今年2月のハフィントンポスト紙は「2つ目の仕事を得ないとホームレスになってしまう―割増賃金の切り下げに反応する労働者」という記事を掲載しています。オーストラリアでは、日曜と祭日の割増賃金が大幅に削減されたのです。
割増賃金の切り下げ
オーストラリア公正労働委員会は今年2月、日曜と祭日の割増賃金を削減し、何百万もの小売業者、観光およびファストフード産業労働者が年間6千ドル(約65万5,000円)の減給に甘んじることになりました。具体的には、フルタイムおよびパート・アルバイトの祝祭日の割増賃金が250%から225%に削減され、臨時労働者の賃金は250%に、薬局勤めでは午前7時から午後9時までのフルタイムとパートタイム従業員の賃金が200%から150%に引き下げられることになったのです。
「より多くのオーストラリア人が週末や不規則な時間に働いて、観光や病院、小売店やサービスにいつでもアクセスできるようにするためには、割増賃金を下げるのではなく、それを守ることが必要なはずだ」と、労働者の権利を擁護する政治家のクリス・ボーウェン氏は語っています。オーストラリア労働協議会のゲド・カーニー会長も「適切な介入がなければ、われわれはこの国で貧困ライン以下で労働する〝勤労貧民″になってしまう」と述べています。
報酬が削減される人たちは、生活費を補うために労働時間を伸ばすか、第二、第三の仕事を得ることを余儀なくされそうです。
オーストラリアのフリーランス事情
上記のように雇用収入が減った場合、労働者は副収入・追加収入の道を探さなければなりません。オーストラリアでは現在、追加収入を得るためにムーンライター(夜間労働者)として働いている正規雇用者が74万6千人いるそうです。そのうちの5人に2人がフルタイムのフリーランサーになることを考えているというのですが、オーストラリアのフリーランス事情はどうなっているのでしょうか。
オーストラリアでも一昔前まで「フリーランス」という言葉は、「食べていけるかどうかわからない労働形態」と見なされてきました。しかしテクノロジーの発達は、オーストラリアの労働の形を確実の変えつつあるようです。Upwork、Freelancer 、 AirtaskerなどのP2Pパイオニアのおかげで、フリーランス市場に加わるオーストラリア人はますます増えています。
現在オーストラリアの労働力の3分の1に当たる、推定410万人が固定給の雇用を離れてフリーランスになっていると言われます。この数字は10年前にはほとんど存在もしなかったフリーランスセグメントへ加わった人が37万人以上も増えたことを示しています。
収益性の面から見ても、フリーランス経済は成功しているようです。Upworkの調査では、正規雇用を離れた人の51%が以前より多くの収入を得ており、そのうちの69%が1年以内にそれ以前の所得を上回ったと答えています。どれだけお金を積まれてもフリーランスを辞めて伝統雇用に戻ることはない、と答えた人は58%。フリーランスを始めた人の57%は必要性からではなく、柔軟性、自由度、週38時間労働を逃れて仕事と生活のバランスを取り戻すためだったと回答しています。
オーストラリア国立科学アカデミー(CSIRO)のステファン・ハイコビッツ博士の「明日のデジタル化された労働力」というレポートには、Uber、Airbnb、 Etsy、 RateSetterの成長には多少の減速が見られるものの、Upwork、 Kaggle、 InnoCentive、 Freelancerなどでは依頼者とフリーランサーのマッチングが行われ、小さなタスクでも効果的にアウトソーシングできるようになっていること、オーストラリア人の10人中9人が退職後フリーランサーとして収入を得ようと考えていること、フリーランサーは平均的な労働者よりも高い教育を受けていることなどが報告されています。
Envato社の創造的なエコシステム
フリーランスの共有スペースを牽引しているオーストラリアのスタートアップの一つに、メルボルンに本拠を置くEnvato社があります。2006年の創業以来、600万人以上のユーザのプロジェクトを手掛け、プラットフォーム上のフリーランスは総額5億ドルに近い収入を得て、同社を10億ドルのスタートアップにしています。フリーランサーは世界中からEnvatoプラットフォームに加わっていますが、中でもインドネシア、インド、ベトナム、中国などのアジア諸国からの参加が特に多いとのことです。
同社はEnvato Tuts +という無料のビデオコースや、コーディング、デザイン、イラストレーション、写真、ビデオ、音楽、ウェブデザイン、ゲーム開発、クラフトなどの創造的なスキルを教えるチュートリアルコースを提供しており、同プラットフォームの登録者の多くはTutsの学習者です。彼らは学んだスキルをEnvato市場に適用して、起業家が他の起業家に売り出すというエコシステムを創り出しています。
まとめ
米国と同様、オーストラリアでもフリーランサーは増加しています。数値的にも、米国を多少下回るものの、非常によく似た傾向を見せています。一般雇用で文頭のような減給が起きた時、労働者は副収入の道を探すことになりますが、ムーンライターの4割がフルタイムのフリーランサーを視野に入れているということは、この国でもフリーランス経済が将来の労働形態になる可能性が高いと見ていいのではないでしょうか。
記事制作/シャヴィット・コハヴ (Shavit Kokhav)