先進国で、どこからでも働けるリモートワークや、労働者により快適な時間に働けるフレキシブルワークへの人気が高まる中、ITなどのバーチャル界ではいったい何が起こっているのでしょうか。今回は、北米で最も急成長しているタレント市場の第1位にランクインした、米国の人材マッチング企業Toptalを例にとって、バーチャル界の動きを探ってみたいと思います。

ITエンジニアと企業をつなぐToptal

Toptalは2010年に創設されたスタートアップで、世界トップレベルのフリーランス・ソフトウェアエンジニアやデザイナーを、バーチャル市場で企業に派遣しています。同社の共同創設者兼CEOのタソ・デュヴァル氏は、2015年に米経済紙Forbesで「エンタープライズテクノロジー部門の30歳以下の起業家」の一人に選ばれました。実は彼、早い時期に高校を中退しています。それは反抗期が原因の落第ではなく、とにかくソフトウェアを作りたい、コードを書きたい一心で学校の勉強がおろそかになったための落第でした。

現在、グローバルなハイテク業界は、コンスタントに新しい優秀な才能を探しています。同社は高い技術を持った労働者の不足をオンデマンドで、イスラエルなどの海外から、ビザ不要のリモートワークで米国企業に供給しています。これならトランプ新政権の政策がどう変わろうとも問題はありません。

Toptalの社員は全員リモートワーク。「4年ぐらい前までは、営業に行っても、いいビジネスモデルだが、リモーワークはうちの会社にはちょっと無理だと言われることがよくありました。でも今ではだれもがリモートで働いていますよ」とデュヴァル氏。

同社の収益は年間1億ドル(約111億3千万円)以上。クライアントには、Fortune 500(米Fortune誌が毎年発行する総収入に基づいた全米上位企業500社ランキング)に含まれるJ.P. MorganPfizer 、スタートアップのAirbnbZendeskなど数千社が含まれています。

うちは〝クラウドのシリコンバレー″を創り上げたんです。」これまでに同社と働いたエンジニアの出身地は世界120カ国に及んでいます。デュヴァル氏の見るところ、現在最も才能のあるエンジニアは、ロシアやアルゼンチンの出身だとか。これらのエンジニアには地元からの需要ももちろんありますが、たいていは大企業のある街への移動を余儀なくされます。Toptalで働けば、新しい土地へ引っ越すことなく、家から大きなプロジェクトに参加することができるのです。「もし一つの国に一人の天才が現れたら、それだけで非常に意味のあることだ」とデュヴァル氏は言います。

世界的な才能の不足

ManpowerGroupの2016-2017年グローバルな才能不足状況の調査は、2007年以降最大の世界的な才能不足を示しています。調査に参加した42,000人の雇用者のうち40%が、適切な人材の需要を埋められないでいると回答してます。

またこの調査では、IT 部門の人材不足が非常に深刻なことも明らかになっています。各国政府は、世界的なエンジニア不足への対策のイニシアティブをとってはいるのですが。

この統計の1年前(2015年)に世界経済フォーラム(World Economic Forum)サイトに掲載された記事は、調査に回答した日本の雇用者の81%、米国の雇用者の40%がそれぞれ必要部所への才能を獲得することが困難だと回答しているほか、ペルー、インド、アルゼンチン、ブラジル、トルコの企業も才能不足に大きな影響を受けていると報じています。

2008年に始まった金融危機の余波による高い失業率にもかかわらず、この才能不足は現実に起こっています。(2008年以降、6,100万人以上の職が失われたにもかかわらず。)国際労働機関(ILO)は、現在世界の失業者数はおよそ2億100万人、この数字は2019年には2億1,200万人に膨れ上がるだろうと予想しています。

世界の才能不足はなぜ起こっているのか

世界の才能不足は、ビジネスに必要とされるスキルと、利用できる才能とのミスマッチの拡大から起こっています。これには地政学的な問題や人口動向、政治的、社会的、経済的不安定性も含まれています。そこに急速な技術革新と、ますます不安定になりつつあるビジネスサイクル、特定の地理内の産業クラスターに偏った経済成長が重なって、個人にも、政府や企業にも、長期的な情報に基づいて教育や職業訓練への投資の決定を下すことが出来なくなっています。

日本のスキル不足の一端は、急速な人口の高齢化で、熟練した労働者が労働力から退き、若い世代と交代するのが間に合わない現状にあるとも分析されています。また、若者の失業率が50%を超えるスペインやギリシャのような国では、国内に仕事がないために若者が国を離れる「頭脳流出」が、スキル不足を引き起こす原因となっています。

デュヴァル氏のスタートアップは、優秀な才能の確保に悩む企業へ、適した才能をオンデマンドで供給するという需要を満たすサービスです。必要な才能が確保できなければ、企業の競争力は落ちるわけですから、これは誠に的を得たサービスだと言えるでしょう。

Toptalが生まれた背景

デュヴァル氏は、過去に小さなエンジニアリングコンサルタント会社を経営していた時、海外の同僚が、GoogleFacebookで働いている自分の知人たちと同様に優秀なことに気づきました。当時多くの米国内企業にとって、このような海外の才能とつながる道はありませんでした。折しもシリコンバレーをはじめ、欧米ではトップエンジニアへの需要が急増。Toptal はこのような雇用者の需要に新しい解決を提供するサービスとして誕生したのです。

トップ3%の才能を雇う

Toptalへの求職者は、英語や人格調査を含む、厳しい選考過程を通過しなければなりません。必要とされる英語の会話と読み書きのレベルは非常に高度です。人格調査でも情熱のある、積極性をもった個人が求められています。それらの選考の後には、技術知識と問題解決能力テストが続き、最高点で通過した者が専門分野のエキスパートの選考を経て、与えられたテストプロジェクトへと進みます。これらの全過程を通過するのは、候補者の上位3%だけです。採用後のクライアントとのマッチングは、時間のかかる履歴書やインタビューなしに、自動ソフトウェアで行われています。

まとめ

現在世界的に人員補給が難しいのは、ITエンジニアのほかにも、スキルの高いトレーダー、エンジニア、技術者、営業担当者、経理・財務スタッフ、管理/幹部役員、営業マネジャーなどだそうです。上述したように、これから先の経済状況にも産業の展開にも長期的な見通しがつかない難しさはあるものの、優れた技術にはいつも需要があるもの。国や企業は先行きを恐れずに、高い技術訓練に投資してほしいものです。

参考記事:

http://www.entrepreneur.wiki/Taso_Du_Val

記事制作/シャヴィット・コハヴ (Shavit Kokhav)

ノマドジャーナル編集部
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