最近、新しい働き方を創出すると言われている「シェアリングエコノミー」。今回はそのシェアリングエコノミーをテーマとして選んだのですが、いざ記事を書き始めようとすると、「シェアリングエコノミーは最近始まったもので、歴史といってもなにがあるのだろうか?」という内なる声に悩まされました。しかも、「シェアリングエコノミーは日本ではなじみの薄いもの」なんていう人もいました。でもちょっと待ってください。シェアリングエコノミーは本当に日本ではなじみの薄いものなんでしょうか。その疑問への答えを見つけるために歴史を辿ってみました。

歴史を辿ると見えた来たものは?

歴史を調べていくうちに上がって来たのは「長屋」「隣組制度」「生協」「民宿」です。もちろんこうしたものには、金銭が伴わないものもありますが、根幹となっている「共同=シェア」というコンセプトは現在のシェアリングエコノミーにつながるもののように思われました。では、その一つ一つを詳しく見てみましょう。

長屋生活には共同エリアがあった

長屋は江戸時代に作られた一般庶民用の住宅ですが、通りが2つ平行に並んでいたとすると、通常、家は通りに面して建てられます。これが「表店(おもてだな)」で、富裕階層用の住宅として使われていました。2つの通りに面して建てられた表店の間に建てられた住宅、これが長屋でした。表店の裏に建てられたため「裏長屋」とか「裏店(うらだな)」とも呼ばれています。

長屋に住む人は間借り人で「店子(たなご)」と呼ばれ、長屋の管理は大家が受け持っていました。長屋の各住居には風呂もトイレも付いていませんでしたから、風呂は銭湯を利用し、トイレは長屋の共同エリアに作ったものを利用していました。この共同エリアには共同の井戸やごみ置き場も設置されていました。
長屋の各世帯間の壁は薄いもので隣の世帯の声も筒抜けだったので、長屋自体がひとつの家族のようで、大家はその家族の親的存在だったとも言われています。

隣組制度のメリットとデメリット

隣組制度は、「銃後を守る体制」と言われ、第2次世界大戦の際に戦闘に参加しないで日本国内に残った主に女性たちが団結して戦争体制に備えられるようにという目的で作られた制度です。
この制度では、5軒から10軒を一つの組として組成し緊急事態に備えさせました。実際に隣組が行っていたものとしては、組員の動員、物資の提供、空襲が起きた時の防空などでしたが、世界大戦終了後2年目にアメリカの占領軍により廃止されました。ただ、隣組の考え方はその後も町内会や自治会として形を変えた状態で残っています。

現在、こうした町内会や自治会が行っているのは、募金運動への参加、地域の河川等の清掃 、地域運動会や文化祭の開催、会員の家族が亡くなった場合の葬儀のサポート、回覧板の回覧などですが、どこも会費を徴収し、その会費を使って様々な共同活動を実施しています。ただ、近年では、会費の一部を神社の維持管理費に使ったり、回覧板が選挙運動に使われたりと、問題も発生しているようです。

生活協同組合(CO-OP)の広がり

生活協同組合は、一般的にはその短縮形「生協」や「CO-OP(コープ)」の名前で知られていますが、非営利団体として発足し、共同購入を通して、質の高い商品を低価格で消費者に提供しています。

生協はもともとイギリスの産業革命時代に作られたものですが、その後世界各国に広がり、日本には1879年に「共立商社」という消費組合が東京と大阪に作られたのが始まりとされています。現在のような生協になったのは1945年です。その頃は、「日本協同組合同盟」と呼ばれており、当時は貧困者を助けるための活動を展開していました。現在の主要サービスは、物資の店舗販売および宅配ですが、それだけにとどまらず、共済、福祉、介護などの分野にも広がっています。

日本特有の宿泊施設「民宿」、そして「民泊」

最近ではシェアリングエコノミーの発達により「民泊」という言葉がよく聞かれるようになりましたが、日本には「民宿」と言うものが長い間存在しています。では民宿と民泊の違いは何なのでしょうか。民宿は一般庶民の住む、または所有する家屋を宿泊施設として正式に届け出をした宿泊施設で、繰り返し人を宿泊させて料金をチャージするビジネス形態です。一方民泊は、「一般庶民の住むまたは所有する家屋を宿泊施設」としている点では民宿と同じなのですが、民泊は登録なしで、インターネットなどに掲載し、「一時的」に人を泊め料金を取る仕組みになっています。

民泊の始まりは海外で始まったAirbnbの影響を受けたものですが、日本では特に2020年に予定されているオリンピックに向けて観光客が増大しているにもかかわらず、こうした観光客の宿泊施設が足りなくなっており、その不足を補うために政府が許可したものなのです。

日本にも昔からあった「共同=シェア」の考え方

こうして見てみると、日本でも昔から、シェアリングエコノミーのコンセプトとなっている「共同」という考え方が存在していたことがわかります。ただ、その形態は現在のシェアリングエコノミーとは少し違っています。シェアリングエコノミーは「個人が持つものや場所、空いた時間を他人のために活用することで利益を得る」ことですが、長屋の生活や隣組制度、そして生協では「利益を得ること」につながらず、「助け合い」になっています。上述したなかで「利益を得」ているのは民宿だけです。

日本特有な「公私」の考え方

このことから感じることは、日本は人と共同して生活したり活動したりすること、つまりお互いに助け合うことを好む民族ではないかということです。それは「公私」という言葉にも見られます。「公」においては感情を入れず利益の追求をしますが、「私」においては利益を生むことを悪徳と考えてしまうため、「私」の部分を利用して利益を得るシェアリングエコノミーの導入に、日本人はためらいを感じているのではないでしょうか。今後このシェアリングエコノミーがどのように日本に浸透し、日本人の働き方にどのような影響を与えていくのか興味深いところです。

記事制作/setsukotruong

ノマドジャーナル編集部
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