アメリカとオーストラリア。どちらもイギリス人が植民地時代に大陸を発見し入植し、その後移民を受け入れ発展した国で、どちらも英語を共用語としています。ところが、現在の社会のありかたにはかなり大きな違いがあります。では、アメリカとオーストラリアにはどのような違いがあり、そしてその違いが働き方にどのような影響を与えて来たのでしょうか。

働き方を考える上での社会の在り方

「働き方がどのように生まれたか」ということは社会の状態を抜きにしては考えることができません。そこで今回は、海外での働き方ということで、似ているようで基本的に大きく異なる2つの国アメリカとオーストラリアを選び、この2つの国の「社会的な違い」を比べてみることにしました。

アメリカには住んだことはありませんが、知り合いがいて何度か出かけて滞在したことがあります。そのため、その時にいろいろ見聞きしたことから得た情報と、現在テレビやインターネットで報道されている諸々のデータを元に執筆することにしました。

アメリカとオーストラリアの共通点

アメリカとオーストラリアにはたくさんの共通点があります。共に、イギリス人が植民地時代にそれぞれアメリカ大陸とオーストラリア大陸を見つけ移り住み、そこの原住民を迫害しながら開拓し町を築いていきました。そしてアメリカもオーストアリアも金鉱を発見し、採掘した金で経済を発展させ、更には世界各地から多くの移民を受け入れ、現在の社会を作っていきました。話す言葉はどちらも英語。現在の雇用形態はどちらもジョブ型。ですから日本から見ればアメリカもオーストラリアも同じように見えるかもしれません。

ところが、アメリカとオーストラリアの現状をもうすこし掘り下げて見てみると、いくつかの相違点が見えてきます。まず一番の違いは、アメリカは経済面でも軍事面でも世界一の大国。オーストラリアはミドルパワーと呼ばれる「中企業国」であることです。

アメリカとオーストラリアの違い

最初にアメリカに行った時に知り合いに言われたことが「アメリカは自分たちの力でイギリスから独立を勝ち取った偉大な国だ」ということでした。でも、そんな偉大な国なのに、アメリカでは人種間の争いが絶えず、人は銃を持って生活し乱射事件が後をたたず、毎日平均96人の人が殺されて、国による健康保健制度がないので、病気になってもお金のない人は十分な治療を受けることができなという事実があります。

これをオーストラリアと比較すると・・、オーストラリアでは、結局イギリスからの正式な独立を勝ち取らないまま今に至っていますが、多文化主義で人種間の争いがほとんどなく、銃の保持は登録を済ませた人のみが可能で、殺される人の数は1日平均0.58人。病気になれば、公立の病院ならだれでも治療を受けることができます。OECDが行った生活満足度調査の結果を見てみると、アメリカの満足度が7.8なのに対しオーストラリアは、9.0(ちなみに日本は4.0)。こうした事実を踏まえると、「偉大な国」とはいったいどんな国だろうかと考えてしまいます。

「偉大な国」の内幕

確かにアメリカには偉大な人や偉大なものがたくさんあります。先に述べた世界一の経済と世界一の軍事力に始まり、具体的な例をあげれば、ディズニーランド、マイクロソフト、アップル、フォード自動車、世界一のエンタメ業界など枚挙にいとまがありません。でもそうした一流の人や物が存在する一方で、そうでない一般の人との格差があまりにも大きいことがテレビやメディアで報道されています。つまりアメリカは極度な自由主義社会であるために競争が非常に激しく、その結果強い者、優秀な者だけが生き残れる社会になっているように見えます。そしてその考え方が働き方にも影響を与えるので、職場においても少数の優秀な人物を生み出すのです。

一方オーストラリアは、アメリカとは対照的です。実際、オーストラリアには、世界に名の知れた大企業もあまりなければ、有名人もそれほどいません。それはオーストラリアでは「フェア」ということが重んじられ、すべての人に対して平等で幸福になれる権利を保障しなければいけないと考えられ、政府も自由党であれ労働党であれ、そうした基本的な考え方に基づいて政治を行ってきたからです。こうしたオーストラリア人の考え方を示す一つの出来事があります。

成功した銃廃絶運動

1996年4月、タスマニアのポートアーサーで銃乱射事件が起きました。ホートアーサーは歴史的な監獄の跡を残す世界遺産ですが、ここで観光を楽しんでいた人の前に突如銃を持った一人の男が現れ、いきなり乱射したのです。結果として35人が死亡し23人が重傷を負ったのですが、その後まもなく、犠牲になった人の家族から銃廃絶の呼びかけがありました。つまり家庭で保持していた銃を放棄しようという呼びかけをしたわけです。この呼びかけにはオーストラリア全土でポジティブな反応があり、仕事の関係などで銃が必要な人以外は、すべての人が銃を放棄し、政府も新しい銃規制法を制定しました。それ以来、オーストラリアでは乱射事件は起きていないのです。

アメリカで銃が廃絶されないのはなぜか

ご存知のようにアメリカでは毎年多くの乱射事件が起きています。そんな社会事情にたいして、オバマ元大統領が「連合国であるオーストラリアでは一回だけの乱射事件で銃が廃絶できたのになぜアメリカはできないのか」と嘆いているのをテレビで見たことがあります。実際、アメリカでも銃廃絶運動は行われているようですが、まだ廃絶にまで至っていないのが現実です。そしてここにアメリカ社会とオーストラリア社会の根本的な違いがあるように思われます。つまり、アメリカでは極度な自由主義と個人主義がその根底にあるので敵を作りやすく、そのため自分を守るのに銃を手放せない。一方オーストラリアでは人権主義が根底にあり、より多くの人が幸せでなければ自分の幸せも確保できないという考え方があるので銃を手放せた、ということになると思います。

極度な自由競争で強い者だけが生き残れる国と、より多くの人の生活と権利が保障される国。この違いは、「真に偉大な国」が持つべき大切な要素が何なのかを教えてくれているように思います。

記事制作/setsukotruong