女性が社会でキャリアを築き、管理職に就くことも増えてきているようです。それに伴い、夫が転勤や転職のため遠方で働くことになっても、妻は現在の仕事を続けるべく家にとどまり、休日のみ家族全員で過ごす「週末婚」を選択する夫婦が増加しています。
フルタイムで働いているとして週に5日も離れている中で、どのように夫婦関係を維持したり、子育てを行ったりしているのでしょうか。当事者の声も聞きながら考えていきたいと思います。
男女とも「夫婦共働き」に好意的
総務省の調査によると、正規雇用の女性は1078万人(2016年)に上り、2006年の1036万人から42万人増加しています。またそれに伴い、婚姻関係に対する考え方も変わってきているようです。婚活サービスを提供する株式会社IBJが行った「結婚した後も従来に縛られない関係」のアンケートによると、女性の45%、男性では50%が「夫婦共働き」を望んでいることが分かりました。
理由としては、「共働きをして経済的に豊かな生活をしたい」「専業主婦(夫)だと世間の感覚を掴めなくなる」といった意見が挙がっていました。このことから、男性が外で働き、女性が家で家事や子育てをするという従来の家庭のスタイルが、それほど重視されていないことが分かります。お互いの仕事を尊重するために、従来の夫婦生活とは異なる選択肢を受け入れる土壌ができつつあるといえるのではないでしょうか。
海外に見る、さまざまなカップル・結婚の形
1999年に永作博美さんが主演したドラマで広く知られるようになった「週末婚」ですが、実際にやっている人はごく少ないのが現状です。ここで比較のために、海外におけるカップルや結婚の形を見てみましょう。
■スウェーデンの「セルボ」は別居婚のようなもの
スウェーデンには結婚とサンボの2種類の制度があります。サンボは日本の事実婚のようなもので、結婚したのと同じ程度、法的に守られます。さらに「セルボ」という制度があり、別々の場所で住む夫婦間の契約を指します。
ではなぜ、このような制度が生まれたのでしょうか。同国では人口に対して、住宅やアパートが足りておらず、住む場所を確保するのが大変だという背景があります。そのため、結婚してもすぐには家を確保することが難しい、または、それぞれの住居を手放さないほうが得、というわけなのです。
■婚姻より緩く、同棲よりも法的権利を享受できる「PACS」
フランスでは、「結婚」はとても重い契約として捉えられています。カップルは市役所で結婚式を行い、市長から夫婦と認めてもらった後に、正式な挙式を挙げることができます。
もし離婚をすることになった場合は、弁護士を雇って手続きを行わなければいけません。続く裁判では時間や費用がかかるだけでなく、精神的にも大きな負担となります。こうした状況になるのを避けるため、なかなか結婚に踏み出せない人が多いようです。
そこで世間が目をつけたのが「PACS(パックス)」。もともとは結婚のできない同性カップルに夫婦と同程度の法的権利を認めるという制度としてつくられましたが、現在では、ほとんどの利用者が異性同士のカップルです。
PACSを利用すれば、結婚していないカップルも夫婦と同じ社会保障を受けられます。また、共同の納税者となれるため、経済的な面で助け合うことが可能。PACSは、夫婦と恋人の間のような関係になれる制度なのです。
週末婚の維持には、金銭的な余裕が欠かせない
実際に週末婚をしている方は、どのような思いを抱きながら家庭生活を送っているのでしょうか。今年の3月から転職した夫と離れて暮らすTさん(30代)に、週末婚を始めてからの変化などを、お聞きしました。
―週末婚を始めたきっかけを教えて下さい
夫が転職で関西に行くことになったのがきっかけです。私はコンサルタントの仕事をしているのですが、東京に残って仕事を続けたいという希望があり、週末婚生活をスタートしました。
彼は月に3回ほど、東京の自宅に戻ってきます。金曜の夜に夜行バスで関西を出発し、土曜の朝に家へ着いて週末を一緒に過ごします。そして日曜日の夜に再び夜行バスに乗り、関西へ帰っていくというスケジュールです。長時間の移動は疲れるので、体力的に大変だと思います。
―週末婚を始めるにあたって、夫婦の間で何か取り決めをされましたか?
週末にはなるべく帰ってきてもらって、一緒に過ごすことを心がけています。決めたことはそれくらいでしょうか。空いた時間に携帯電話でコミュニケーションが取れるので、何かあればその都度報告するようにはしています。
―そうなんですね。週末婚を始めて、何かメリットを感じていますか?
お互いの仕事を尊重しながら生活できていることですね。あとは、家事の分量が一人前になったので、短時間で済ませられるようになったことでしょうか。実は、この生活を始める前までは洗濯や料理などを分担しており、夫のほうが家事をしてくれる割合が高かったんです。なので最初は一人でできるのか不安でしたが、思っていたより大変ではないと感じています。
―では逆に、デメリットはありましたでしょうか?
私は体調を崩しやすい体質なので、具合が悪いとき、そばに誰もいないことですね。電話をすると夫は心配してくれますが、一人で家にいるとさみしさを感じますし、やはり実際にそばで見守ってくれるほうが安心します。
あとはデメリットと言っていいかどうかわかりませんが、週末婚を始めてから、料理をあまりしなくなりました。一人分って、作ってもどうしても余ってしまうので。だったら仕事の帰りに外食しちゃおうかな、という気分になり、外で済ませてしまうことが多いですね。
―週末婚をしていて、「こんな制度があったらいいな」と思うことはありますか?
関西から帰省するたびに少なくない交通費がかかってしまっているので、すべてとは言いませんが、国や企業が負担する制度を作ってくれると助かります。お金の余裕がなければ交通費を捻出できず、週末すら会うことが難しくなってしまいます。これ以上、一緒に過ごす時間が少なくなれば、夫婦の関係に何かしら悪い影響が出てしまうかもしれませんからね。
おわりに
互いの仕事を尊重した上で週末婚を選択する夫婦は、今後さらに増えていくと考えられます。しかし、毎週末に配偶者と子どものもとへ帰り、ともに過ごせるほどの金銭的余裕がどの家庭にもあるとはかぎりません。
今後は週末婚の夫婦に対し、国や企業が交通費を出したり、帰省の際の移動日として特別休暇を設けたりと、何らかの補助を施すことが必要になるのではないでしょうか。そうすれば海外のように、日本でも従来に縛られない夫婦関係が、より一層浸透していくでしょう。
ライター:平賀 妙子
1989年、三重県生まれ。広告代理店勤務を経て、ライターへ転身。
企業のPRライティングやビジネス書の編集、IT企業のオウンドメディアの執筆などに携わっている。
普段は当たり前すぎて見逃されていることにスポットを当てて、
その魅力を伝える文章を書いていきたい。