司法書士/税理士/宅建士

数あるビジネス系プロフェッショナル資格の中から、独立志向のビジネスパーソンが取得を視野に入れるといい資格を紹介するこのシリーズ。前記事に続き「司法書士」「税理士」「宅建士」を取り上げ、その仕事内容と取得後のキャリアイメージに迫った。

「司法書士」――不動産登記と商業登記が2本柱

資格取得後ほとんどが独立

司法書士は不動産登記と商業登記を2本の柱とする資格だ。資格スクール「大栄」を運営するリンクアカデミーのサービス開発本部、楠本邦晴氏に難易度を聞くと「合格率は3%台です。それでも近年、合格率が上がってきて、今年は3.9%。学習期間では1年で合格する人はまれです。2年から3年かけて学習して合格される方が多いですね」とのことだ。

試験は年に1回、7月に催される。選択式試験と、規定通り正確に申請書類を書く書式の試験に分かれている。知識の取得と、書類の書き方を覚え込んでいく学習だと言う。

特徴的なのは、資格取得後に、ほとんどの人が独立開業をすること。「司法書士の場合は、資格の取得後に企業内で働くことは、ほぼありません。合格すると司法書士会から研修先が紹介されます。そこで1年ほど働いて実務を覚えて、それから独立するパターンが多いのです」。

難関と言われる資格だけに取得後の競争相手は比較的少なく、開業する利点は多いと言われている。同スクールの事例でも、多くの合格者が自宅を事務所に兼用するところから開業している。「自宅に来客があるのは困る」と思われるかもしれないが、顧客が直接、来所することは少ないというから、そうした始め方でも問題ないのだろう。まず実績をつくって、業務が拡大してから事務所を借りればいいわけで、同スクールの卒業生もそうするケースが多いそうだ。

営業力で顧客を開拓できれば高年収も難しくない

開業にあたり、努力次第ではあるが1000万円以上の収入は珍しくはない。大切なのは、やはり営業力だ。例えば、不動産登記の業務は金融機関からの紹介が多いという。金融機関出身の合格者であれば、前職の人脈から仕事が広がることもあるだろう。

同スクール卒業生が取っている営業スタイルで多いのは、まずは名刺を持って金融機関や不動産会社に挨拶を行なうことだという。そうした地道な活動を続けるうちに、顧客からの紹介が増えていくというものだ。とはいえ、いきなり希望以上の案件が取れるとは限らない。この資格に限らず、独立するならある程度は生活費を確保しておいたほうが気持ちの上でも楽だろう。そうすることで、じっくりと地域に根付いた丁寧な業務、営業ができるはずで、それがさらに継続、新規案件獲得につながるはずだ。

リンクアカデミーのアシスタントマネージャー、野本美穂氏は取得後のキャリア形成について「司法書士は、他の士業の方々とネットワークを結んで業務拡大をされる方が多いようです。不動産の取り扱いが多い業務のため、堅実に営業を重ねていくことで信頼を培うことが大切です。また取引先の課題を解決するため、引き出しの多さも必要。キャリアアップのための学習を続けることが求められます」と説明する。

「税理士」――税の申告書類を税務署に提出、中小企業や商店主が顧客

「働きながら試験を受けて一回で合格」はほとんどない難関資格

「税の申告書類を揃えて税務署に提出するのが税理士の基本的な業務。税の知識は難しいところがありますから、街の中小企業や商店主が申告時に税理士に申告を依頼します」とリンクアカデミーの楠本氏は税理士の仕事について説明する。

税理士の試験は年1回。簿記の勉強をしてから税理士の試験を受けるのが一般的だ。最低、簿記2級が税理士試験を受験する際の目安になる。

年間の受験者は6万人前後 独立後の年収1000万円以上も珍しくない

税理士の資格取得は、企業への就職や転職の際に有利になると言える。会計、経理、税務を中心とする企業内税理士を採用する企業が増えているからだ。独立したいという人だけが目指す資格ではない。

もちろん独立開業にも合った資格といえる。この場合、近年では税理士の業務は申告書の作成に留まらず、顧客となる企業の経営状態を見つめて、適切な提案を続けることが以前よりも求められる傾向があるという。一昔まえよりも専門家として求められる知見は広く深くなっているのだ。

野本氏は「税の計算自体はPCソフトで行なえる時代なので、コンサルティングが主な仕事になってきています。税の知識をはじめ、時代にマッチする柔軟なコンサルティングが求められます。やはり他の士業の方とネットワークを結んで仕事をされる方が多く、そこではリーダー的な存在になることが多いようです」とキャリア形成を語る。

独立開業にいたる場合、1000万円以上の収入を得ている人も多いそう。税理士の開業においても、個人で開業する場合と、税理士の事務所を開いて経営に当たる場合とで収入は異なると言える。成功例を目指すことは重要だが、まずは着実に増やしていくことを考えるべきだろう。

「宅建士」――旧称・宅建主任者

独学でなかなか合格できない人も多数

2014年に宅建業法が改正され、宅地建物取引主任者から名称が変更された宅地建物取引士(宅建士)。リンクアカデミーの楠本氏によれば、宅建士は不動産業、建築関係、金融関係に取得者が多い。「例えば、金融機関の方が不動産担保で融資を行なう際、最低限の知識がいるので宅建士の勉強をするなどの例があります。いろいろな業界で役立つ資格なので、受講者数が多いと言えます」という。

毎年20万人以上が受験する人気の資格で、合格率は15%程度。試験は年1回、毎年10月に行われる。試験は択一式の問題のみなので、暗記を中心に学習をしても比較的、合格しやすい資格と言える。

「独立開業しやすい」という声の反面、「それだけではダメ」という意見も

宅地建物取引士に合格した後は、都道府県知事の登録を受けて「宅地建物取引士証」の交付を受ける。そのためには、宅地建物の取引に関して2年以上の実務経験を持つか、国土交通大臣が指定する実務講習(実務経験ない人が対象)を受ける必要がある。

独立開業がしやすい資格であると前出の楠本氏は語っている。設備投資の必要がほとんどなく、例えば不動産業では物件情報のネット検索システムが確立しているので仕入れのコストもかからないからだ。たしかに初期投資にコストはあまりかかりそうにない。

また他の士業は取り扱う件数やその作業時間に一定の上限ラインが出てくるが、宅建士の場合は、例えば都心部の物件などは単価が高いので、取引が円滑に進み、かつ複数を手掛けることで、売買の手数料を元にした報酬が高くなることがある。

不動産業界だけではなく、店舗開発を行なう小売・外食産業や、不動産の担保価値を判断する金融業界、企業が保有する不動産の運用や、事業用地の確保と契約など、宅建士が活躍する分野は幅広い。不動産系の資格を取ったからといって、自分が活躍する世界を不動産業界に限定することはないのだ。

一方で、宅建士の資格を取得するだけでは事足りないとの意見もある。

前出の野本氏は「宅建士は取得者が増えていますので、それを持っているだけでは評価が上がらないという傾向があります」と指摘。その上で、「宅建士だけではなく、司法書士やファイナンシャルプランナーなど、いろいろな資格を身につけておくべきと言えるでしょう。そうした方が不動産業界や金融業界でコンサルタントとして活躍されていることが多いようです」というのだ。

例えば、宅建士を取得してから、1年半から5年をかけて司法書士の資格を取得する場合、顧客である宅建業者の信頼を得やすいために不動産の登記申請の業務が増えることがある。または、宅建士の取得から半年から1年をかけて行政書士を取得する場合、主に建築や土木関係の許認可を支援することで有利な開業になることがある。

紹介した資格はいずれも、取得すれば将来のキャリアイメージが広がるものばかりだ。独立を視野に入れるなら、資格はある種のライセンスともいえる。かかる時間や費用などのコストと取得後に得られるリターンをしっかり計算したうえで、検討してみてはどうだろうか。

ノマドジャーナル編集部
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