米国の会計専門家CPA(Certified Public Accountant、公認会計士)。日本でも「グローバル企業志望者は米国公認会計士の資格を取ろう」という広告を英語学習のテキストで目にすることがありますが、米国企業にとって、会計士を雇うことは現在とても難しくなっています。十分な会計士がいないのです。

ヘルスケア関連製品会社のJohnson & Johnsonでは、昨年財務部のジュニアレベルの会計士の欠員を埋めるのに6カ月もかかったそうです。「資格のある人を見つけるのは本当に大変だ」と同社のシニアディレクター、スティーブン・リベラ氏。公認会計士は、大きな会計事務所に取られてしまうのだそうです。

米国ではファイナンスの専門家や公認会計士の不足が深刻化しており、この人手不足が組織のほかの部分にも悪影響を与えつつあります。しかしこの問題の根本原因の解明や解決に取り組む人は少ないのです。

会計士不足は自然には解消されない

米国の会計分野の成長は、2024年までに11%と見込まれています。しかし会計士の欠員補充が困難な現状は、自然に解決するものではありません。企業の採用担当者の72%が、実際に欠員を埋めるのに苦労していると述べています。会計士への需要は高く、中でも最も求められているのが経験のある専門家です。その経験とは、数年間をかけた企業での実践から育まれるものなのです。

大学で教えられている会計学は、公認会計士の初期のスキルに焦点を当てています。したがって職場訓練を受けていない会計学の卒業生と、企業の需要との間には、明らかなギャップがあります。採用担当者が欠員補充に手を焼く理由もここにあります。

PricewaterhouseCoopers会計事務所では、お抱え会計士にフレキシブルワークなどの特典を与えて、離職を減らす努力をしています。今や一般企業と会計事務所が、会計士の取り合いをしている状態。若い会計士の多くは、気に入らないことがあれば、民間企業のファイナンス部門などへ移ってしまうのだそうです。

企業が公認会計士を必要とする理由

米国の財務報告を規定する会計基準の改定が段階的に施行されるのは、2017年12月からですが、過去2年間の報告も改訂や訂正をしなければなりません。そのため多くの企業は、ルールを理解し経営陣に間違いなく守らせることのできる、既成の専門家を見つけようと四苦八苦しています。また利用できる会計士プールの縮小も、新しい規則を適用しようとしている企業に圧力をかけています。

大企業なら大きな会計事務所に仕事を外注することもできますが、企業の会計実務により注意を払い、内部基準を維持するためには、独自の会計士を抱えることが理想的なのです。

会計士の失業率の減少と、会計学専攻生の増加

米労働統計局によると、経験豊かな会計士や監査人の2016年の失業率は2.5%。これは2011年の4.2%から着実に減っています。PricewaterhouseCoopers会計事務所のように、会計士の離職を減らすために様々な特典を与える企業も増えてきています。こうして、監査やコンプライアンスマネージメントで3〜5年勤めた労働者の離職率は、2014年の26%から、20%まで下がっています。

米国公認会計士協会の調査では、2014年の大学の会計学専攻登録者数は、1993~94年期以来初めて上昇しました。

現在多くの会計事務所は、学位を取ったばかりの学生を採用しています。会計学専攻生にとってはまさに売り手市場。「会計学をあなたのキャリアにしよう!」という会計学校や会計事務所の積極的な売り込みで、大学の会計学への入学者も2012年から2016年の間に10%以上増えました。2014年に会計事務所に雇われた会計学卒業生数も43,252人と増え、2012年から7%上昇しています。

若者のメンタリティ

それなら数年先にはこの問題は解決されるのかというと、問題はそう簡単ではありません。ミレニアルズ(1980年代から2000年代初頭までに生まれた人々)は新しいテクノロジーを高く評価し、ワークライフバランスを求める世代です。就職から4年以内に職場を離れるミレニアルズは全体の3分の2と言われています。企業にとって彼らを保持することや忠誠心を育てることは容易ではありません。ミレニアルズの会計士を雇い、30年来の方法で訓練を施して保持しようとすれば、彼らの離職を促すだけです。しかしもし若い世代のメンタリティにフィットした方法に訓練を切り替えることができれば、これらの若い頭脳をファイナンスや会計分野に活用することは可能です。

短期・長期の解決策

経験を積んだ会計士の欠員を若い会計士で埋めようとする場合、スキル不足は必ず存在します。これには社内での専門部門の開発セッションや、ファイナンシャルリスクマネジャーの証明書を取らせるような訓練の機会を与えることが有効でしょう。また職場での将来の専門性の方向などについてオープンに話すことも、若い会計士に企業への忠誠心を持たせる方法と言えます。

長期的な解決策として、現在米国内のあちこちで会計士たちが高校生に会計学を教えています。これは即戦力を求めるものではありませんが、会計やファイナンスの分野を紹介して、将来の彼らのキャリアへの興味を勝ち取るのによい方法です。

まとめ

専門職労働者の不足は米国に限ったことではありません。日本にも社会の高齢化による熟練労働者の引退に、若い世代の交代が追いついていない状況があります。日本のゆとり世代の転職率は、米国のミレニアルズのそれよりは低いでしょうが、社会的なタレント不足への米国企業の取り組みから、何か私たちが参考にできるものはないでしょうか。

記事制作/シャヴィット・コハヴ (Shavit Kokhav)

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