国はまた共通の国境に由来する長年にわたる貿易紛争や、インドの敵であるパキスタンと中国が親交を保っているという問題も抱えています。現在航空路線はほとんどなく、ビザも遅れがちです。しかし両者はこのパートナーシップの潜在的な利点を十分理解しており、どんな貿易協定もChindiaへの好ましい一歩と見なされています。

インドのIT労働者の試練

これまでIT部門の開発に成功してきたインドですが、ここに来て困った問題が起こっています。米国トランプ政権の外国人労働者へのビザ政策の変更と、オートメーション化の波が、IT労働者の将来を脅かしているのです。

この影響をもろに受けるのが、インドに140万人近くいると言われる8~12年のキャリアを持つ中間層のIT労働者です。10年ぐらいの経験を持った労働者のしている仕事は、この先機械に取って代わられるだろうと予想されるからです。

実際に、Capgeminiでは、IBMのワトソンをプロジェクトに使っていますし、機械学習をプロジェクトマネジャーの意思決定の補助に導入している会社もあります。Tech Mahindraのように6年以上勤めた労働者の給料改定を、評価・格付けまで凍結させるところも出てきています。

若いエンジニアの方がより良い技術を見つけ出せるという理由から、経験労働者に代わって、入社初年のエンジニアを顧客へ派遣する企業もあります。デジタル・ネイティブの若者たちは大量に技術を使いこなしてきているため、顧客のデジタルニーズをより良く理解し、対応も早く、技術的にも高いと言われています。

労働力を再訓練するためにインドのIT企業は多くの費用をつぎ込んでいますが、オートメーションの波を一番受けやすい中間層のIT労働者が、一番再教育を受け入れにくい層であることも否定できません。これまでIT部門におけるキャリアの進歩が、学ばれた新技術によってではなく、仕事に導入された人員数で測られてきたことにも、中間層の労働者が変わろうとしない一因があると専門家は見ています。

いずれにしても、インド経済の担い手であるIT労働者たちが、この先ますます新技術の吸収とレベルアップを余儀なくされていくことは確実なようです。

記事制作/シャヴィット・コハヴ (Shavit Kokhav)

ノマドジャーナル編集部
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