ベンチャーが、最初に困る点の一つが、リーガルです。契約書を読むのも不慣れなスタートアップ人材にとってなかなかハードルが高いと思われているリーガルですが、何かあってからでは遅いものの、何か起こるまで重要度もわからないので、手薄な企業もちらほら。プロに確認せずに自分でやってしまうと後々で大きな失敗につながることも大いにあります。一方で、ちょっとしたリーガルアドバイスが後々生きることもあります。

たくさんのベンチャーの事例をみてきた、AZX総合法律事務所のパートナー弁護士の長尾先生によるベンチャーでよくあるリーガル相談事例についての連載です。今回は第1回として、新規事業担当者やベンチャー経営者は必見の、サービスローンチ時に必ず必要になる「利用規約」についてのいくつかのポイントを解説していただきます。今回は中編、免責事項、権利、登録取り消し手続について解説します。

WBS砲によるサーバーダウンで損害賠償リスク?免責事項

④ 免責規定

利用規約では、サービスの内容に応じて責任を負わない範囲を明確に定めておくことが重要です。免責規定には、もちろん法的な責任をできるだけヘッジしたいという意味もあるのですが、①(iii)で述べたようにユーザーからのクレーム等に対応するという意味でも非常に重要です。自社のサービスでどのようなトラブルが起きる可能性が高いかを予想し、適切な免責規定を定めましょう。以下、いくつかの例をあげたいと思います。

まず、一般的な条項としては、サービスの中断・停止や、機器や設備の不具合に基づいて、ユーザーに生じた損害について、責任を負わない旨を定めることが考えられます。メンテナンス等の場合や、WBS砲によるサーバーダウンの場合等において、「その時間サービスが利用できないことで損害を被った!」と主張されることを避けるための規定です。特に、第三者のシステムを利用してサービス提供を行う場合には、当該第三者のシステムをコントロールすることは難しいと考えられるため、当該第三者のシステムに関して生じた損害については責任を負わない旨を定めておくことが考えられます。

SNSやC to Cのサービスにおいては、ユーザー同士の間で何らかの紛争が生じる可能性も十分に想定されます。従って、「本サービスに関連してユーザーと他のユーザーとの間において生じた紛争等については、ユーザーの責任において処理及び解決するものとし、当社はかかる事項について一切責任を負いません。」というような免責規定を定めておくことも重要です。

また、サービスが他企業のビジネス上利用されるような場合には、他企業が自己の事業において当該サービスを利用することが法令や業界団体の規則等に抵触する可能性も否定できません。例えば、広告規制のある業種については、SNSのサービスで広告とみなされる行為を行うことは法令違反の問題を生じさせる可能性があり、また、健康食品等の販売業者がSNS内で効能効果に関する発言をすることは薬機法(旧薬事法)に抵触する疑いもあります。従って、「ユーザーは、本サービスを利用することが、ユーザーに適用のある法令、業界団体の内部規則等に違反するか否かを自己の責任と費用に基づいて調査するものとし、当社は、ユーザーによる本サービスの利用が、ユーザーに適用のある法令、業界団体の内部規則等に適合することを何ら保証するものではありません。」というような免責規定を定めておいた方が安全です。

上記は一例ですので、これを参考に自社サービスにふさわしい免責規定を考えてみて下さい!

意外と「炎上」が起きやすい?!権利に関する事項

⑤ 権利に関する事項

権利に関する規定としては、サービス提供に関するソフトウェア等の知的財産権等がサービス運営者又はサービス運営者にライセンスを許諾している者に帰属する旨を確認的に規定する規定を定めることはもちろんのこと、サービス上に投稿された文章、画像及び動画等の権利の帰属及び使用許諾範囲を明確に定めておくことが重要です。

著作権を例にとると、著作物の創作を行った者が当初の著作権者となるため、ユーザーが自ら作成したコンテンツを投稿した場合、利用規約に特に規定がなければサービス運営者はかかる著作物を使用することはできないことになります。

この点、法的には、投稿されたコンテンツに関する権利がユーザーからサービス運営者に譲渡される旨を利用規約に定めることも可能なのですが、ユーザーからの反感を買い、いわゆる「炎上」が生じ、ビジネスに悪影響を及ぼす可能性もあります。特に最近ではネガティブな情報はSNS等により拡散しやすいので、ビジネスの性質上、サービス運営者に譲渡されることが正当化されやすいサービスを除いては、このような規定を定めることは避けておいた方が良いかもしれません。

とは言っても、ユーザーが投稿したコンテンツを利用したいという要望はあると考えられますので、この場合には、権利が帰属するのはユーザーとした上で、サービス運営者は、無償での使用許諾を受ける旨を利用規約に規定することが考えられます。この点、将来的にどのように投稿内容を使用するかを事前に判断するのは困難ですので、「複製、複写、改変、第三者への再許諾その他あらゆる利用を含む」などと、広く利用許諾を受けておいた方が好ましいと考えられるのですが、最近ではこのような使用許諾の規定でも「炎上」するケースが見受けられますので、会社が利用できる範囲を限定することや、又は利用規約だけでなくサービス登録の際等に目立つ場所に記載した上でより明確な形でユーザーの同意を取得しておくことなどの対応策も検討しておいた方が良いと考えます。

なお、利用規約の内容という話からは少しそれるのですが、個別にユーザーから許諾を得て投稿されたコンテンツを使用するのが「炎上」対策としては一番安全で、プライベートな性質を持つサービスの場合にはこのような対応をした方が安全かもしれません。

特に有料サービスは注意!登録取消手続の規定

⑥ 登録取消手続の規定

ユーザーがサービスから離脱したいときのためにユーザーからの登録取消しについての規定を設けておくのが一般的です。無料サービスの場合にはあまり気を使う必要性は高くないのですが、有料サービスの場合には、例えば前の月の20日までに登録取消手続を行わなければ、自動的に翌月も利用が継続する(=料金が発生する)などのルールをしっかりと定めておきましょう。

また、サービス運営者としても、利用規約に違反する等ユーザーのサービス利用を停止させる必要がある場合には、当該ユーザーの登録を取消すことができるように、サービス運営者からの登録取消しの規定を設けておくことが重要です。利用規約に違反した場合、倒産手続が開始した場合等の一般的な契約の解除事由に相当する取消事由のほか、最近のIPO審査の場面では契約や規約に反社条項が定められていることが重要であるため、ユーザーが反社会的勢力と関係を有している場合には登録を取り消すことができる旨を定めておきましょう。

次回は後編、利用規約変更について、地位の移転、消費者契約法について解説します。

《後編につづく》

専門家:長尾 卓(AZX総合法律事務所 パートナー弁護士) 
ベンチャー企業のサポートを専門としており、ビジネスモデルの法務チェック、利用規約の作成、資金調達、ストックオプションの発行、M&Aのサポート、上場審査のサポート等、ベンチャー企業のあらゆる法務に携わる。特にITベンチャーのサポートを得意とする。趣味は、バスケ、ゴルフ、お酒。
ノマドジャーナル編集部
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