経費に興味を持つ個人事業主(フリーランスなど)や副業サラリーマンは多いのではないでしょうか。領収書を経費に落とせば節税できます。言い換えれば、領収書は金券と同じです。しかし、確定申告をするときの経費は、一般的なイメージとは少し違います。そこで、個人事業主と副業サラリーマンの経費について徹底解説します。以下も合わせて参考にしてください。

あらゆるものが経費に落とせる

「経費=名目」と思っている個人事業主や副業サラリーマンは多いのではないでしょうか?たとえば、仕事の打ち合わせがあると仮定します。

打ち合わせ場所までの電車代は経費に落とせても、得意先との食事代については「本来、夕食代はプライベートで負担すべきだから経費に落とせないのでは」と迷っても不思議ではありません。そこで、経費について基本的な考え方を解説します。

そもそも経費とは何か?

実は経費に落とせるかどうかは名目では判断されません。個人事業主や副業サラリーマンの事業に関連するものなら経費に落とせます。たとえば、上記の得意先との食事代は、仕事の受注に結びつくことが期待できるため、事業と関連しています。したがって、経費に落とすことが可能です。

ただ注意すべき点は、ガソリン代のように事業用とプライベート用(=家事関連費)を明確に区分することができない場合は、前者の分の割合だけが経費に落とせる上限となります。この割合のことを「事業割合」といいます。仮に負担したガソリン代が1000円で事業割合が50%の場合、「負担額1000円×事業割合50%=500円」が経費に落とせます。

経費に落とすためのルール

上記の得意先との食事代を経費に落とすためには、税務署に対して「事業と関連ある費用である」ことを説明できるようにすることが必要です。

そのため、領収書のように支払ったことを証明する書類の保存は必須です。また、食事での打ち合わせの内容をキチンと説明できるようにする必要があるので、数年たっても忘れないように、領収書の裏面などに記録を残すことが有効です。

経費に落とすことによる節税効果

経費の金額のうち税率分だけ節税効果があります。その税率ですが、最低でも所得税と住民税が課税されます。所得税は所得金額に応じて5%~45%と7段階に区分され、住民税は一律10%です。所得金額とは収入金額から経費を差し引いた金額のことをいいます。たとえば、所得金額500万の個人事業主なら税率は30%(所得税20%・住民税10%)です。

上記の食事代3000円を経費に落とした場合、節税効果は「3000円×30%=900円」です。また、所得金額が1000万円の副業サラリーマンの場合、税率は43%(所得税33%・住民税10%)となり、食事代の節税効果は「3000円×43%=1290円」です。個人事業主や副業サラリーマンの経費による節税効果は所得金額に比例します。

車の運転で経費に計上する方法

個人事業主や副業サラリーマンが事業用に車を使用すれば、事業割合分だけ経費に落とせます。経費に落とせる範囲は広く、節税効果は抜群です。それでは、詳しく解説します。

車による移動で落とせる経費とは?

事業用とプライベート用に区分できるもの・できないものに枝分かれします。区分できるものは駐車場代や高速代などが挙げられます。一方、区分できないものはガソリン代や月極駐車場代が代表的な例です。

車の購入費用を経費に落とす減価償却とは?

一定の金額以上になると、負担する金額を一括で経費に落とせなくなります。この一定の金額とは、白色申告なら10万円以上、青色申告なら30万円以上です。このような車の購入費用は税法で定めた耐用年数(=使用可能期間)に応じて複数年で分割して経費に落とします。この計算方法を減価償却といいます。

たとえば、乗用車120万円で耐用年数が6年の場合、単年の経費は「120万円÷6年=20万円」だけです。つまり耐用年数の短い車ほど経費を多く計上できます。

経費を多く計上したいなら中古車がおススメ

結論から申し上げると、中古車のほうが経費に落とせる金額は多くなります。耐用年数が新車よりも短縮されるからです。中古車の耐用年数の計算方法は次の通りです。

  • 耐用年数=(新車で購入した場合の耐用年数-使用した年数)+使用した年数×20%(最低2年・1年未満の端数切捨て)

たとえば、新車で購入した場合耐用年数6年の乗用車120万円を、使用年数5年の中古車として購入したと仮定します。中古車の耐用年数は「6年-5年+5年×20%=2年」です。経費に落とせる金額は「120万円÷2年=60万円」です。

プライベート用の車を事業用に転用した場合でも経費に落とせる

サラリーマンが独立して個人事業主になったり副業を始めたりする場合、プライベート用の乗用車を事業用に使用することが想定できます。その場合、事業用に転用した車の購入費用も減価償却の対象となり、耐用年数に応じて分割して経費に落とせます。ローンの支払金額とは全く関係ないので、すでに完済していても大丈夫です。

この費用はどこまで経費に落とせるの?

車関連のほかにも、負担した費用のうち事業用とプライベート用に区分することができないものが多々あります。その中でも代表的なものを取り上げ、解説します。

自宅の家賃を事業用に使用すると経費に落とせる

個人事業主の賃貸物件の家賃を事業割合分だけ経費に落とせます。もちろん、もともと賃貸マンションに住んでいるサラリーマンが独立したり副業を始めたりした場合も同様です。

電話代および自宅の水道光熱費は?

電話代など通信費や電気代は事業に使用するため、事業割合分だけ経費に落とせます。しかし、ガス代や水道代は事業と関連するかどうか業種によって異なります。

たとえば、自宅兼工場など、事業でガスや水を使用する場合は経費に落とすことが可能です。他方、ネット販売のように事業での使用が認められない業種の場合、経費とするのは難しいです。

パソコン代を経費に落とす方法

白色申告10万円未満、青色申告30万円未満ならパソコン代を一括で経費に落とすことができます。一括で経費に落とせないパソコンは金額によって経費の計算方法が異なります。

  • 10万円以上20万円未満:3年間で均等に経費に落とせます。たとえば、15万円のパソコンの場合は「15万円÷3年間=5万円」です。
  • 20万円以上:車の購入費用と同じ扱いです。耐用年数4年のパソコンを20万円で購入した場合、経費に落とせる金額は「20万円÷耐用年数4年=5万円」です。

スーツ代を経費に落として大丈夫?

業種によってスーツは欠かせませんが、経費に落とせる条件は事業用とプライベート用を明確に区分できている場合に限定されています。たとえば、司会業が結婚式での仕事用にのみ使用するスーツであることが明らかである場合は事業用に区分できます。

一方、副業サラリーマンが勤務先でスーツを着用している場合は、確定申告で経費に落とすことはできません。年末調整の段階で、給与所得控除(給与所得者の概算経費)にスーツ代の負担額を含めて計算しているからです。

事業割合を算定するポイント

事業とプライベートで兼用している物の費用を経費に落とすためには、事業割合を算定しなければなりません。節税対策をするためには、算定方法を知っておく必要があります。そこで、事業割合について詳しく解説します。

この費用の事業割合はどう算定するの?

事業とプライベートで兼用している物は車関連と住宅関連に大別できます。

(1)車関連

ガソリン代や車の購入費用などは、走行距離や日数など使用する頻度で事業割合を計算します。たとえば、週のうち5日間事業で使用している場合は、「7分の5=約71.4%」が事業割合です。

(2)住宅関連

賃貸物件の家賃や電気代などは、全体の面積のうち事業用に使用している部屋の分で事業割合を計算するのが一般的です。たとえば、3部屋のうち1部屋が事業用の場合は、「3分の1=約33%」が事業割合です。

事業割合の算定は厳密ではなく、毎年継続して用いる

事業割合を厳密に計算するのは難しいです。たとえば、乗用車の走行距離のうち、事業用の分だけ算出するのは無理があります。そこで大切となるのは、税務署から信用を得られるようにすることです。

具体的には、事業割合を毎年都合よく操作せず、恣意(しい)性を排除することです。節税したい年は事業割合を50%に設定し、収入金額が少ないときは30%に設定する、などは認められません。そのため、おおよその数値を毎年継続して使用するのがポイントです。

算定方法を迷ったら、専門家に相談しよう

事業割合の算出は今後の確定申告に影響します。万が一、算定方法を間違えると、毎年の税金の計算が狂ってしまいます。このようなリスクを防ぐために、税理士や税務署などの専門家に見解を聞くことをおススメします。聞くポイントは詳しい資料を持参することです。たとえば、住宅関連の事業割合なら住居の見取り図を用意しましょう。

まとめ

以上、経費について重要なポイントを中心に徹底解説しました。しかし、内容を完璧に網羅することは不可能です。事業割合の算定方法はもちろん、経費の範囲である「事業に関連するもの」などは個々人の状況によって異なってくるからです。

そのため、経費についての知識をさらに深めたい方はビジネスパートナーや同業の仲間との各種情報の共有や、専門家への相談をおススメします。

執筆者:阿部 正仁

TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。