2009年以降南欧のギリシャは常に債務危機、経済危機、ユーロ圏危機、移民危機の同義語となってきました。2008年〜2015年にギリシャのGDPは27.3%減少し、平均失業率は2008年の7.8%から、2015年には24.9%に上昇しています。(この失業者数には失業給付を受ける資格のない自営業者は含まれていません。)中でも女性と若者の失業率が特に高くなっています。
失業率の高さと経済の不安定は、ギリシャ人の心と生活に悪影響を与えています。欧州でも労働時間の長いギリシャ人がワークライフバランスを実現しようとしたら、それこそ大変な努力を払わなければならないと言われますが、実情では仕事がある人はまだ幸せなのです。
失業者があちこちに
2009年~2012年までにギリシャ企業の4分の1が倒産し、小企業の半数は給料を支払えなくなりました。2016年の最初の7ヶ月間に倒産した企業は19,056社に及んでいます。
銀行も信用を失い、2012年当時預金額のほぼ3分の1は既に引き出されており、銀行を信じるよりも、床下にお金を埋めた方が安全だという声が聞かれています。
それでも健康保険に力を入れる政府
このような中でギリシャ政府が最優先課題としているのが、医療制度の改革です。国民の満足度は見られていませんが、世界保健機関(WHO)はギリシャを世界最高の医療制度のある国の一つと位置づけています。医療費は欧州連合(EU)諸国の中で最も低く、このシステムは国民健康システム(EOPPY-IKA)他、さまざまな社会保険基金で構成され、公的にも私的にも資金提供されています。
経済難ゆえの少子化
少子化傾向が米国や欧州全体に広まる中、南欧は世界で一番出生率の低い地域になりつつあります。2008年以降のギリシャでも、子供は1人か皆無。ギリシャ、スペイン、イタリアでは、1970年代生まれの女性の約5分の1が子供を持たないだろうという人口統計もあります。
出生率が上がらないまま縮小された労働力で他国と競わなければならないギリシャでは、年金や福祉システムへのしわよせが嵩み、経済成長はとうてい望めません。
育児手当は、フランスが第2子から子供1人当たり130ユーロ(約15,100円)の月額家族給付を支給しているのに対して、ギリシャではわずか40ユーロ(約4,600円)。本来ならサポートしてくれるはずの祖父母も、年金の引き下げでそれができなくなっています。親族内のセーフティネットもここでは働きません。
若い頭脳の流出
ギリシャ銀行は 2008〜2015年に42万7,000人がギリシャを去ったと推定しています。そのうちの大半は教育を受けた若者です。失業、不利な経済状況、専門的な勉強の機会の欠如がこの原因です。
海外からの投資
「ギリシャが債務を支払うかどうかに関わらず、他国や外資系企業は、ギリシャ政府の無力を理解して、将来的には資産を引き継ぎ、ギリシャの一部を運営するようになるだろう」と説くのは、ピレウス大学の経済学者セオドア・ペラギディス氏。
海外からの投資の具体例には、ギリシャの主要港ピレウス(Piraeus)を引き継いで、欧州への商品輸送の道筋にしようとする中国、観光インフラを含むさまざまなプロジェクトへのカタールの投資、ギリシャの島々を裕福な退職者向け高級住宅に変えようする欧州からの投資などがあります。
緊縮財政計画
長期不況の震源地として欧州の基盤を脅かしてきたギリシャは、これまでにも債権者を満足させ、財政援助を注入するための緊縮財政計画で、世界的な景気の後退は回避してきました。
昨年9月には新たな緊縮財政措置を承認。これには年金の更なる引き下げや、国の債権者が監督する新しい民営化基金への主要国家資産の移転などが含まれており、ギリシャ人の生活はさらに困難になりそうです。ストライキとデモが引き続きギリシャの景観となるのは避けられそうにありません。
ギリシャ人の見方
ギリシャは経済対策で、そもそも一体何を間違ったのでしょうか。こういう質問を一般に投げかけると、さまざまな答えが返ってきます。「お金を借り過ぎて、それを賢く使わなかったからだ」という人、「ユーロへ加わったことが間違いだった」という意見もあります。これで農業人口が都会へ移動してオフィスワークを始めたために、アテネの人口は2倍になり、経済力は2分の1になったというのです。最近の調査は、アテネのホームレスが過去5年間に69%増加したことを伝えています。
まとめ
2009年以降のギリシャの複数の危機は、生活習慣の崩壊、うつ病、自殺率の上昇を招き、仕事倫理や文化、子供の教育や人々の健康にも悪影響を与えてきました。
この先、教育を受けた若者の流出を効果的に食い止める手立てや、国外で技術を身に着けた若者をギリシャへ帰還させる方法についての検討は、早急な課題と言えます。移民危機も交えた今日のギリシャの現実をより深く理解することが何よりも大切でしょう。
ギリシャの現状は困難です。ギリシャをよく知る人は、今も生き続ける人間同士のつながり、コミュニティーの感覚にひとかたの期待を寄せます。苦境の中でも何か楽観的なギリシャ人の言動からは、苦しい現実を合理的な日常の選択に合わせて調整しているのうかがわれます。しかしそれが長く続いて、この現実が新しい”正常状態”になってしまうことが、実は一番懸念されることではないでしょうか。
記事制作/シャヴィット・コハヴ (Shavit Kokhav)
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。