イスラエルは日本の四国ほどの面積に、東京都よりも少ない人口を持つ中東の小国です。しかし昨今この国は、「スタートアップ大国」として世界の注目を集めつつあります。
特に、人工知能(AI)、世界中に広まるサイバー攻撃に対抗するサイバーセキュリティ技術、医療や農業分野のバイオテクノロジー、癌の新しい治療法の開発や、パーキンソン病・アルツハイマー病克服のための技術、記憶の回復や、睡眠中の夢の撮影など、人間の脳関係の研究にも大きな成果を上げています。
海水を真水に変えて飲料水にしたり、水のない砂漠を緑に変えて盛んに行われている農業で、イスラエルの自国自給度はほぼ100パーセント。これは日本の10倍です。
中東の小国にこれだけハイテクが発達した理由について、今回は現地の起業家、投資家、ビジネスコーディネータへのインタビューから探ってみたいと思います。
「イスラエルが自分を待っていてくれた」榊原健太郎氏
榊原健太郎氏(サムライインキュベート提供)
2014年5月にイスラエルへ進出し、今では日本とイスラエル間のビジネスの主要窓口的存在となった、日本のサムライインキュベート代表取締役の榊原健太郎氏は、これまでに現地の30社のスタートアップ企業への投資を完了。現在は次のフェーズのための新しいファンド作りの最中ですが、これにはすでに日本の大手企業も参加を見込んでいるそうです。
「この3年間で、日本のイスラエルへの理解度はずいぶん増しました。最初は中東ひとまとめで危険な場所とだけ思われていたのですが、2015年1月の安倍首相のイスラエル訪問以降、両国間のビジネスは急速に発展しています。日本の民間企業のイスラエルへの投資額は2011年に3億円だったものが、2015年には52億、2016年は222億円あったことがわかっています。」
これらは日本とイスラエル間のビジネスが驚くべきスピードで成長していることを示す数字ですが、榊原氏は続けます。「それでも日本のR&Dは現地にほとんどできていません。例えばイスラエルでは日本車がたくさん売れていますが、R&Dはまだまだこれからなんです。」
起業家はこの状況をどう見ているか
昨年エネルギー部門のスタートアップSensoLeakを立ち上げた、イスラエルでも珍しい若手女性起業家のショシ・カガノフスキーさんも、「今イスラエルには、アメリカ、韓国、中国などのR&Dセンターがたくさんできていますが、日本のR&Dはあまり見かけません。日本もこの辺りで早く目を覚まさないと、革新的なイスラエルの新技術はみんな中国に買い占められてしまいますよ」と警告しています。
ショシ・カガノフスキー氏(SensoLeak提供)
カガノフスキーさんの言う通り、これまで新技術のノウハウと新市場の開拓を目指して米国をメインターゲットとしてきた中国は、米国の規制の引き締めの始まった昨年末以降、イスラエルへの投資を10倍以上拡大し、インターネット、サイバーセキュリティ、医療デバイス分野のスタートアップに現在165億ドル(約1兆8,359億円)の投資をしています。
周囲を敵国に囲まれ、しかも資源のないイスラエルには、技術の開発で世界と勝負していく必要があります。また言うまでもなく、国からの厚い援助が、この国が先進技術を開発できる土壌を創り出しています。しかしそれだけではありません。防衛のために若者全員に課せられている義務兵役中にコンピュータ技術を学んだ若者のうちの秀でた者が、兵役後に数人集まってはスタートアップ企業を次々と創り出しているのです。
これらの若者には技術だけでなく、独創的な発想の素質もあるようです。そういった素質はいったいどこで養われるのでしょうか。
日本人とイスラエル人の大きな違い
デロール・ロテル氏(I.J.ビジネス道 提供)
メンタリティもマナーも大きく異なる日本とイスラエル間のビジネスを取り持つ、I.J.ビジネス道社のビジネスコーディネータ、デロール・ロテル氏はこう解説します。「日本のビジネスパーソンには、失敗を恐れる気持ちが常に強く働いているように見えます。ですからどんなことでも、十二分に下調べをしてから動きます。イスラエル人は失敗を恐れません。むしろ色々失敗して、そこから学ぼうという考え方をするんです。」
現在イスラエルにこれだけ多くのスタートアップが生まれているのは、「日本人のように許可をもとめてから行動するのではなく、まず起業してしまうからだ」とデロール氏は説明します。
まとめ
国からの支援が厚く、日常茶飯事的に若者の起業が見られるイスラエルとは逆に、日本に起業の文化が育ちにくいことについて榊原氏は、一般的に日本人は企業勤めに向いている国民だからと分析します。「日本でも起業家が増えて欲しいと思う反面、だれもが起業すればいいというものではありません。大企業の中で活躍すれば、スタートアップよりもはるかに大きく物事を動かせるわけですから、必ずしも起業をする必要はないのではないでしょうか。」
また「もし日本企業がイスラエルと取引することを考えるなら、世界の最先端技術と提携することです。イスラエルが提供する先進技術を活用して作る新製品は、20年先の市場も視野に入れることができますよ」と榊原氏は勧めています。
記事制作/シャヴィット・コハヴ (Shavit Kokhav)
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