アマゾンの配送センター “Amazon – official opening” By Scottish Government (CC:BY-NC)
物流の専門家によるコラム第2回。
今回は、これまで単なるコストとしてしか捉えられてこなかった物流コストを、今後はどのようにとらえていくべきか、についてです。コスト視点から、機能視点へ。視座を高めて、物流に何ができるか、何を期待するのか、そして何を仕掛けてゆくのかを考える時代に来ているという提言を頂いています。
コスト最優先で見失うもの
世の中、デフレ脱却が経済のテーマであるのに関わらず、コストダウンが最重要視されています。デフレとは、物価安、賃金安の硬直性をいうため、そこから脱却したいなら、コスト増、賃金アップで新しい道を探らねばならなりません。高単価商品の開発を優れた人材でマーケットに提供してこそ、勝算が見えてきます。
自らをメーカー、小売を自覚すると在庫問題は解決できません。売るためにはたくさんの在庫を抱え、安く作るためには多くの発注の結果、在庫が増えます。そして資金繰りに窮することとなり、いっせいにコストダウンの大号令が始まるのです。
経営者の良きアドバイザーとして、税理士、会計士、コンサルタントがいますが、彼らの常套手段として、「売り上げの最大を最小経費で実現する」と口々に言います。本家は京セラ創業者の稲盛和夫氏ですが、彼の主眼は言葉通りのそこにはありません。社会の幸福、社員の満足、製品の完全性を求めているのです。最大売り上げを最小経費で、などと当たり前を地で行くような解釈を知ったかぶりで済ますなら、これほどノー天気なことはありません。結局は同業他社との競争手段が見当たらない、ということになります。
単なる経費とみなされてきた物流関連経費について、「ただモノを置くだけ、運ぶだけ」とみなしているから、少しでも安いほうが良いという判断をするのかもしれません。ところが、日本の物流コストは世界でも最小、アメリカ、EUに比べれば最も低い水準まで下がってきています。日本ロジスティクスシステム協会は毎年、主要な会員企業にアンケートを行い、売上高に占める物流コスト結果を発表しています。
その発表によれば、最近の物流コストは全業種平均で売上高比率4.7%台まで下がってきており、日欧米では最低とあります。
売上高物流コスト比率(業種別)
出典:日本ロジスティクスシステム協会 2014年度物流コスト調査結果
すでにコストダウン余地はなくなり、今後は物流活動をどのように製造、販売につなげて行くか、すなわち製版物の統合機関としてのSCM実現を狙うことが課題なのです。もちろん、機能に対してのコストは低いに越したことはありません。物流の機能をどのように考えるか、どのような機能を装備させるかが課題なのです。
物流で競争力をつけられる
小売業の業態転換はネットショップに代表されます。立地という不動産取得が最大の悩みでしたが、ネットショップは地代も賃料も不要であり、さらに営業時間も24時間365日です。
「世界最大の小売業」を標榜するアマゾンは、倉庫業という物流企業なのです。
ただモノを置き、運ぶだけの物流とは、まったく異なるハイブリッド物流業ということができるでしょう。ITを駆使して、巨大な倉庫を全国に構え、日本の顧客を総取りする覚悟が見て取れます。アマゾンをまねすべきだ、というのではありません。物流の可能性にもっと注目していく必要があるのです。
コスト視点から、機能視点へ。視座を高めて、物流に何ができるか、何を期待するのか、そして何を仕掛けてゆくのかを考える時代に来ています。
流通小売業と製造販売業は、立地や原材料素材、工場や機械という足かせの中でがんばってきています。アマゾンが小売業であり、倉庫業であるということは、足かせがない状況なのです。「何でも売る、何でも調達する、顧客志向で何者へも変化する」というイノベーションを進める彼らを見習うとすれば、それは物流機能の研究に他ならないのです。
ネットショップは物流倉庫で完結しています。受注センター、顧客サービス、商品スタジオ、品質管理、商品試験、そしてネットサイトのデザイン開発まで手がけています。店舗、工場、オフィスの代行をすべてまかなっているといえます。そんな展開をあなたの企業ではどう考えているでしょうか。
「物流コストは安いほうが良い」とステレオタイプでいるなら、競合各社に抜け駆けされるのが怖くはないでしょうか?
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1955年生れ東京都出身 慶応大学経済学部卒 証券会社を経て、生産・物流コンサルティング歴30年。28業種200社の物流センター開発と改善指導に携わり、多くの商材でSCM実現化課題を解決してきた。2012年より月刊誌ロジスティクス・トレンド発行人。主な著作に「見える化で進める物流改善」、「物流リスクマネジメント」共に日刊工業新聞社刊。
ノマドジャーナル編集部
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