現在、日本では多くの上場企業で相談役・顧問がおかれています。しかし実際のところ、どんな業務をしているのか?どんな役割を担っているのか?その実態が明確にわからない場合も少なくありません。

今回は、相談役・顧問・参与の役割と役割開示の動向にスポットを当てて解説します。

政府も東証も動きはじめた「相談役・顧問」の役割開示

近ごろ、相談役・顧問といった言葉を耳にする機会が増えています。2015年5月に東証が公表した「コーポレート・ガバナンス・コード」が大きく影響してるといえるでしょう。

コーポレート・ガバナンスは日本語で「企業統治」と訳されます。簡単にいえば、企業が中長期的な視野で成長発展を目指すために必要だと考えられる決まりのことです。主な例としては、株主の権利・取締役会などの責務・役員報酬に関することなどがあげられます。

企業の内部組織がしっかりしていなければ企業に必要な決断を下すことが困難になる恐れもあり、日本では近年コーポレート・ガバナンスを明確にする必要性が叫ばれているのです。

2017年3月には「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」が経済産業省によって策定されました。その中で、社長・CEO経験者である相談役・顧問についての情報を外部発信することに意義があると提言されています。

また、2017年6月に政府がまとめた「未来投資戦略2017」のなかでも、元社長・CEOである相談役・顧問の情報開示制度創設・実施を予定していることが明記されています。

これら政府の動きに合わせ、東証も上場企業が相談役・顧問の情報を開示する制度を設けることを発表しました。全上場企業に提出の義務がある「コーポレート・ガバナンス(企業統治)に関する報告書」に新たな記載欄が設けられ、2018年1月より運用されることが決定しています。

相談役・顧問・参与とは?

2016年に経済商業省が東証一部・二部の上場企業874社から回答を得た調査結果によれば、全体の78%の企業で相談役・顧問の制度があり、62%が在任中とのことでした。在任中のうちの約60%が社長・CEO経験者という結果も出ています。

ではそもそも顧問・相談役・参与とは企業にとってどのような役割を持つのでしょうか?

相談役・顧問・参与の役割とは?

相談役・顧問は会社法上で認められているものではありません。相談役・顧問の制度を設けるか否かは、それぞれの企業の自由です。

相談役・顧問の主な役割には、現経営陣への指導・助言や事業に関連する社外活動などがあげられます。相談役には、一般的に社長やCEOなどが第一線を退いた後に就任する場合が多いでしょう。一方で顧問は、人選は社内や社外など企業によってさまざまです。専門的な立場からのアドバイスを求められる場合も多く、それまでの経験や知識を活かして実務的な面で助言を行う存在ともいえます。

参与は専門的な知識を持ち、実務を執り行うことが主な役割です。直属の部下はおらず役員でもありませんが、役職相当のポジションを有しています。

相談役・顧問・参与の序列はどうなっているのか

相談役・顧問は事業に関連しないアドバイザー的なポジションとなるため、順位がつけがたいのが現実です。

強いて言うなら相談役・顧問がほぼ同等、次に参与となるのが一般的です。企業全体で考えた場合、代表取締役→取締役→執行役という序列が成り立ちます。役員に次ぐ立場として考えるなら、執行役に近いポジションになるでしょう。取締役など役員になっている場合は別です。参与は部長職に準ずるポジションで、役員の配下では最上位に位置します。

ただし、社長・CEOを退いた人が相談役・顧問になっている場合、社内では取締役会長に近いポジションで院政をしいていることもあります。

相談役・顧問・参与の選定

参与とは役職というより資格・職能ランクのような形で運用している場合が多く、役職のポストに空きがない場合に同等の待遇をするというニュアンスで選定されることもあります。

相談役・顧問については、企業が必要とする分野で専門的な知識がある人を選定したり、企業のOBを栄誉職的な形で選定したりする場合が多いです。選定は取締役会などでする場合が多いですが、その選定方法は外部から見ると不透明に感じることも少なくありません。

相談役・顧問に規定はあるのか?

すべての企業に存在するわけではない相談役・顧問に対し、具体的な規定はあるのでしょうか?

相談役・顧問の規定は企業によって異なる

そもそも相談役・顧問の制度を設けるか否かは企業に決定権があります。ですので相談役・顧問における詳細な規定は企業によって異なる場合が多いです。

規定する方法としては、定款で具体的な勤務内容・待遇・委嘱基準などを決める、相談役規定・顧問規定など個別の規定を設ける、などがよく見受けられます。

相談役・顧問に契約書は?

相談役・顧問と企業は取締役会で就任の決定・報告がなされた後に委嘱契約書を締結するのが一般的です。企業によって契約内容の詳細は異なりますが、以下の点が網羅されていることが多いです。

  • 報酬
  • 業務にかかる費用の負担についての取り決め
  • 業務の内容、範囲
  • 取締役会などの出席
  • 守秘義務の徹底
  • 競業などの避止業務
  • 契約期間

相談役・顧問の報酬は?

相談役・顧問は、あらかじめ就任前に契約書上で報酬について具体的に決定している場合が多いです。○万円を月末に振込など毎月決まった額を受け取ることが多いです。

業務以外で必要になった費用は通常相談役・顧問が別途負担しますが、事前協議のうえ費用の支払を企業が一部負担する場合もあります。これらは契約書の内容に基づいて判断されます。

今後相談役・顧問の見直しや廃止をする企業が増える?

相談役・顧問の透明化が加速する

2018年から相談役・顧問に関する情報開示の制度運用が開始するにあたり、多くの上場企業で相談役・顧問に関する内容の見直しを迫られるでしょう。というのも、相談役・顧問の選任理由をはじめとして、存在そのものが非常に不透明・不明確になってしまっている企業も少なくないと考えられるためです。

上記で紹介した2016年に経済商業省が行った調査では、相談役・顧問の制度が存在する企業の約2割が制度の見直しを検討中もしくは実施したとのことです。この数年の間に、相談役・顧問の人数や役割の詳細など、大きく変動する上場企業が増加していくのではないでしょうか。

相談役・顧問を廃止する資生堂

2017年10月、東証一部上場企業である資生堂は相談役・顧問の廃止と執行役員制度の一部を変更することを発表しました。資生堂は2001年からコーポレート・ガバナンスに関して継続的に改善を図ってきており、その改善施策のひとつでもあります。

今回発表された主な内容は、社内の取締役・ 監査役・執行役員を経験した人が就任する相談役・顧問の廃止です。ただし、専門的な知識や経験をもとに助言を行う人は今後もアドバイザーとして就任する場合はある、とも発表されています。

また、執行役員制度については、在任期間・在任年齢の上限を設け、延長する場合には審議・確認のうえ決定し、情報公開することで制度の透明化を推進する予定です。

資生堂以外でもみずほフィナンシャルグループ、三菱東京UFJ銀行など大手企業が着手しています。

まとめ

企業が円滑に事業の発展を目指すため、有益なアドバイスを行ってくれる相談役・顧問は重要な役割を果たします。一方で不透明な選任によって、企業が必要なタイミングで必要な事業展開を図れない恐れもあります。

政府や東証の動きから、今後は客観的な視野を持つ外部顧問も増加することが想定されるでしょう。

執筆者:杉本 湊音

副業からスタートし、フリーランスのライターに。社会人時代の経験を活かした人事・労務関連をはじめ、フリーランス・ビジネス関連など多数のジャンルで執筆中。