経済紙ウォールストリートジャーナルはこの夏、「ボスはあなたをオフィスに戻したい」という記事を掲載しました。サブタイトルには「管理者はより多くのコラボレーションと勤務時間の制御を求めているが、従業員を連れ戻すのは容易ではない」とあります。
この記事をめぐって、「リモートワークは結局なりたたない」、「いや、成り立つ」という議論がビジネス特化のSNS、LinkedIn上でさかんに見られました。日本ではLinkedInの利用者が少ないため、この議論をご存じない方もいらっしゃるでしょう。
リモートワークは敗退するのか?
この記事は、すでに大手企業の多くがフレキシブルワークを慣行している米国で、最近「従業員とのより多くのコラボレーション」、「顧客との緊密なコンタクト」、「勤務時間のコントロール」を求めて、リモートワーク・アレンジメントを廃止、あるいは縮小した企業が数社あることを伝えています。数年前、yahoo!のマリッサ・マイヤー氏があえて従業員をオフィスに戻した経緯が話題になりましたが、今回フレキシブルワークの慣行に反する動きをとっているのは、IBM(2017年)、 Aetna (2016年)、 Honeywell(2016年)、Bank of America (2014年)、Reddit(2014年)、Best Buy (2013年)の6社です。
これらの企業の管理職たちは、「労働者をオフィスに連れ戻すことは容易ではない」ことを痛感しています。リモートワーカーたちはすでに、自分の時間と働き方を確立しており、再びオフィス勤務や会議スケジュールに直面することを好まないのは当然です。
人的資源管理協会によれば、米国雇用者の大部分は従業員に時折のリモートワークを許可していますが、実際に在宅勤務を行った米国労働者数は2015年の24%から、2016年には22%に減少しています。そのような労働者の昨年の在宅勤務時間は、一日平均3.1時間、米国労働省の時間利用調査では、この数字も2015年から減少しています。
ビジネスソフトウェアのレビューサイトCapterra Inc.のリサーチアナリスト、アンドリュー・マーダー氏は、「オフィスに戻ってくることは、リモートワーカーにとって正直〝恐ろしい″ことだ」と述べています。
この春IBMは何千人もの在宅勤務者に「職場に戻るか、新しい役割を申請するか」の選択肢を与えました。どちらも望まない人は、会社を離れることになります。IBMは新しいチームワークのシステム周辺に職場を再開発するため7億5,000万ドルを費やしたと言われています。
Best Buyの在宅勤務プログラムは、5,000箇所のヘッドオフィスの従業員に、働きたい場所を自由に選ぶことのできるプログラムを提供していましたが、2013年にこのポリシーを終了しました。リモートワークからの巻き返しの4年間は、Best Buyの復活の時期と重なり、当期純利益は2倍以上に増加、株価は200%以上上昇。しかし同社は業績とリモートワークの終了を結びつけることには消極的です。
リモートワークは廃れない
上記の記事をめぐって起こった論争では、リモートワークを擁護する意見も多く聞かれています。
米求人サイトFlexJobsがGlobal Workplace Analyticsと共同で発表した、2017年のリモートワークの状況についてのレポートは、米国の国勢調査を分析し、 フリーランサーと自営業を除くリモートワーカー(会社勤務でリモートワークを許可されている人)が過去10年間で115%増加していることを示しています。
グローバル業績管理コンサルティング会社Gallupの、米国の職場に関する調査結果では、2016年には米国企業従業員の43%がリモートワークをしており、その数は 2012年の39%から上昇しています。
またこの調査結果によると、「リモートワークはほとんどの業界で増加」しており、増加が最も著しいのは、ファイナンス、保険、不動産、交通、製造および建設、小売り業。そのほかにもヘルスケア、コンピュータ、 情報システム、法律、公共政策などでコンスタントに増えています。
したがって「リモートワークが敗退へ向かっているという事実はない」という主張は十分可能ですが、今回の記事で話題になった6社が懸念している「オフィスワークでのみ可能だった、人と人とのコラボレーションの喪失」という問題はどうなるのでしょうか。
人と人とのコラボレーションは本当に失われたのか?
マサチューセッツ工科大学(MIT)のピーター・ハースト氏は、MIT従業員のリモートワークの実験で、チームの93%がコラボレーションは以前よりも良かったと答えていることを上げ、「コレボレーションの結果は期待を上回った」と述べています。
また、多くの「知識労働者」はたとえ在宅勤務をしていなくても、すでに通信やリモートで作業をしているという事実もあります。 一般企業でも、電子メール、会議通話、画面共有、その他のリモートコミュニケーションツールを介して人々がコミュニケーションをとるように促しています。知識経済がこの先より成長するにつれ、より多くの労働者がある程度リモートで働くことになるのは自然の流れではないでしょうか。
リモートワークプログラムを放棄している企業はあるものの、長期的な傾向では、より多くの企業がより多くの従業員をある程度のリモートワークで働かせているのが現状のようです。
まとめ
複数の大企業が、これまで許可してきた従業員のリモートワークを取り下げ、彼らをオフィスへ呼び戻していることはたしかに注目に値します。しかしそれをリモートワークの敗退と呼ぶのは早急すぎるようです。
リモートワークは「すべてか、皆無か」ではないため、リモートワークと生産性や効率との関係を測りながら、各企業が自社に見合った形でこのワークスタイルを取り入れればよいのではないでしょうか。リモートワークすべてを取りやめてしまうのは、もったいない気がします。
記事制作/シャヴィット・コハヴ (Shavit Kokhav)