現在では、文系総合職にも広まりつつある、フリーランスという働き方。本シリーズでは、興味はあるものの、「現在の仕事や職種と、どう接続できるのかがわからない」という方に向けて、フリーランスとして活躍するために必要なスキルや経験の身に付け方について、解説をさせていただいています。
今回は、モデルケースを通じて解説する第二弾。ジョブローテーションが当たり前の日本で起きがちなキャリアを積んできたケースについて、取り上げていきたいと思います。

 

【モデル:Bさん】
社会人10年目、女性33歳。3歳と1歳の子どもを持つワーキングマザーでもある。
ECサイトを運営する会社で、営業2年→システム部門2年半→企画2年→現在総務2年目と、さまざまな部署を渡り歩く。その間に、二度の育児休暇を取得。辞令のままに異動し、それぞれの部署で成果も上げてきたものの、10年で何ができるようになったのか、と考えた時、不安がよぎる。子育てとの両立のため、フリーランスという働き方に興味がある。

“流されて異動”に終止符を打とう

日本では、ジョブローテーションが広く行われています。あらゆる部署を経験することで、会社を多様な角度から俯瞰して見ることができるようになり、ひいては会社の重要なポジションを担える人材を育成することを目的としています。
そのため、Bさんのように、長く1社に勤め、あらゆる部署での経験を積んできた方は、非常に多くいらっしゃいます。

 

もちろん自分の描くキャリアと異なる辞令を受けた場合には、上司に相談したり、異動を拒否したりすることもできます。ですが、「取り扱う商品・サービスが好き」「一緒に働く仲間が好き」といったモチベーションの方、真面目に会社から与えられた役割を全うしてきた方などは、素直に異動を受け入れてしまうため、このような経歴になりがちです。

 

また、器用になんでもこなせる方は、会社からの信頼が厚く、「ここの部署で人が足りてないが、適任が見当たらない。あの人なら、初めての業務でもきっとうまくやってくれるだろう」と期待され、異動となるケースもあります。

スキルと経験の積み重ねが相乗効果を生む

ジョブローテーションには、良いケースと悪いケースがあります。
良いケースは、業界や会社を跨いで市場価値が上がる異動の場合。悪いケースは、社内での価値しか上がらない異動の場合です。

 

良いケースから見ていきましょう。

 

営業で顧客のニーズを掴み、その後、企画に異動して顧客の声を反映する新しい商品を生み出す。ニーズにマッチした商品は顧客にも広く受け入れられ、売上も立てることができた。さらに次のステップとして、新商品開発や既存商品のテコ入れに複数従事。マーケットの動向やカスタマーのニーズ、競合対策なども含めて経験を積む。その後、経営企画に異動。事業計画策定やグループ会社の管理、M&Aなどを経験する。
といった例が考えられます。

 

前の部署で培った経験や知識が、ちゃんと次に繋がっていることが伺えますね。実績を上げているので、会社への貢献度も高く、徐々に経営に近いポジションで活躍できる人材に育っていることがわかります。
また、新しい商品・サービスの生み出し方、事業計画の立て方など、社外でも十分通用するスキルが身に付けられているため、転職や独立もスムーズに行えるのではないかと期待できます。

 

一方の悪いケースとは、どのような場合なのでしょうか。実は、Bさんのケースがそれに当たってしまうのです。
理由は、やってきた仕事に連続性がなく、まったく関係のない部署・仕事を細切れにやってきているからです。もちろん、社内では意味ある異動だと思うのですが、いったん社外に出ると、「何ができる人なのか、よくわからない」という評価になってしまいがちです。
そうなると、専門性を強く求められるフリーランスとしての独立は、戦略を立てて行わないと難しくなってきます。

適応力や調整力も、立派な”スキル”

では、Bさんがフリーランスとして活躍するには、どうしたらいいのでしょうか。まずは、Bさんがこれまでの経験で身に付けてきた強みについて、見ていきましょう。

 

10年もの間、あらゆる部署で必要とされ、きちんと成果も上げてきた方ですから、
・事業を俯瞰して見る力
・適応力の高さ
・あらゆる部署、タイプの人とコミュニケーションが取れる柔軟さ
・調整力
といった能力があると仮定できます。

 

Bさんのように、新しい業務をいち早くキャッチアップして、外の部署から来たからこその視点を生かし、改善を行った経験などがあれば、ぜひ自信を持ってアピールして下さい。フリーランスは、外部人材ならではの価値を発揮することに意味があるからです。

 

また、フリーになると、あらゆる業種・会社・立場の人と仕事をすることになります。Bさんの持つ適応力・調整力・コミュニケーション能力の高さは、そのまま仕事に活きてくるはずです。
ワーキングマザーとして、時間に制約がある中でも成果を上げた経験があれば、タイムマネジメントスキルの高さもかなりのものになっているはずです。これもフリーランスとして活躍する素養の一つと言えそうですね。

専門性を身につけるなら、社外での経験、資格取得も視野に入れる

それでは、フリーランスになる前に、Bさんが今後身に付けておくべき力とは、どのようなものなのでしょうか。

・専門性の高さ
・リーダー以上の役職経験

の2点は欠かせないと思います。

 

前回のコラムでも書きましたが、フリーランスは”何のプロなのか?”を強く問われます。そのため、「浅く広く何でもできる」は、フリーランスとしては弱いのです。

 

まずは、これまで携わってきた業務の中で、自分が一番楽しいと感じたもの、成果を上げられた経験について、思い返してみましょう。次に、その分野の経験や知識を積み、専門性を高めるには、どこの部署でどんな仕事に就けば良いのか、考えてみて下さい。上司や人事に相談しても良いと思います。長い間会社に貢献してきたBさんなら、悪いようにはしないはずです。

 

あるいは、仕事とは別に、高めたい専門性の先にある資格を学び、取得するのもアリです。筆者である私も、まる7年に及ぶ会社員生活の中で、3度の異動を経験しました。同じ事業部内ではありましたが、営業→人事→プロモーションと、役割は大きく異なりました。そこで、フリーランスになることを見据えて、会社員時代にキャリアカウンセラーの資格を取得しました。役割は異なっても一貫して人材業界に関わってきたのを形にしようと思い立ったこと、高校時代からカウンセラーという仕事に興味を持っていたこと、などが理由でした。

 

もし、昔から興味はあったけれどトライできていなかった資格などがあれば、これを機に勉強してみてはいかがでしょうか。

意外!?フリーランスでもリーダー経験が重宝される理由

次に、リーダー以上の役職経験についてです。33歳10年目という数字は、会社によって位置づけは異なりますが、ベテランと見られてもおかしくありません。リーダー・マネージャーはもちろん、場合によっては部長クラスの役割を務める人も出てきます。会社を出る前に、組織をマネジメントしたことがある経験は積んでおきたいところです。

 

「フリーランスになるのに、マネジメント経験が役に立つの?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんね。ところが、とっても重要な経験なのです。
フリーランスであっても、プロジェクトを丸ごと受注して、社員や自分以外の外部人材をマネージする必要性があったり、社長や役員の相談役のような立場でアドバイスすることを求められたり、プロジェクト終了後に外部人材が抜けても、ちゃんと社員だけで回る仕組みを作ることを期待されたり、というケースは多くあります。
マネジメント経験があれば、こうした案件も受けることができるようになり、他の人との差別化にも、競争優位性にもなるのです。

 

いかがでしたでしょうか。
キャリアコンサルタントとして相談に乗っていると、「社内で”何でもできる”は、結局社外では”何もできない”なんですね」と落ち込んでしまう方もいらっしゃいます。その方の指向性やタイプを見て、会社に留まることをオススメする場合もあります。

 

ですが、もしフリーランスとして活動したいという思いが強いのであれば、ぜひアクションを起こしてみてください。自律的にキャリアを紡いでいくことは、難しさもありますが、人生100年時代のこれからを見据えると、必要なことです。それに、前向きにキャリアを切り開いていく姿は、お子さんにもきっと良い刺激を与えてくれることと思いますよ。ぜひ、チャレンジしてみてくださいね!

専門家:天田有美

慶應義塾大学文学部人間科学科卒業後、株式会社リクルート(現リクルートキャリア)へ入社。一貫してHR事業に携わる。2012年、フリーランスへ転身。
キャリアコンサルタントとしてカウンセリングを行うほか、研修講師・面接官などを務める。ライター、チアダンスインストラクターとしても活動中。