Airbnb、Uberをはじめとして、最近、注目を浴びているC to Cビジネス。C to Cビジネスでは事業者自らが製品やサービスを提供するわけではないため、資力のないベンチャー企業でもサービスをローンチすることが難しくなく、ベンチャー企業のサポートを専門としている私達(AZX総合法律事務所)の元には多くのアイディアの相談が寄せられます。
しかし、Airbnbのサービスが日本において実施されるにあたり、旅館業法の規制の適用が話題となっているように、C to Cビジネスを行う場合には法律上の課題に直面する場合もあり、折角考えて準備を進めても、ローンチ間際で法的な問題が発覚するというケースも少なくありません。
そこで、本稿では多くのビジネスモデルが共通して直面する課題について解説していきます。
前編では、許認可について解説いたします。
なお、本稿におけるC to Cビジネスとは、インターネット上で一般のユーザー同士が取引を行う、いわゆるC to Cビジネスの「場」を提供するビジネスを想定しています。本稿では、便宜上、「C to C」の一つ目のC、すなわち商品を販売したりサービスを提供したりするユーザーを「提供ユーザー」と、「C to C」の二つ目のC、すなわち商品やサービスを購入するユーザーを「利用ユーザー」といいます。
許認可で躓くな!誰が許認可取得の必要があるか?に注意
まずC to Cビジネスを立ち上げる際に初めに検討しなければならないのが、許認可、届出、登録等(以下便宜上「許認可」といいます。)です。これについては、①事業者自身が許認可を得る必要があるのか、②提供ユーザーが許認可を得る必要があるのかという二つの点から検討しておく必要があります。
①:事業者自身が許認可を得る必要があるのか?
C to Cビジネスの場合にはユーザー間での連絡手段がサービス上必要となるため、電気通信事業法上の届出が必要となるケースが多いです。実務上届出の要否は「電気通信事業参入マニュアル」に沿って判断されるため、かかるマニュアルを確認しておいた方が良いでしょう。基本的には、1対1でメッセージをやり取りする機能がある場合には、届出が必要となると理解しておけば良いと思います。
いわゆる仲介は、許認可の対象になるケースが多い
また、一般論として、いわゆる仲介(法律上は、あっせんや媒介などの表現も使用されます)行為は許認可の対象となるケースが多いです。例えば、建物の売買や賃借の媒介行為を行うためには宅地建物取引業の免許が必要となります。C to Cビジネスの場合には、提供ユーザーと利用ユーザーが結びつく側面があるため、事業者が行う行為が許認可の必要な仲介に該当しないかという観点から検討する必要があります。
まずは、上記の宅地建物取引業のように、やろうとしているビジネスに関連する仲介行為に許認可が要求されないかを検討するのが良いでしょう。
問題は、上記の検討の結果、仲介行為に許認可が必要となった場合です。
仲介行為に許認可が必要な場合は?
この場合、まず、許認可を取得してしまうという選択肢を検討することが考えられます。許認可を取得してしまえば安心してビジネスを進めることができますが、許認可を取得するためには一定の要件が課されることが通常であり、そもそも取得することが困難であるケースや、許認可を維持するための負担が大きいといったケースもあり得ます。
しかし、許認可を取得することが現実でない場合でも必ずしも諦める必要はありません。なぜなら、許認可が必要となる行為を行わない範囲であればビジネスを行うことは可能であるからです。C to Cからは少し離れてしまうかもしれませんが、一例を挙げます。
「求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあつせんすること」は「職業紹介」に該当し、職業安定法に基づく許可が必要となるのですが、単なる情報提供であれば職業紹介に該当しないとされています(「民間企業が行うインターネットによる求人情報・求職者情報提供と職業紹介との区分に関する基準について」)。つまり単に求人情報をサイト上に載せるだけであれば、許可は不要とされています。情報を掲載することも、広い意味では求人者と求職者のマッチングを促進する行為と言えますが、法的には異なるものだということです。
②:提供ユーザーが許認可を得る必要があるのか?
C to Cビジネスの場合にはユーザー間で取引が行われるところ、提供ユーザーに許認可が必要とならないかについても検討する必要があります。近時Airbnbのサービスが日本において実施されるにあたり、旅館業法の規制の適用が話題となっていますが、これは②の類型ということになります。すなわち、旅館業法は、旅館業を経営しようとする者は原則として許可を得なければならない旨を定めているところ、かかる許可を得ないで自宅を宿泊施設として提供するという提供ユーザーの行為が、旅館業法違反を構成するのではないかということが問題となっていります(今回はAirbnbの問題の検討は割愛します。)。
サービス提供側も責任を問われるリスクがある
①と異なり、許認可が必要となるのは提供ユーザーであるため、直接的に事業者がリスクを負うわけではないとも考えられます。しかし、刑法は教唆犯や幇助犯といった共犯についても刑事罰の対象となる旨を定めているところ、提供ユーザーが違法行為を行ってしまう仕組みのサービスを提供しているものとして、事業者が共犯としての責任を問われる可能性も否定できないものと考えます。また、仮に事業者が法的な責任を問われないとしても、ユーザーに逮捕者が出てしまったような場合には、現実問題としてサービスを継続することは難しいと考えられます。
従って、②の観点からもきちんと検討しておきましょう。
提供ユーザーに許認可が必要となったらどうすればよいか?
②の場合の難点は、検討の結果、提供ユーザーに許認可が必要となった場合において、①と異なり許認可を取得してしまうという対応ができないことです。
但し、この場合でも直ちに諦める必要はありません。
まず、提供ユーザーに許認可を取得していることを示すもの(許可証等)を提出させることをサービス登録の条件としてしまうことが考えられます。
(例)ソーシャルレンディングのサービスはどのように問題を回避しているのか?
また、取引の仕組みを工夫することで、問題を回避することができる場合もあります。例えば、提供ユーザーから利用ユーザーに対してお金を貸すというサービスについては、提供ユーザーが貸金業を営むものとして貸金業法上の登録が必要となるのではないかという問題が生じます。
上記のとおり、提供ユーザーから利用ユーザーに対して直接貸し付けるサービスは貸金業法上の問題があって難しいように思えますが、現に日本ではソーシャルレンディングのサービスを行っている会社がいくつか存在します。
これはどのようにして行っているかというと、以下のとおりです。(i)まず、資金を貸したいという希望を有するユーザーから、サービス運営者が運営するファンド(匿名組合)に出資を行ってもらいます。(ii)かかるファンドから金銭を借りることを希望している借り手に対して貸付を行います。(iii)(ii)の貸付けで得た利益は、利益分配という形で出資したユーザーに還元します。
上記のスキームの場合、最初に資金を出すユーザーは貸付けを行うわけではなくなるため、貸金業の登録は不要となるのです。但し、このスキームの場合、ファンドの募集運営をするためにサービス運営者が第二種金融商品取引業の登録を行う必要があり、また、貸金業を行うためにサービス運営者が貸金業の登録を行う必要があります。つまり、①の観点の許認可は必要となるのですが、①の許認可であれば自らでコントロールすることができるため、適法なサービス提供ができることとなるわけです(この場合、形式的にはC to Cではなくなってしまっているのですが、ビジネスの趣旨は達成できていると思われます。)。
(後編につづく)
(長尾 卓氏 AZX総合法律事務所 パートナー弁護士)
ベンチャー企業のサポートを専門としており、ビジネスモデルの法務チェック、利用規約の作成、資金調達、ストックオプションの発行、M&Aのサポート、上場審査のサポート等、ベンチャー企業のあらゆる法務に携わる。特にITベンチャーのサポートを得意とする。趣味は、バスケ、ゴルフ、お酒。
(高橋 知洋氏 AZX総合法律事務所 弁護士)
ベンチャー企業のサポートを専門としており、日々ベンチャー企業から寄せられる、様々な相談に対応。かつて企業の法務部に在籍した経験もあり、企業のニーズを正確に汲み取ることをモットーとする。趣味は、車、ラジオ、ビール。
ノマドジャーナル編集部
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