「デザイン思考」を理解し、手法を学びたい!
Apple、IBM、日立、IDEOなど世界企業が取り組んでいる「デザイン思考」という手法に、ここ数年注目が集まっています。時代のニーズに沿って、人々のライフスタイルまでも変えてしまうようなインパクトを与えるデザイン。
デザイン思考とはそもそもいったい何なのか。
そしてデザイン思考が必要になった背景や歴史、具体的にデザイン思考が使われた事例までをも紹介していきます。
そもそも「デザイン思考」っていったい何なの?
デザイン思考とは人間中心のデザインアプローチ
多くのセミナーや、雑誌の記事などで仕切りに「デザイン思考」が話題にされていますが、その意味を正しく理解している人はどのくらいいるのでしょうか。
デザイン思考とは、実践的なユーザー中心のアプローチ方法のことであり、不明確な問題を調査し、分析し、ソリューションを選定するための手法およびプロセスを指します。
「デザイン」という言葉に引っ張られがちですが、あくまでそのアプローチ方法についての言葉であり、それはデザイナーたけに関わるものではありません。
デザイン思考が生まれた歴史や背景
デザイン思考が生まれた背景には、モノから、コトや経験に経済価値がシフトしたことがあります。それまでの製品を生み出すプロセスでは、人々の心に響くようなプロダクトを作る限界が来ていたということです。
そしてアメリカのIDEO社が、自社のアプローチを概念化したものが「デザイン思考」の原型となっています。
デザイン思考は今後生き抜くために不可欠な考え方
これまで消費者は、均一な製品を大量に提供することを求めていましたが、これからは多様化する市場ニーズに的確に応えていかなければなりません。そのために必要なのが、デザイン思考の考え方なのです。
今までのアプローチでモノづくりをしていたら、他社との競争力を担保することは難しくなり、淘汰されてしまいます。それを防ぐためにも、デザイン思考のアプローチや考え方を身につけることが大切です。
デザイン思考を取り入れることで変わること
デザイン思考はビジネスをも変革させていきます。いままで「デザイン」というと、美的な側面のデザインや意匠的なデザインというイメージでした。
しかし今後は、見た目の美しさだけではなく、ユーザーのニーズを正しく汲み取って、解決するためのデザインに重きをおいていく必要があります。
モノを使うときのユーザーの動きを観察し、ユーザーニーズを把握したり、プロトタイプを使っている姿を観察して修正を加えていく、などのアプローチが必要です。
デザイン思考の5つのステップ
デザイン思考には、具体的には下記の5つのステップがあります。
①共感:本人も気付いていない価値観を明らかにする
②問題定義:正しく問題を設定し、解決策を生み出す
③創造:アイデアを可能な限り広げる
④プロトタイプ:実際に作ってみて試す
⑤テスト:作ったものを使ってもらいフィードバックを受ける
デザイナーや技術者、企画者など多くの人物か関わり、試行錯誤を加えることで、革新的な価値あるプロダクトを生み出せるのです。
デザイン思考を学ぶ上で押さえるべき企業や団体
スタンフォード大学 d.school
スタンフォード大学のデザインスクール「d.school」はデザイン思考の発祥とも言われています。そしてそこでは、学科を問わず学生や教職員が集まり、デザイン思考を学ぶ場所になっており、分野を超えて、イノベーションを生み出す力が身につくスクールです。
IDEO
IDEO(アイデオ)は、世界的に有名なデザインコンサルティングファーム。これまでも世界中のたくさんの企業が抱える課題に対して、デザインの力で答えてきてきました。
デザイン思考の必要性が高まるとともに、その手法や重要性を伝え続けている会社でもあります。2011年には日本にもオフィスを構え、日本の革新的な技術を支えるために活動をスタート。
IBM
日本アイ・ビーエム株式会社は、長年社内で培ってきたデザイン思考をサービスに落とし込み、他の企業に提供しています。それが「IBM Bluemix Garage」というサービスです。
具体的には、デザイナーとアプリケーション開発者、さらにビジネス企画者を交え、ユーザー体験向上のためのアイデア出し。そしてプロトタイプの開発、実装までもをサポートするという内容です。
最短でも数か月はかかるこのプロジェクトでは、実際にユーザーのニーズをよく理解し、ユーザーに近い立場の人に使ってもらいます。このプロセスにより、実装すべき機能に優先順位を付けたり、アイデアを洗練させることが可能になります。
日立製作所
日立製作所は、1957年にデザイン研究所を創設するなど、かなり早くからデザインへの意識的な取り組みを行ってきた会社です。そしてデザイン思考が注目される前から、顧客とともに経験価値を重視したデザイン思考「Exアプローチ」を実践してきました。
デザイナーと研究者が自発的にアイデアを出し合って、プロトタイプを作り、市場の反応を見るというやり方を行っていたデザイン本部では、2002年頃から「経験デザイン」という言葉を使っていたそうです。
さらには2008年にそこに顧客との対話も取り入れた「対話型プロセス」の実践を始めました。これが現在の「Exアプローチ」の原型。日立のExアプローチは、製品やサービスを通じて得られる経験価値を大切にしている、まさにデザイン思考のアプローチです。
デザイン思考を活用した事例集
Appleの新しい音楽プレーヤーiPod誕生
iPodの誕生にも、デザイン思考のアプローチが使われていました。
Appleは、いままで市場に出回っていないような新しい音楽プレーヤーを開発するため、技術者だけではなく、心理学者、デザインの専門家、人間工学の専門家などを招集し、プロジェクトチームを結成。
社外の人材も含めて、総勢35人ものメンバーで構成されたチームは、ユーザーを徹底的に観察し、開発が進められたそうです。2ヶ月の間に、100ものプロトタイプを制作し、あのiPodが誕生してのです。
家族で楽しめる経験を大切にして任天堂Wii誕生
Wiiの開発にあたっては、社員の家庭の観察を通じて、ゲーム機があることで親子の仲が険悪になるという状況を確認し、「家族の関係を浴するようなゲーム機」というコンセプトが設定されました。
そのコンセプトを実現するために、アイデアを出し、プロトタイピングが繰り返され、家族みんなで使えるリモコンのようなコントローラーやコンパクトな本体が具現化。
コントローラーに関しては、なんと1000回以上のプロトタイプが作られ、重さや形状、ボタンの位置や操作性の細かい部分の修正が繰り返されました。
ユーザーの行動分析を行っているLINE
LINEでは新しいサービスやゲームを開発する際に、想定されるユーザーの行動を把握するために、複数のカメラが配置されたユーザーリサーチルームを設置し、行動分析を行っています。
想定するターゲット層に近いユーザーに実際に使ってもらい、捜査する画面や表情を観察することで、ユーザーニーズを素早く発見し、すぐにサービス改善に落とし込んでいくことを繰り返しています。
デザイン思考を学ぶ本・セミナー・ワークショップ
ここまで駆け足でデザイン思考について説明してきました。しかしもっとデザイン思考を身に付けたいならば、書籍を読んだり、セミナー・ワークショップなどに参加し、体系的に学ぶことがお勧めです。
スタンフォード大学の無料教材でデザイン思考を学ぶ
デザイン思考の先駆けであるスタンフォード大学の「d.school」は、オンライン上でいくつかの無料教材を公開しています。「一般社団法人 デザイン思考研究所」のサイトには、日本語化した資料が公開。
「デザイン思考家が知っておくべき39のメソッド」のほか「デザイン思考 5つのステップ」「デザイン思考活用時の気配りポイント3つ」など細かいシートが公開されています。まずはいくつかダウンロードしてみて、読み進めてみてはいかがでしょうか。
https://designthinking.or.jp/index.php?text
書籍でデザイン思考を学ぶ
デザイン思考が必要になった背景や内容をきちんと読みたいという方には、スタンフォード大学の無料教材以外の書籍もお勧めです。
P&Gの社員で、イリノイ工科大学デザインスクールでデザイン思考を学んだ佐宗邦威が著者の「21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由」や、IDEOのCEOであるティム・ブラウンが著者の「デザイン思考が世界を変える」などを読んでおくととても参考になるでしょう。
セミナーやワークショップでデザイン思考を学ぶ
デザイン思考はただやり方を頭に入れただけではなかなか身に付けられないもの。体系的に、そして実践的に学び、身につけるためには、セミナーやワークショップが有効です。
ワークショップでオススメなのは、デザイン思考の先駆者であるスタンフォード大学・IDEOのインストラクターから学べうrもの、もしくは「一般社団法人 デザイン思考研究所」が主催している講座。
屋外でのフィールドワークや社内でデザイン思考を展開するための実践的な力が身につきます。
デザイン思考ができればイノベーションを起こせる
iPodやWiiの例のように、いままでどこにも存在していなかった、けれどもユーザーニーズがあったものを具現化するためには、デザイン思考のアプローチが必要。そしてデザイン思考は、大企業ではなくても小規模の会社でも実践できる手法です。
ユーザーに寄り添い、人間中心のデザインアプローチをおこなうことで、かつてないイノベーションを起こさせることができるかもしれません。ぜひデザイン思考を身に付け、実践していってください。