世界第5位の人口を持つブラジルは、ラテンアメリカで最も多様化した経済で、リオグランデ以南は最高の株式市場の本拠地でもありうるはずです。ところが今年3月の日本貿易振興機構(JETRO)の経済動向レポートは、この国のGDP成長率が統計史上初めて2年連続マイナスを記録したと報告しています。

ブラジル経済の失速

2000年代半ばには好調だったブラジル経済は、2010年代に失速し始め、2014年にはほぼゼロ成長、2015年からはマイナス成長に陥っています。財政悪化に伴う政府の公共料金引き上げがインフレを引き起こし、これに対応するために中央銀行が急に金利を引上げたことがこの原因です。

また今日もこの国が、国有石油企業Petrobrasを含んだ汚職スキャンダルから抜け出しきれていないことも、経済の先行きを暗くしています。

このスキャンダルはブラジル初の女性大統領ディルマ・ルーセフ氏を弾劾し、後継者のミケル・テメル氏の評価も芳しくありません。パリのグローバル市場調査会社Ipsosが行った3月の世論調査では、国が間違った方向へ進んでいると考えるブラジル国民は90%、大統領の仕事に不満を抱いている人は78%いました。

Barclays Capitalのラテンアメリカ経済リストでは、ブラジルはベネズエラに続いてこの地域で最悪の状態。BarCap のアセスメントでは、2017年のブラジルの予想成長率は0.5%となっています。4月のブラジル中央銀行調査(http://www.bcb.gov.br/pec/GCI/PORT/readout/R20170413.pdf)によるGDPは0.4%ですが、3月のそれは0.48%でした。国民の9割が思うように、ブラジルが間違った方向へ向かっているのはどうやら事実のようです。

投資を続ける外資系ファンド

かつて日本企業の事業展開先として、アジア以外で一番人気のあったブラジルですが、最近では経済の停滞や不安定な政情のために、その地位をメキシコに譲っています。とはいえ、いかに経済成長が2年連続で縮小していると言っても、投資家や外資系ファンドがブラジルの資産をまったく買わないというわけではありません。

GDPの低迷は、投資家よりもむしろ地方自治体に大きな影響を与えており、10年近く上向きだった後にやってきた12%の失業率は、給与の見通しも悪化させています。

この地域の2018年の平均予想成長率は2.5%ですが、ブラジルはそれを下回る2%。これは食糧難でタンパク質補給のためにフラミンゴが捕獲されたり、動物園の動物までが食用に消費されていると伝えられるベネズエラにも劣っています。このままではブラジル経済は、ラテンアメリカで最も低迷しそうな状況です。

中南米の市民テクノロジーベンチャー

しかし暗い話題ばかりでもありません。市民テクノロジーを支持するOmidyar NetworkAvina Americasはこの冬、営利・非営利団体のテクノロジープラットフォームの開発に350万ドル(約3億9,950万円)の新規資金を提供すると発表しました。

市民テクノロジーのためのラテンアメリカ同盟(ALTEC)は、民主主義の仕組みを改善するために、市民参加の促進に影響を与えられる市民テクノロジープラットフォームに投資することを目標に掲げています。これには3月末までに10カ国から574件のプロポーザルが寄せられています。

市民テクノロジーとは何か

この同盟が定義する市民テクノロジーとは、「市民と政府がより良い方法で話し合い、市民同士が本当に必要なことについて語り合うことを可能にするプラットフォーム」であると、Omidyar Networkの投資幹部フェリッペ・エステファン氏は説明します。

この提携では、それぞれ最大15万ドル(約1,712万円)の資金と技術援助が、約20件のプロジェクトに2年以上にわたって提供される予定だそうです。

2013年にこの促進基金がラテンアメリカに開始されて以来、これまでに9カ国26のプラットフォームとアプリケーションに230万ドル(約2億6,240万円)の投資が行われてきました。その中には、アルゼンチンに本拠を置く、ブエノスアイレスのスラム街を地図化するプラットフォームCaminos de la Villaや、公衆衛生サービスに関するタイムリーな情報を提供するウルグアイのA Tu Servicioなどがあります。

近づくコロンビアやメキシコの大統領選を例に挙げ、エステファン氏は「ラテンアメリカの市民テクノロジーを奨励する時期は熟している。市民は、自国政府の運営方法に賛否を表したがっている」と語ります。

世界のどこよりもラテンアメリカに市民テクノロジーが盛んな理由については、この地域の多くの国々が2011年に結成された多国間イニシアティブであるオープンな政府のパートナーシップを採択していること、一部の国では人口よりも携帯電話の数の方が多いほど、ラテンアメリカには市民参加型経済の伝統があることを指摘しています。

まとめ

ラテンアメリカの経済を改善しようという努力は、これだけではありません。ウルグアイ政府は、長期産業発展のための国内3つ目のパルプ工場の建設へ向けて、フィンランドのUPMと交渉中ですが、すでに大方の合意に達しているそうです。最終合意に至れば、UPMの総投資額40億ドル(約4,568億円)は、GDP600億ドル(約6兆8,500億円)のウルグアイとって大きな意味を持つプロジェクトとなります。

また英国は5月をブラジル月と定め、ビジネスミーティングや文化交流を含めた「Think Brazil」を開催して、両国間の協力の促進を図っています。

このように経済状況はけして良好とは言えないものの、改善への取り組みは様々に行われており、この先ラテンアメリカの経済成長に向けて、日本からもできる援助はあるのではないかと思わされます。

記事制作/シャヴィット・コハヴ (Shavit Kokhav)

ノマドジャーナル編集部
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