本連載では、これまで副業のメリット・デメリットと法的問題点等についてみてきました。今回は、副業解禁がもたらす効果をより具体的にとらえてもらえるよう、実際に副業を始めた人へのインタビューを通して、彼らが直面した問題について探ってみたいと思います。

高木さん(仮名)は、スーパーに勤務する30代の独身男性です。半年ほど前からネットで副業を始めました。就業規則では原則として副業は禁止されているので会社には内緒です。高木さんは今、どのような問題を抱え副業を行っているのでしょうか。

将来は特技で独立 副業のきっかけは資金作り

――どのような副業をしているのですか。

高木:自分のスキルを登録して売ることができるサイトがあるのですが、そこでホームページの制作を受注しています。

――差し支えなければ売上を教えていただきたいのですが。

高木:売上ですか…単価を低くしていることもありますが、依頼も多くはありませんので、月に2~3万円ほどです。

――副業を始めたきっかけをおしえてください。

高木:副収入を得るためです。

――今の会社の給料に不満があるということですか。

高木:不満がないといえば嘘になりますが、世間相場からいえば悪い方ではないと思っていますので、大きな不満はないですね。贅沢はできませんが、独身なので生活するには十分です 。

――では、副業で得た収入は何に使うのですか。

高木:もともとWEBデザインに興味があって、20代のころから趣味でホームページを作っていました。これまでからWEBデザインの仕事がしたいと思ってきましたので、40歳になる前に会社を辞めて独立したいと考えています。その準備資金といったところでしょうか。

始めたものの収入アップに苦戦 立ちはだかる本業の壁

――独立するということになると、ある程度まとまった資金が必要になりますね。

高木:そうなんです。正直なところ今の売上では苦しいですね。このままでは具体的な事業計画も立てられないので、もっと副業を増やそうかと思ったりもします。

――副業を増やせば本業に差し支えませんか。

高木:本業に影響するほどの作業はしていませんし、自宅での作業なのでマイペースでできます。今のところ大した負担ではありませんので、多少仕事が増えても大丈夫です。さすがに毎晩何時間も作業するのは無理ですが、他のサイトにも登録して受注件数を増やして、あとは知人などの口コミで仕事がもらえたら、なんて考えています。

――今の副業で開業資金は難しいのでは。

高木:そうですね…でも、今の自分にはこれしか手段はないですから。本業に影響したらダメなこともわかっています。だから副業はあくまで副業です。でもそんなこと言ってたらいつまで経っても資金たまりませんよね。煮えきらなくてすみません。ちょっとしたジレンマなんです。

「副業解禁」も未だ日陰者 踏み出せない原因は社内環境

――原則として副業が解禁になりましたが、この方向性は高木さんにとってどのような意味があるとお考えですか。

高木:会社に内緒で副業しなくてもいいってことですよね? でも、あまり意味ないかな…今は禁止されているから内緒でやっていますが、副業がOKになっても…そうですね、多分、内緒のまま続けると思います。

――それはなぜですか。

高木:副業が違反にならなくなった点ではやりやすくなったのかもしれませんが、だからといって『副業してる』なんて言ったら、周りからいろいろ言われることになると思います。副業が解禁になったとしても、本業をおろそかにしているというイメージはなくならないと思います。特に私の職場は保守的な人が多いので何かと面倒です。やっぱり内緒のままですね。

――副業解禁に対する社内の反応はありますか。

高木:今のところ『副業解禁』は話題にもなっていません。私の会社では、そもそも副業しようという人は少ないです。仮にやる人がいても自分と同じく小遣い稼ぎ程度にしかできないと思います。なんせ保守的ですから。

――現状の打開策は。

高木:先ほどもお話ししたように受注を増やしたいですね。でないとこのままでは独立なんて夢のまた夢のような気がします。本気で取り組まないとダメなんでしょうね。でも会社には内緒だし応援してくれる人もいなくて、本格的な一歩を踏み出しにくい…本音はそんなところですね。

――でも、そこを乗り越えないと独立は遠のきます。

高木:それもわかっているのですが、何だかモチベーションも上がらなくて。自分にイライラしますね。でも、やっぱり独立したいので、これを機に気を取り直して頑張ります。

――頑張ってくださいね。

高木:はい、ありがとうございます。

まとめ

高木さんは、WEBデザイナーとして独立したいと考え、その資金作りのために副業を始めました。副業は本業と競合するものではなく、特に法的問題もありません。これまで趣味でやってきたWEB制作のスキルを高めつつ独立を目指すという高木さんの取り組みは、働き方改革の理想ともいえる姿です。しかし、インタビューを通して感じたのは現実と理想はかけ離れているということでした。

高木さんのケースをみれば、副業推進には本業先の職場環境が重要な要素であることがわかります。本業先の職場は保守的で副業に理解がなさそうです。だから高木さんは、解禁後も副業は目立たないようにやるべきだと感じています。そういった事情もありネットでの副業を選んだのでしょう。

副業解禁という形式だけを整えるのではなく、社会全体の意識改革を喚起しない限り、副業に関する働き方改革は画に描いた餅に終わる可能性もあります。

次回も副業を始めた人のインタビューを通して、引き続き副業の問題を探っていきます。

記事制作/白井龍