副業実践者インタビューの最後は、ハードな事例をご紹介しましょう。
山中さん(仮名)は、障害児の通所施設(放課後等デイサービス)で働く20台の男性です。大学で福祉を学び、卒業と同時に今の会社に就職しました。まだまだ不慣れで大変だと思うことがあっても、山中さんにとっては充実した日々が続いていました。勤務先の所定労働時間は週32時間です。子どもたちは学校終了後にやって来て、夕方6時くらいには帰宅するため、事業所の営業時間は短く設定されています。そのため給料も高くなく、空いた時間を利用して副業を始めることにしたのです。
フルタイム社員でも短時間労働ーダブルワークは必然か
――放課後等デイサービスに勤務されているということですが、どのようなお仕事なのですか。
山中:障害を持つ子どもたちに対し、学習や身体運動、創作活動などを支援します。発達障害を持つ子が多いですが、自閉症や身体障害の子もいます。障害の種類や程度は様々なので、一人ひとりに応じた個別支援と社会性を育てるために集団活動の支援をしています。学校の授業が終わる頃、車で学校まで子どもを迎えに行き、施設で過ごした後、夕方には自宅まで車で送っていくという毎日です。
――1週間の所定労働時間が32時間だということですが。
山中:平日は5時間、土曜日が7時間の勤務です。日曜日が休日なので1週間で32時間ということになります。
――フルタイム勤務で1日5時間というのは短いですね。
山中:学校での授業の後に預かるような形なので、そうなりますね。実際には次の日の準備や送迎に利用している車のメンテナンスなどがあるので残業することもありますが、平日は13時から18時まで、土曜日は10時から18時までが一日の勤務時間となっています。
――こう言っては何ですが、中途半端な勤務形態ですね。
山中:そうですね。所定労働時間が短いから給料も高くはありません。この業界は同じようなところが多いと思います。見た目の勤務時間は短いのですが、気の休まることがないので仕事は結構ハードだと感じています。
福祉業界は低賃金? 所定労働時間の短さがネックに
――副業を始めたのは、やはり今の賃金が低いからということでしょうか。
山中:はっきり言ってそうですね。一日5時間労働ですから3時間残業をしてやっと一般的な8時間勤務の人と同じになります。1カ月でいえば60時間残業して普通の会社員と同じレベルです。だから残業して稼ごうと思ったこともありますが、そもそも会社が残業を認めない。当たり前かもしれませんが、仕事は要領よくこなすことを求められますので。その反面、パートさんが多い職場で、いろいろな意味で僕たち正社員に負荷がかかります。
――将来への不安は感じますか。
山中:障害者の福祉に関わる仕事に就きたくて飛び込んだ会社ですが、最近やっと客観的に自分のことが観察できるようになりました。そうするといろいろな疑問が出て来るんです。仕事の内容には不満はありません。今はまだ独身で両親も働いていますので生活苦があるわけでもありません。でも、やっぱり給料が…。
――といいますと?
山中:学生時代から付き合っている女性がいて、最近、結婚を考えるようになりました。そうなると、そもそも今の給料でやっていけるのか、子どもが生まれても育てることができるのか・・・そんな不安が出てきたんです。
――お相手の意見はどうですか。
山中:僕と同じです。正直不安はあると。だから自分も働くと言っています。不安が現実化しないためにも2人で頑張るしかないですね。
本業と副業の収入逆転、ハードな副業ライフの始まり
――どのような副業を始めたのですか。
山中:家の近くにコンビニでアルバイトしています。毎日朝5時から11時までです。会社は昼からの出社なので、朝の時間帯を利用して副業することにしました。
――毎日、朝から6時間のアルバイトはハードですね。
山中:そうですね。これまでに比べればハードな生活になったといえます。でもそれだけでなく実は、夜のシフトにも入っています。まだ若いし、一種の開き直りというか、どうせアルバイトするなら思いっきりやってやろうと思いまして。夜の勤務は午後8時から11時までです。
――ということは、コンビニの勤務は1日8時間・・・ということですね。
山中:そうです。本業は5時間でアルバイトが8時間。収入はアルバイトの方が多いです。
――収入逆転ですか…副業について会社に相談はしましたか。
山中:始める前に社長には相談しました。そしたら「若いうちは何でもチャレンジ!」とか言って高笑いしながら応援してくれました。そもそも給料が安いからアルバイトするのに。。。
――豪快な社長さんですね。本業と副業あわせて1日13時間労働はしんどくないですか。
山中:当然しんどいですよ。でも本業での収入アップは見込めませんから、結婚資金を貯めるにはアルバイトで頑張るしかないですね。
――職場の人たちはアルバイトのこと知っているのですか。
山中:はい、隠すことなく話しています。給料が安いことは共通認識ですから共感してもらえることが多いです。むしろこれまで以上に優しく接してくれるパートの方が増えましたね。その点では話しておいてよかったと思っています。
――これからもアルバイトは続けるのですか。
山中:はい、まだまだ続けます。できる限り続けてしっかり貯金したいと思っています」。
まとめ
福祉というと、どうしても低賃金というイメージがあります。山中さんの場合、その前提となっているのが所定労働時間の短さでした。特に障害児の通所施設はこういった勤務形態のところが少なくないようです。
最初は口数が少なかった山中さんでしたが、話すほどに口数が増え、思いの丈を語ってくれました。労働時間のことや副業のことを調べるほどに、自分自身を客観的に見ることができるようになったといいます。でも、山中さんは今の仕事を選んだことに後悔はしていません。障害児の療育に関わりたいという学生時代からの志に変化がないからです。
政府の働き方改革の中には、所定労働時間が短い「短時間正社員」という制度があります。これは育児や介護等のため就業が難しかった人のための制度で働く機会が得やすくなります。一方で山中さんのように、働きたくても働けない「短時間正社員」がいることにも注目すべきでしょう。