野村證券のIRコンサルを立ち上げユニクロ等著名企業始め700社以上の上場を支援した後にソニー生命を経て独立した福田徹さん(以下:福田)。独立後15年間も大小様々な企業を支援していますが、今回は2年後のマザーズ上場を目指す株式会社ピアズからの依頼を受け、IRと管理部門の強化に取り組みました。現場のノウハウがゼロという環境下でIPOのプロがどのように早期上場を実現したのか、桑野代表取締役(以下:桑野社長)さんと福田さんの両名にじっくりお話を伺いました。

今後の企業成長のためIPOを決意。知識や経験が無い中で、多方面から有識者のアドバイスを求めた

通信業界に特化したコンサルティングを展開し、スーパーバイザー的に店舗を支援

株式会社ピアズ 桑野隆司社長株式会社ピアズ 桑野隆司社長

桑野社長:当社のメイン事業は一言で言えばコンサル業です。もともとは通信業界に対する人材派遣やキャンペーン、プロモーションなどの支援からスタートしました。時代の流れとともにやがて商材はスマートフォンへと変化し、サービスも複雑化。売り方に悩む店舗が増加したため、現在は当社がスーパーバイジング的な役割を担って参入するようになってきていますね。

会社風土としては働きやすさを大切にしていて、例えば子育て中の社員は子供を会社に連れてきても良いことにしています。特に困ることもありませんしね。子供連れの通勤電車が危ないなら、タクシーを使ったり出勤時間をズラしたりしてもOKです。特別な取り組みをしているという意識はあまりなく、単純に優秀な社員に働いてほしいから会社が子育てを手伝っているという感覚です。理念として「無意味な常識に囚われず”意味のある非常識”を追求し、価値ある社会活動を行う」と掲げているとおり、物事の本質を捉えるための思考で行動しています。

優秀な人材や資金を集める信用力向上と資金調達の手段としてIPOを決意

桑野社長:利益を出すだけならこれまで通りの経営でも良かったのですが、当社は社員の平均年齢が30歳前後と非常に若いので、今後会社として成長し変化していかなければ、社員も当社に魅力を感じません。それに、高い目標を持つことは経営として健全と考えていました。

ただ、当社は非常にニッチなビジネスモデルです。これといった競合他社も存在しないのが特徴である一方、現状では今後の成長性も限られていました。何か新しいことをやろうと思ったら、人も資金も必要になります。

そこで今回有効な手段として選んだのがIPOです。上場によってブランド価値が生まれれば、優秀な人材が集まりますし、信用度が高まれば資金調達も容易になります。それに、世間から注目されれば会社としても新規事業に本気で取り組む気概が生まれるはずだと考えました。

早期段階からIPOの経験豊富な人材にジョインしてもらうことで、準備を万全にしたかった

桑野社長:目標は決めたものの、上場するためには課題が山積みでした。まずは「どの課題から解決すべきか」をクリアにしなければ、スムーズな上場はできないと思いましたね。とはいえ私にIPOの経験はありません。だからと言って証券会社や監査法人の言うことだけを聞いていても上場のある側面しかわかりませんから、情報不足です。ここは上場経験のある先輩やアナリストなどとにかく多方面から話を聞いて、何が最も的確な内容なのかを探るのが一番の近道だと思いました。

元々プロ人材の方には来てもらっていましたので、複数のプロシェアリング会社を検討しました。その中で当社の状況やタイミングにピッタリの方を紹介してくれたのがサーキュレーションさんで、それが福田さんです。

今回、福田さんにIRをメインとして管理部門の強化をお願いしたのも、豊富な知見が欲しいという視点からです。福田さんの経歴を拝見すると実に様々な会社にIRコンサルタントとして携わっていました。そのナレッジを生かしてしっかりと準備をするために、審査に入るかなり前段階から来ていただくことにしました。

管理部門のメンバーからは「ハンズオンで一緒に手を動かしてくれる人材がいい」という意見もあったのですが、相手に頼りきってしまっては意味がありません。ナレッジを教えてもらい、実践するのは自分たちであるべきだという点でも、経験豊富な福田さんをプロ人材として招くのが最適だと考えました。

長年IRに携わってきた福田さんが大切にする信念は「素早いアウトプット」

プロ人材 福田徹氏プロ人材 福田徹氏

福田:私はIRコンサルタントになって25年のキャリアがあるので、とにかく経験は豊富です。おそらく日本一経歴としては長いのではないでしょうか。コンサルタントとしてのスタートは野村證券のIRコンサル部を立ち上げた時で、当時はユニクロの上場にも携わっています。ソニー生命のコンサル営業を経てから独立し、現在は上場前後の戦略立案や、金融機関との人脈を生かしたM&Aの仲介、VCや銀行からの資金調達支援まで、経営の根幹となる部分の案件を多く手掛けています。日々経営者とお会いしていますから、経営戦略に関するご支援をすることもあります。

支援に入る上で大切にしているのは、とにかく素早くアウトプットすることです。「兵は拙速を尊ぶ」という言葉にあるとおりですね。世の中のスピードは速いですから、たとえ中途半端な回答になったとしても迅速に取り組むことが重要だと思っています。

ピアズの状況に応じたスケジューリングと実地での体験を重視するアドバイスが支援のポイント

白紙の状態からスケジュールを引き、社長とメンバーにIPOの概要をレクチャー

桑野社長:支援は約1年間で、月2回、2時間のミーティングを行なってもらいました。メインのカウンターパートは取締役管理部長と管理部門のメンバー5名ほどでしたが、まだ経験の浅い若い社員ばかりでした。モチベーションの高い素人が、福田さんという玄人の方にゼロから教えてもらったような支援でしたね。

まずは全体のスケジュール設計をしてもらい、ミーティングを通して今後やるべきことを明確にし、次のミーティングまでに宿題をこなしてまた何をするべきか聞いて……という感じで進みました。

福田:会社によって必要になるスケジュール設計は異なります。例えば資本政策がすでに終わっている会社もあれば、ターゲットとなる同業他社が決まっていて、そこより株価を高くすることを目指す会社もあるわけですよね。そこに応じてロードマップを変えるのですが、ピアズさんの場合は全てゼロからのスタートでした。

ですから、まずは上場したらその後の1年間でどういう活動が待っているのかもお伝えしました。説明会やアナリスト対応、投資家対応、最後が株主総会ですね。株主総会なんかはあまり早めに準備をしても意味がありませんから、そこは直前で対策が必要になるといったスケジュール感もお話しさせていただきました。

桑野社長:最初の1ヶ月は、私個人も指導してもらいました。上場企業の社長になる上でどんな要素が必要になるのか、一覧を書類でもらって勉強しましたね。印象的だったのは、株主総会を見に行って上場企業とはどんな活動をしているのかイメージを作った方がいいというアドバイスです。

福田:文字だけで知識を得るのと実際に自分の目で現場を見るのとでは、得られる情報量が大違いですからね。

桑野社長:普通に会社経営をしているだけなら不要なことを新たに始めなければならないわけですから、正直面倒なことも多かったです。上場企業は自分たちが思っている以上に企業としてしっかりしなければならないのだと思いました。実際に投資家からお金を預かる立場になった今は、確かに必要なことなのだと実感しています。

クリアにしなければならない規定なんかも非常に多かったのですが、その点は福田さんに他社事例を教えてもらいながら進めていきました。他社はどうしているのか、通常のフォーマットはどうなのかといったノウハウがあるのはやはり大きいです。

組織体制の整備から株主総会で肝となるテクニックの伝授に至るまで、家庭教師のように丁寧に指導

桑野社長:体制部分についても福田さんに相談しました。もともと当社は私の直下に管理部門があり、その中でIRを実施するという形でスタートしているのですが、メンバーは先程言ったとおり全くの素人でしたし、経営企画やCFOも存在しませんでした。BtoBビジネスだったので広報担当もいなかったんです。

福田:IRの資料を作成するために担当者が必要ですから、どんな体制や役割が良いかという部分についてデザインさせてもらいました。

桑野社長:現在は経営企画部を設け、その中にIR担当という体制に変更しています。

あとは株主総会の運営についても、福田さんに知見をいただけてかなり助かりました。もちろん信託銀行も株主総会運営の知識を教えてはくれるのですが、実践的なノウハウではありませんし先んじて準備するには少しタイミングが遅いですから。

福田:私は20年以上前から株主総会を見てきているので、昔と今の違いもわかります。現代において多少テクニックが必要なのは、質問や動議をどう捌くのかという点ですね。そこが重要だとお話ししました。

桑野社長:支援が終了してからは福田さんに1年間教わったことを下地にしながら、入れ替わりで証券会社とやりとりをして上場を進めました。証券会社の方が教えてくれるのが予備校における試験の直前対策のようなものだとしたら、福田さんは家庭教師のように将来を見据えた勉強を教えてくれた感じでしたね。

多くの他社事例をインプットしてもらったことで、ミス無くスムーズな上場を達成

桑野社長:今回の成果は、まさに目標としていた2年間で無事マザーズ上場を果たせたことですね。福田さんに他社のケーススタディを教えてもらうことで細かいミスをせずに済んだのが、上場成功の大きなポイントだと思います。良いところをアピールするというよりは、上場審査は減点方式のような印象を個人的には感じました。

IPOのノウハウは書籍なんかにはありませんから、早めに専門家に支援を求めたこと自体も功を奏したと思います。

福田:状況はリアルタイムで変わっていきますからね。随時対応しなければなりません。

桑野社長:今後はまさに上場企業としてこれから活動していくという段階ですが、福田さんから投資家との向き合い方について教えてもらったのも大きな資産になりました。何も知らないと不安で気張りすぎてしまいますから。もちろん熟知しすぎていても気が抜けてしまうと思うのですが、知識以上に自分たちが何のために投資家と向き合うのかという部分が大事だと知ることができました。

あとは、株主総会で過去にどんな事例があったのかいろいろ知れたのも財産ですね。いろいろ面白い取り組みをしている会社もあるのだと初めて知りました。どれが正解ということではなく、自分たちがどんな風にアピールしたいのかという思いがあるからこその工夫なのだと感じています。もちろんそこで話題になれば株価にも反映されますしね。

福田: IRについて一通りのことは上場前に知ってもらったので、それは役に立っているのではないかなと思います。

私個人としては、これまでこんな若い会社を手掛けたことが無かったんです。みなさん年齢的にはお若いですが、学ぼうとするモチベーションは旺盛でした。そこについていかなければという気持ちで取り組めたのが良かったです。知識のリニューアルもできました。

自社にマッチした人間性を持つプロ人材にジョインしてもらうメリットは大きい

社風や若いメンバーに合わせて知見を共有してくれたからこそ社内のモチベーションも高まった

桑野社長:IRだ、上場だと言っておきながら若い素人のメンバーしかいない中で、福田さんには彼らに合わせた柔軟な対応をしていただいて感謝しています。その点ではプロシェアリングは人間性も大事だなと思いました。福田さんは私たちの社風を深く理解してくださっていたこともあり、メンバーもやる気になれていたのではないかと思います。

福田:私は15年ほど大学で講義もしていますからね(笑)。いつも若い子の相手をしています。

桑野社長:そういう意味だと、「プロ人材にはこういう人が良い」という絶対は無いんですよね。会社のそのときの課題や社風などを理解した上でないと、誰がいいのかはわかりません。サーキュレーションさんはそういう点がプロシェアリング会社の中でも上手だなと思います、担当コンサルタントの高橋さんはその辺を今もとてもうまく汲み取ってくれています。とにかく大勢のプロ人材をリストアップするのではなく、私の悩みを的確に捉えて「こういう人がいますよ」と提案してくれました。

通信業界に留まらず、広い意味での「課題解決会社」として邁進していきたい

桑野社長:IPOを機に、当社は大きく経営のあり方を変えようとしています。今後は通信業界だけではなく、日本社会における課題解決の会社として活躍していきたいです。分野も業界も多種多様に存在しますが、私がその中で取り組んでいきたいのは「人」です。働き方改革などの課題を解決する先駆者的な企業に成長していきたいですね。そこを実現して、初めてグローバルに目を向けることができる気がします。

福田:ピアズさんは機関投資家だけではなく、個人向けでも人気が出ると思いますよ。ファンができれば出来高が増えて長期安定化も図れますから、今後は株主の層を拡大していってもらいたいですね。今は投資家からESGが注目されていますから、決算短信や有価証券報告書で少しでもESGに触れておくのがおすすめです。今後、ますます株価が上がることを期待しています。

上場企業になるために早期から福田さんを招いて準備を積み重ね、スムーズなIPOを実現したピアズさん。未知の領域に対してモチベーションの高いメンバーが福田さんの教えをしっかりと吸収したことが、確実な成功に繋がったのだと感じました。

本日はお忙しい中、ありがとうございました!

IPOに向けたIRと管理部門強化案件におけるまとめ

左:サーキュレーションコンサルタント 高橋崚真
中央:プロ人材 福田徹氏
右:株式会社ピアズ 桑野隆司社長

企画編集:新井みゆ

写真撮影:樋口隆宏

取材協力:株式会社ピアズ

※ 本記事はサーキュレーションのプロシェアリングサービスにおけるプロジェクト成功事例です。