これまで3回にわたり副業実践者のインタビューをお届けしてきました。インタビューに応じてくれた副業実践者の中から3人をご紹介したわけですが、いずれのケースにおいても副業を始めたことから問題を抱えることになった点で共通しています。中には法的問題とまではいえないとしても、深刻な事態へと発展したケースもありました。

今回は、3人のインタビューを振り返りながら、各ケースにおける法的問題や危険性を整理していくことにしましょう。

就業規則に副業禁止規定あり 違反した場合の処分は?

本連載16回目にご紹介した高木さん(仮名)は、自身のスキルを生かした副業を始めました。しかし本業先では副業が禁止されています。政府が副業解禁の方向性を打ち出したとはいえ、高木さんの会社では具体的な動きはなく、あいかわらず副業は禁止されたままです。

仮に高木さんの副業が会社に発覚した場合、どのような問題が起きるのでしょうか。

高木さんの会社の就業規則には、副業を始める際には会社の許可を必要とする規定があります。しかし高木さんは許可を得ず内緒で副業を始めました。この場合、高木さんは就業規則違反に問われる可能性があります。

しかし、職業選択の自由(憲法22条1項)が認められる以上、副業することは原則として自由です。ただ、副業の態様や内容が本業先の会社に不利益を与えるようなものであれば、認められないという枠組みがあります。

では、会社は高木さんを処分することができるでしょうか。

高木さんの副業はホームページの作成でした。本業とは異なる業態であり、帰宅後の時間を使っていますが、本業に影響が出るほど時間を割いているわけではありません。月の収入も2、3万円ほどにとどまっています。高木さんの副業は、特段、会社に不利益を与えるものとまではいえないことになります。確かに無許可で副業を始めたので就業規則には違反しています。しかし、違反の程度は軽微で会社に実害がない以上、会社が高木さんを厳しく処分することは難しくなります。せいぜい注意される程度ではないでしょうか。

副業が原因でパワハラに 損害賠償を請求する相手は誰?

次に本連載17回目の須藤さん(仮名)のケースを考えてみましょう。

須藤さんは、副業として雑誌の挿絵を描くことになりました。本業とは異なる業態で、時間もそれほど使わず報酬もわずかです。高木さんとの違いは、事前に会社に許可を取った点です。許可を取ったために副業が職場の先輩に知れ、そのことが後に大きな問題となって須藤さんに降りかかってきました。

須藤さんのケースも高木さんと同様、会社に不利益を与えるような副業ではありません。会社が許可を出している点で、会社との間に法的問題もありません。ところが須藤さんは、副業を快く思わない先輩のパワハラに遭い、体調を崩したあげく退職に追い込まれることになったのでした。

こういった場合、誰にどのような請求ができるのでしょうか。

まず、先輩のパワハラが原因で体調を崩したのなら、その先輩に対し不法行為責任(民法709条)を問うことができます。見て見ぬふりをした上司にも不法行為責任を問うことが考えられます。さらに、そのような先輩や上司を使用していた会社に対し、使用者責任(民法715条1項)を問うこともできるでしょう。須藤さんは、これらの者に対し財産的損害および精神的損害の賠償を求めることになります。

須藤さんのケースのように、会社の許可を得て始めた副業であっても思わぬ事態へと発展することがあります。副業が職場に与える影響は思った以上に大きいのかもしれません。

割増賃金と労災に問題あり ハードな副業がはらむ危険とは

最後に本連載18回目の山中さんのケースを見ておきましょう。

まず、1日の平日労働時間は、本業が5時間、副業が8時間で合計13時間にもなります。法定労働時間は8時間ですから、毎日5時間の時間外労働を行っている計算です。この5時間にかかる割増賃金は、どちらの勤務先が支払うことになるのでしょうか。

時系列で考えた場合、山中さんはコンビニで5時間働いた後、福祉施設で5時間働いているので、福祉施設での3時間以降は時間外労働ということになります。したがって福祉施設は2時間分の割増賃金を支払わなくてはなりません。その後、再びコンビニで3時間働くわけですが、この3時間についてはコンビニが割増賃金を支払うことになります。一方、本業優先で考えた場合、コンビニが5時間分の割増賃金を支払うことになります。

どちらの考え方も成り立ちますが、いずれの勤務先も山中さんに割増賃金を支払うことに抵抗があるでしょう。そんな現実があり、山中さんとしても割増賃金のことを口に出すことはないと言っています。

山中さんの就労形態は本業の福祉施設が常勤社員、副業のコンビニではアルバイト社員です。どちらの収入も給与所得にあたるので、本業と副業を合算した収入が社会保険等の算定基礎になります。所得税の申告もしなければなりません。確定申告の要否については、国税庁の「確定申告が必要な方」を参照してください。

山中さんのケースで特に気を付けなければならないのは労災です。仮にアルバイトへ行く途中、交通事故に遭い入院するようなケガをした場合を想定してみましょう。この場合、アルバイトを休むことになるので休業補償が得られます。しかし本業に関する休業補償は得られません。つまり、ケガのため副業とともに本業も休むことになったとしても、得られる休業補償はアルバイト分のみです。

山中さんの1日の労働時間は13時間にもなるので、もし、過労で倒れた場合、いったいどちらの業務が原因とされ、労災の適用はどうなるのでしょうか。これは非常に難しい問題だといえるでしょう。

まとめ

以上のように、フルタイムに近い副業のケースでは、さまざまな法的問題が起きる可能性があります。特に労災については注意を要します。順調に働けているうちは気にすることがないかもしれませんが、問題の種は水面下にあるのです。

副業に対する会社の理解もあり、報酬がお小遣い程度で労働時間も少ないという場合でも、問題が発生する危険性があることは、須藤さんのケースが物語っています。

副業が解禁となっても気を使うべき点は多くあります。副業を始める際は、くれぐれも注意しましょう。

記事制作/白井龍