これまで3年間景気後退を経験してきたロシア経済が、最近、再び成長の兆しを見せていると報道されています。

ロシア経済は石油の輸出に大きく依存しており、2014年の原油価格の暴落で大きな打撃を受けました。それに加えて、ロシアがウクライナのクリミア地域を支配したことに反対する西側諸国からの経済制裁でロシアに不況が訪れ、通貨のルーブルが暴落。多くのロシア市民が耐乏生活に追い込まれました。

フード・シェアリングで不況を乗り切るロシア市民

当時の状況をよく表したビデオがあります。ここで紹介されているのは、ヴァセリーサ・クリボショコバさんという若いロシア女性。彼女はすでに2年間失業中です。この時期、ロシア市民は「フード・シェアリング」で不況をしのいでいました。クリボショコバさんがたまに行うギグタスク(短期間の仕事)の報酬は、お金の代わりに、雇い手に不要となった食料品で支払われることもあると、ビデオの中で彼女は話しています。

ある夜インターネットで知り合った女性とモスクワ郊外でおちあい、少し痛みかけた3キロのジャガイモを受け取るクリボショコバさん。彼女がいつもチェックしているインターネットには、鮮度の落ちた食料品を寄付したいという人の投稿が出ているようです。「フード・シェアリングのおかげで、今まで食べられたのに捨てていた食料を活用するようになったのは、かえって良いことだと思う」とクリボショコバさん。

手作りの豆腐を毎日モスクワ郊外の食料品店へ卸しているイエーゴ・メディエニコフさんも、週に数回収入のない人たちへおからを寄付しています。タンパク質豊富な健康食品というだけでなく、無料というのが何よりも人々に喜ばれる理由です。「フード・シェアリング」のおかげで、クリボショコバさんも彼女の病気の母親も空腹になることだけはないとナレーターは結んでいます。

不況からの回復

西欧諸国の経済制裁で、ロシアは輸入に頼るのを止めざるを得なくなりました。その結果国内の農業生産が高まり、2017年第一四半期には3年ぶりに1.4%の経済成長が見込まれるまでになったと報道されています。

経済回復を紹介した最近のビデオの冒頭では、同国が開発したツインエンジンMC-21機の輸出には、西欧ではなく、東欧やアジアの市場を視野に入れていると語られています。ロシアは西欧への依存度を減らそうとしているのです。

欧米が経済制裁を加えた時、それがロシアの国内産業の開発のきっかけとなり、それまで輸入に頼っていたものの代替え品を生産して、ロシアに輸出競争力がつくだろうという見方もたしかにありました。これを西側のアナリストや投資家たちは冷笑しましたが、少なくとも農業関連部門では、この見通しが真実であったことが実証されたことになります。

昨年のロシアの穀物総生産量は1億1900万トン。穀物の輸出量は3400万トンを超えて、世界一の穀物輸出国となりました。15年前に純輸入国だったことが信じられないほどです。

穀物の他にも、肉、テンサイ、温室栽培の野菜の生産が前年比で30%増えています。ロシアの農業部門は、石油やガスをはるかに下回ってはいるものの、武器の販売をしのいで、ロシアの輸出セクターの第2位にのし上がりました。

黒海沿岸で穀物を栽培する42歳の アンドレ・ビュルダンさんは、農場の面積を3倍に増やし、富裕な土壌から生産された小麦の量に地元政府からの賞金も獲得しました。収穫は5年前の3倍になっています。「みんな将来のことを考えるようになった。以前はその日暮らしだったのに。」彼の窓の外には新しいトラクターがラインアップされています。

農作物の輸出が成功した理由

ロシア政府は、農家への補助金も増額しています。ロシアの農業部門は、過去10年間の民間の土地売却を可能にする動きからも恩恵を受けていると言えますが、地価は依然として低いままです。

ロシア中部と南部の非常に肥沃で農業に適した地域が、地理的にトルコやエジプトなどの>大規模な北アフリカと中東の小麦輸入業者への輸出ターミナルに近いことも、農産物の輸出への大きな利点となっています。これらに加えて通貨ルーブルの暴落が、農作物の輸出価格に理想的な環境を作り出したと言えます。

まとめ

ロシアの経済回復には何よりももちろん、原油価格の回復が大きく貢献しています。

カメラに映し出される、不景気を静かに乗り切るロシア市民の姿。西側の経済制裁はロシアに一撃も加えなかったことを印象付けようとする公式報道。

実際には、西欧の経済制裁が果たした役割は少なく、弱まったルーブルがロシアの輸出を後押しして輸入を押さえたというところですが、一部のアナリストたちの間からは、プーチン氏が前もって用意しておいた「ロシアを自給自足の国に造り替えようする政策」をカバーするために、この経済制裁をうまく利用したのではないかという見方も出ています。

記事制作/シャヴィット・コハヴ (Shavit Kokhav)

ノマドジャーナル編集部
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