確定申告は、1年間の収入を確定し、所得税や住民税などを決定する重要な制度です。副業を始める人が直面するややこしい手続きの1つでもあります。

ここでは「確定申告とはそもそも何か」「副業による収入で所得税と住民税はどのくらい影響を受けるのか」「副業が赤字だったら税金はどうなるのか」をみていきましょう。

住民税を決定する年末調整と確定申告

住民税に対する年末調整の意義

住民税とは、住んでいる地域に対して払う税金です。具体的には、都道府県に納める「都道府県民税」と市町村に納める「市町村民税」を合わせたものを指します。

住民税の金額は、所得に応じた「所得割」部分と1人当たりの金額が決まっている「均等割」部分に分かれます。市町村民税は所得割が所得の6%・均等割が3,500円、都道府県民税は所得割が所得の4%・均等割が1,500円です(2017年10月現在の標準税率。東日本大震災の復興財源のための増税分を含む)。

住民税の納付方法は2種類あります。納付書を用いて自分で納める「普通徴収」と給与や年金から天引きされる「特別徴収」です。サラリーマンが住民税のことをあまり考えずに済むのは、特別徴収によって1年分の住民税が12カ月に分けて少しずつ給与から控除されているからです。

会社が代わりにしてくれている手続きには他にもありますが、年末調整もその1つです。

年末調整は1年間の給与を合計し、従業員から申し出のあった各種控除を差し引いて、最終的な所得を確定させるもの。確定した所得が、翌年の住民税のうち所得割部分を計算する基礎となります。つまり、会社は従業員の住民税を完全に把握しているのです。

確定申告とはどのようなものか

サラリーマンの所得は会社が計算してくれるため、本人は手続きする必要がありません。しかし、副業を始めると「確定申告」という手続きが発生します。

確定申告とは、毎年1月1日から12月31日までの1年間の所得を申告し、確定させるための手続きです。確定申告によって確定された所得により、所得税や住民税、該当する場合には社会保険料などの額が判断されます。申告しなければ、脱税の疑いをかけられるリスクもともなうものです。

年末調整と確定申告の関係

副業を始めると確定申告という手続きが発生するのはなぜでしょうか?

会社は、みずからが支払った給与に基づいて本人の代わりに所得の申告をしています。会社が支払ったもの以外の所得を会社は把握できないため、副業で収入を得たら、本人が税務署へ申告する必要があるのです。

例外として、中途採用者が前職の源泉徴収票を提出した場合は、会社が一括して手続きをしてくれます。

副業で得た収入は確定申告のどの項目に当たるか

給与所得となる副業

確定申告の項目別に、主な副業とかかる経費の例を挙げてみましょう。

まずは給与所得に分類される副業です。分かりやすい例としては、会社に内緒でしているアルバイトがあります。確定申告の際には正社員としての本業と副業であるアルバイトの収入を合算した額を届けなければなりません。アルバイトにかかる必要経費を考える必要はなく、所定の計算式で算出されます。

事業所得となる副業

次は事業所得です。事業所得とは、みずから事業を立ち上げて設備投資をし、顧客を獲得して継続的に収益をあげている場合の所得を指します。

最近ではインターネットを活用して事業にチャレンジしてみようとする人が増えています。商品を仕入れて販売する物販などは、手軽にできるため人気が高い業種です。事業のための設備投資が経費として扱われます。

後述の雑所得との区別に注意が必要です。

不動産所得となる副業

不動産を所有し、賃貸する副業です。賃貸料が収益となります。経費は、賃貸物件の水道光熱費や、管理を第三者に委託している場合の委託料など。遠方の物件を自ら見回るために交通手段が必要なら、その費用も必要経費となり得ます。

譲渡所得となる副業

譲渡所得とは、株や金融商品の売買で得られた所得のことです。他の所得とは別に税金が計算され(源泉分離課税)、所得税は15%、住民税は5%課税されます。経費となるのは株その他の金融商品の取得費や譲渡費用(手数料など)です。

ちなみに最近話題のビットコインも金融商品に似ているところがあるものの、ビットコインによる収入は雑所得になるというのが国税庁の見解です。

雑所得となる副業

雑所得は、特定の所得の種類に分類されなかった所得すべてです。本人は事業所得のつもりでいても、継続性がなかったり職業として認められなかったりする場合、その所得は雑所得とみなされる可能性があります。

物品の転売を例にすると、継続的に仕入れて不特定多数に販売しているなら事業所得、自分用に購入したものが気に入らずオークションで売却した場合は雑所得です。アフィリエイトを例にすると、本腰を入れているなら事業所得、片手間にやっているなら雑所得というところでしょうか。線引きはケースバイケースで、税務署に開業届を提出しているからといって事業所得として認められるとは限りません。

副業によって増額される税金

住民税の税率はどうなっているか

住民税の所得割は、市町村民税が6%、都道府県民税では4%です。そのため、単純に計算すると、副業により収入が増加した分の10%が住民税に加算されることになります。

副業をすると会社に必ずばれるのは、住民税の増加が会社に知られるからです。

所得税の税率はどうなっているか

所得税率は、所得の範囲によって異なります。所得額をもとに、以下のような税率で課税されます。

  • 195万円以下の場合…5%
  • 195万円超え330万円以下の場合…10%
  • 330万円超え695万円以下の場合…20%
  • 695万円超え900万円以下の場合…23%
  • 900万円超え1,800万円以下の場合…33%
  • 1,800万円超え4,000万円以下の場合…40%
  • 4,000万円超えの場合…45%

実際の所得税の計算では所定の控除がありますが、副業で収入が増えた場合のおおよその課税額を計算したいなら、上のパーセンテージを頭に入れておくといいでしょう。

この場合の所得とは、本業の給与も含めた所得の合計です(分離課税対象分を除く)。本業の給与が高い水準の人は、副業で増やした収入の半分近くが住民税と所得税に消えてしまう可能性もあります。

副業が赤字でも悪いことばかりではない

副業が赤字となったら

副業のために投資をするのは、少々勇気がいるものです。パソコンの新調、ホームページ制作の外部委託、商品の仕入れ、書籍の購入やセミナー参などで、かなりの金額が必要となることも。どんなビジネスにも共通することですが、黒字になるという保証はどこにもありません。赤字を恐れて一歩踏み出すことをためらう方は少なくないでしょう。

そんな初心者に知ってほしいのが、一定の条件のもとで副業が赤字の場合に使えるかもしれない「損益通算」という方法です。

損益通算とは、副業で生じた赤字の部分を給与所得と相殺して総所得を下げ、住民税と所得税を減額するという方法です。かかった経費の一部が、税金の軽減としてキャッシュバックされる形になります。

ただし、どんな副業でも損益通算できるわけではありません。事業所得や不動産所得などに限られ、雑所得の赤字は損益通算できないので注意が必要です。

税務署の担当者に質問された場合のために、経費の実態を証明するレシートや帳簿はまとめておきましょう。

節税目的の副業の危険性

損益計算について知ると、不当に税金を逃れようと考える人々もいます。たとえば2013年には新宿区に所在する会社の代表者が、顧客に架空副業で赤字を計上して所得税を節約するよう指南したとして逮捕されました。2015年には名古屋市に在住する会社経営者が、約20名の顧客に架空副業の赤字計上による税還付を指南し、報酬を得たとして逮捕された例もあります。

実際には経費を支払っていないのに架空副業を申告して損益通算を利用するのは違法です。しかし、制度の悪用は後を絶たず、損益通算には特に担当者の注意が向きます。

また、実際にしている副業でも事業所得から雑所得に変更されることもあります。雑所得では損益通算はできません。還付を受けていたら返還し、延滞税と加算税を支払わなければならなくなります。

事業所得とみなされるかどうかは個別の判断です。継続性や職業とみなせる職種かなどを見て総合的に判断されます。税務署に開業届を提出していれば事業所得になるというわけではないので注意しましょう。

いずれにしても、節税目的の副業は制度本来の目的とは趣旨が異なることを頭に入れておく必要があります。

まとめ

副業を始めると、給与とは別の収入源というポケットを手に入れることになります。アメリカでは近年「セブンポケット」という言葉が生まれるほど、副業は身近なものです。日本でもインターネットの普及を背景に、これまでとは異なる仕事のあり方が模索されています。

収入が給与のみだった会社員にとって、全体の収入が増えることは喜ばしいことかもしれません。しかし、新しい流れに適用される法律に通じていないと、思わぬところで足をすくわれることにもなりかねないのです。副業をどのように確定申告に反映させるのか、それにより住民税や所得税がどう変化するのか、基本的な知識は身に着けておく必要があるでしょう。

執筆者:木本こかげ

社会保険労務士。翻訳家。専門知識を背景に社会保険・労働保険・助成金・年金に関する記事を多数執筆。「日本語力」を生かして就業規則・契約書・医学論文・機械取扱説明書・オンラインゲームシナリオの英文和訳を多数手がける。