現在ヨーロッパでは、自営業やフリーランシングへの機会が多様化しており、フリーランスモデルはますます魅力的な選択肢となってきています。医師や弁護士などの伝統的な自営業とは対照的に、ライセンス不要のフリーランサーたちは企業に追従することを拒否して、企業と直接仕事をすることを選んでいます。

ギグエコノミーの申し子

英国の若者、シラス・エリオットさんは自ら「ギグエコノミーの申し子」を名乗っています。エリオットさんは、オックスフォードのセントジョーンズカレッジで生物学を学びました。大学の授業料は学生ローン会社から借りたもの。幸いなことに、資金難だった彼に大学が無利子の貸付金と助成金を払ってくれたため、3年後にはおよそ5万ポンドの負債を残して、無事に卒業することができました。

卒業後の彼の大人への第一歩は、ロンドンに引っ越し、自らをフリーランサーと宣言することでした。「〝適切な″9時~5時の仕事をしたことはなかったし、オックスフォードでの学生生活は私にそのような準備をさせるものではありませんでした。散発的な講義、チュートリアル、論文の締め切りは、表面上学生に自分の時間を管理することを強いてはいたものの。」

大学時代、劇場や映画界に深く関わった彼は、卒業後もそのライフスタイルを変えることは考えませんでした。ロンドンに移った最初の年の主な収入源は、家庭教師、映画とテレビのエキストラ、ワクチンの治験でマラリアに感染することの3つでした。

エリオットさんは老廃ビルにガードとして住み込み、週に数日働き、残りの時間を自分のプロジェクトに費やしました。映画のエキストラの収入は1日100ポンド強(約15,000円)、家庭教師は1時間45ポンド(約6,700円)、マラリア診療所への2週間の訪問で4ヵ月分の家賃に当たる1,750ポンド(約257,000円)を稼ぎました。ドリンク付きのショーにお金を払う余裕はなくても、シアターの立見チケット(5ポンド)で十分だったそうです。

秋からは修士課程の学生としてパートタイムでオックスフォードに戻り、学業と並行してフリーランスで映画の仕事をする予定。究極の目的は、学術研究やアイデアを「主流の聴衆に伝えることができるキャリアを積む」ことですが、当面は1時間費やして10ポンド稼ぐより、列車のチケットを節約して10ポンドセーブする方法を学ぶことに専念しています。

エリオットさんのようなフリーランサーのいる欧州

フリーランスワーカーと企業を結ぶプラットフォームMALTのCEO、ヴァンサン・ウゲット氏によると、欧州では当初IT分野や創造的な職種(デザイナー、グラフィックデザイナー)のみが関心を寄せていたフリーランシングが、今ではマーケティング、コミュニケーション、プロジェクト管理などのセクターにも広がっているそうです。かつては失業や雇用不安に関係づけて捉えられていたフリーランシングは、同プラットフォームが実施した調査では、フリーランサーの90%が選んで行う働き方となりました。

ちなみに欧州機関Eurofundの調査では、フリーランシングを選んで行っている人は60%、必要に迫られて行っている人が20%となっています。

欧州内の大きな格差

欧州連合には現在、全労働人口の14%を占める3,200万人の自営業者がいます。その中には大きな格差が存在しています。たとえばギリシャのフリーランシングのシェアは高く、31%がフリーランサーであり、最もシェアの低いデンマークではそれが8%です。

自らフリーランシングを選んで行っている人と、必要に迫られて行っている人の間の違いも、国によって大きく異なります。北欧諸国では80%が選んで自営業を営んでいる一方、ルーマニア、ポルトガル、クロアチアなどでは多くが必要に迫られてこの労働形態を採用しています。

プラットフォームと社会保障

これらの違いは、各国の「脆弱な自営業者」の割合を反映しているようです。欧州連合がフリーランサーの社会的権利の共通基盤を議論している時点でも、社会保障措置を適応させるための問題はいろいろな形で残っています。

国々が足踏み状態でいる間に、フリーランス労働市場のプラットフォームやアプリは銀行や保険会社と直接交渉して、社会保障分野のサービスを開発しています。「私たちのプラットフォームを通るすべてのプロジェクトは、民事上・職業上の責任面で保証されている」と、前述のウゲット氏。「我々はそれをさらに進めたいと考えており、福祉保険を提供する銀行と健康保険のパートナーとも交渉中です。」

Uberも、運転手に事故や職場の健康保険を提供しています。Uberの広報責任者クララ・ブレノット氏は、ドライバーへの専門的なトレーニングと再訓練サービスも開発したいと考えていると述べています。

まとめ

このように欧州でも、米国に劣らずフリーランスエコノミーは発展しています。さまざまな国を含む欧州連合ですが、フリーランスエコノミ―の発展を測る真の指標は、フリーランサーへの社会的・経済的保証の進み具合でしょう。

行政レベルの対応の遅れをただ待つだけでなく、マッチングサイトなどのフリーランス市場関係者が進んで改善への行動に出ているところに、欧州社会の成熟度が見られます。日本では何ができるでしょうか。

参考記事:

https://www.euractiv.com/section/economy-jobs/news/a-silent-shift-to-self-employment-in-europe/

https://www.theguardian.com/money/2018/jul/07/i-earn-10000-and-im-a-child-of-the-gig-economy

記事制作/シャヴィット・コハヴ (Shavit Kokhav)