「保育園落ちた、日本死ね!!!」というタイトルの匿名の書き込みが、2016年に話題となりました。ブログには、子供を保育園に入れることができず、待機児童を抱えることになった方(おそらく女性)が、保育園不足を痛烈に批判した内容が書かれています。

 

この事態を発端として、待機児童問題が社会話題になりました。これは子どもにとってだけではなく、親のキャリアにも関わる社会問題です。具体的にどのような影響があるのか、また保育園に入れなかった子どもたちはどのように過ごしているのか。待機児童問題への対策とあわせて見ていきたいと思います。

働いていても、在宅であれば減点対象に

厚生労働省の発表によると、待機児童の数は前年から386人増加し、全国で23,553人に上ることが判明しました(2016年4月1日時点)。最も多いエリアは、東京・世田谷区の1,198人。その次に岡山市の729人、那覇市の559人と続きます。

 

そもそも保育園とは、子育てをする上で、時間的余裕がない家庭の子どもが優先して入園できる施設です。入園させたい場合、親は在住するエリアの役所で申請手続きを行います。しかし希望者が施設の定員を上回る場合は、役所側が入園を許可する児童を選考。審査には「加点制」を導入しており、家庭の事情によって加点・減点の判断が下されます。

 

たとえば「仕事の拘束時間が長い」「親の介護をしている」といった場合は、時間的余裕がないとみなされ、加点対象になります。一方で、働いているけれど、在宅で作業している場合は減点対象となります。これは家にいる時間が長いため、子どもの世話をする余裕があると判断されるためです。

 

さらに注意が必要なのが、基準が全国共通でないこと。市区町村によって加点項目も点数も変わってくるため、会社と居住地の市区町村が違ったり転勤した場合には気をつけなくてはなりません。少しの点数の違いで、子どもが入園できるか否か明暗が分かれるということは、仕事を続けられるかどうかも、ここで決まってしまう可能性が高いということ。女性にとっては、生死を分けるかのような問題といっても、過言ではないでしょう。

 

待機児童が発生する原因として、①保育施設の数が不足していること、②保育士が足りていないことが挙げられます。①についてはすぐは無理でも箱をつくるという話なので解決は比較的スムーズです。問題となるのは②の保育士不足です。2017年に必要とされる保育士の数は約49万人と推定されていますが、確保できる人数は38万6000人。10万4000人も足りていない計算になります。

 

しかし実は、保育士の資格を持っている人は全国に149万人もいます。ではなぜ、資格を持っているのに保育士として働かないのでしょうか?理由のひとつは、保育士が一般的に薄給であるにもかかわらず、大きな責任が伴うことです。給与を調べてみると、全国平均で年収323.3万円(平均年齢35.0歳)。全産業平均の489.2万円(同42.3歳)に比べるとかなり低いことがわかります(平成27年度 賃金構造基本統計調査)。安倍首相が2017年度から月給の2%(約6000円)を引き上げる方針を表面しましたが、これでは焼け石に水。働く動機にも、働き続けるモチベーションにもなりませんね。

待機児童を取り巻く諸問題

待機児童にまつわる問題というと、母親が働けなくなることがクローズアップされがちですが、他にも看過できない問題はいくつかあります。ひとつずつ、詳しく見ていきましょう。

集団生活の中でしか養われない「協調性」というスキル

保育園に通う児童と待機児童は、一日の過ごし方が大きく異なります。保育園(ないしは幼稚園)では友だちと遊んだり、お昼ご飯を一緒に食べたりします。またプール開きや親子遠足、運動会などのイベントもあります。

 

一方、待機児童は親、祖父母などの親族と一緒に過ごす時間が長くなります。子どもにとって、家族とずっといられることは嬉しいことかもしれません。しかし同年代の子供たちや、家族以外の大人と過ごすことは、また違った楽しみがあり、本人の成長にもつながります。昔のように兄弟がたくさんいたり、団地など地域社会の中で遊べる環境がない今、保育園で集団生活を経験することは、学校や社会で必要となる協調性などを、無意識のうちに養ってくれる貴重な機会となるのです。

育休の延長が、職場復帰を困難にする

育児休暇を経て復職を考えていたけれど、子供が保育園に入れなかった場合、親は勤務先へ「育児休暇の延長」を申請することができます。日本では現在、最長で1年半の育児休暇の取得が可能ですが、2018年からは、育休延長期間を2年に延長する方針を厚労省が発表しました。この制度により、出産・育児による退職者が減少し、復職が容易になることが期待されています。

 

しかし一方で、育休を延長することにより主に母親の社会復帰を難しくさせるのでは、という懸念もあります。1年以上も会社から離れていれば当然、社員の入れ替わりや部署異動がありますし、事業内容が変わる可能性もあります。こうした中で、子育てをしながら職場の雰囲気や仕事に慣れていくのは、なかなかたいへんなもの。育休中に同期の男性社員が昇進していて、キャリアアップのチャンスを逃した、という話もよく聞きます。

 

また現実問題として、育休が2年になったとしても保育園に入ることができなければ、近くに親族がいて子どもを見てもらえるなど特別な事情がない限り、退職を決断せざるを得ないことは、目に見えています。

 

こうした事態を避けるため、「ベビーシッター」に子守りを頼む事例が増加しています。たとえば、スマートシッターという会社では、子ども一人あたり1時間1,500円〜でベビーシッターが世話をするサービスを提供。食事の補助に加え、ピアノや文字書きを習ったり、保育園や習い事のお迎えなども頼むことができます。

 

欧米に比べて日本ではベビーシッターを雇うことは、これまであまり一般的ではありませんでした。その理由には、子育ては母親がするべきといった見えない圧力や他人を家に入れたくない、といった日本人ならではの意識があったと思います。
ですが、時代は変わりました。核家族化や地域のつながりの希薄化が進み、両親や隣近所などに気軽に子どもを預けることができなくなってしまったのです。こうした背景から、ベビーシッターの需要は今後ますます、高まっていくでしょう。

国には任せておけない!NPO発信の新プロジェクトが始動

政府や厚生労働省はもちろん、東京都では小池百合子都知事が2017年度予算案で待機児童対策に過去最大の1381億円を計上するなど、国という単位での対策が続々と打ち出されています。しかし、待機児童問題は現在進行系の課題であり、さらに悪いことに対応が後手に回ってしまっていることで、年々深刻化しているようにも見えます。
こうした状況を打開すべく立ち上がったのが、NPO法人フローレンスです。

小規模施設で一人ひとりに向き合った保育を

認定NPO法人フローレンスは、虐待やひとり親による貧困など、子どもに関わる問題解決のための活動をしている団体です。待機児童問題に対しても取り組んでおり、2010年には都会にある空き物件を改装して、0〜2歳児を対象とした19人以下の小規模保育園「おうち保育園」を江東区にオープンさせました。

 

この取り組みは2012年に「小規模認可保育所」として国の認可事業に採用されます。そして3年後の2015年には、全国で1,655園と瞬く間に増加。子どもを預ける場所に困っていた親にとっては、心強い味方となったことでしょう。

 

おうち保育園は少人数制のため、保育士が子どもたちの話をじっくり聞けるのが特徴です。一人ひとりの子どもと密に交流できるため、親も安心ですし、保育士の方でも大きなやりがいを感じられるようです。

おわりに

待機児童問題は、すぐに解決するものではありません。育休を延長するのか、ベビーシッターに頼んで社会復帰をするのか…さまざまな選択肢が用意され始めています。万が一の場合を考えて、育児をサポートする会社や自治体の取り組みを、まずは詳しく調べることが先決かもしれません。

ライター:平賀 妙子

1989年、三重県生まれ。広告代理店勤務を経て、ライターへ転身。
企業のPRライティングやビジネス書の編集、IT企業のオウンドメディアの執筆などに携わっている。
普段は当たり前すぎて見逃されていることにスポットを当てて、
その魅力を伝える文章を書いていきたい。