物流の専門家によるコラム第3回。
物流の専門家による「物流の現場」第3回となる本記事では、経営戦略上重要な位置を占めつつある現代の「物流」の捉え方の変化について取り上げています。かつてピーター・ドラッカーに「暗黒大陸」とされていた流通・物流が、現代ではECと統合することによって新しい展開をみせています。店舗であり工場としての機能ももつ物流センターが生まれ、付加価値の源泉として進化しています。さらには、マーケットの生の情報を集められる流通・物流が経営のセンサーとしても機能しています。これら物流を付加価値創造の拠点として再構築することがこれからの経営戦略上重要であるという提言を頂いています。
「流通・物流は最後の暗黒大陸」ピーター・ドラッカー
「現代経営学」あるいは「マネジメント」の発明者として知られるピーター・ドラッカーが、流通・物流を最後の暗黒大陸と名付けたのは有名な話です。
これは、1962年に、ドラッカーが論文で、流通は当時のアメリカのビジネスの中で将来望みが多い分野である一方で、人々が流通の問題を知っていない、という指摘があったことが発端です。
当時は、原材料から莫大な付加価値を生む製造業やエネルギー産業に比べ、流通や物流は「単なる製品の保管と移動」としか映らず、どこに価値があるのかがわかりませんでした。現代では、物流についての研究や分析が進歩し、それらは過去の話となりました。コンピュータと通信技術の進歩によって、これまで見えなかった物流・ロジスティクスもリアルタイムで見えるようになっています。
しかしながら、現代でも「物流はよく分からない」と耳にする事が多い、それは、付加価値の点で興味関心がないのか、それとも流通・物流事業者の世間へのアピール不足なのでしょうか。いずれにせよ、この暗黒大陸に乗り出すことがこれからの経営に欠かせない視点であるといえます。
物流センターが続々と建設
巨大な物流センターが首都圏ベルト地帯に続々と建設されていますが、地域の雇用を集めていることは確実で、かつての「工業団地」にも「物流団地」が建設されています。全国に100近くもある自治体所有の工業団地は、工場誘致をとっくに諦めているのが現代なのです。
産業空洞化と産業の統廃合で内地に工場を作るメリットは失われました。貿易相手の中国が世界の工場として君臨して長く地位を築きあげてきました。工業製品は今、空輸と海運という物流を利用して世界を巡っています。我が国の基幹産業も景色を失うばかりです。鉄鋼、自動車、住宅、家電は風前の灯火と言えるかもしれません。
日本の流通は400年続いてきた百貨店が経営統合を行い、大規模な店舗も売り場を賃貸する不動産業に移行しつつあります。生鮮産品を扱う商店街は軒並みシャッターを下ろし、小売業受難の時代が続いています。
そこに登場したのがネット通販という、ECと物流の統合、新しい業態の出現です。
ECと物流の統合、新しい業態の出現
通販は店舗を持たない、いわばノーリスクの小売業であったものから、自ら顧客を開拓し、その成長は目を見張るばかりです。流通と物流の進化が始まり、暗黒大陸がその姿を明らかにしてきているのです。湾岸地区や高速道路結束点に林立する物流センターでは、大型店舗さながらの品そろえとネット通販のスタジオを併設して24時間稼働しています。スーパーの物流センターでは、生鮮産品の食品加工や惣菜の製造、冷凍処理まで行う、さながら食品工場の体を示しています。
現代の物流センターは、店舗であり工場であるわけなのです。
ドラッカーもこの姿を見れば、「物流こそ付加価値の源泉」と言うに違いない様相を呈してきました。多くの自動装置が製品を運搬して仕分けを行い、トラックに積み込みます。商品の記録や履歴は高度に管理されたITによって、「何が、いつ、どこにあり、どこへ向かうか」をリアルタイムに管理されています。巨大な物流センターでは膨大な在庫品に圧倒されますが、それとて明日、来週には出荷されるだけの必要最低限の在庫であり、いわば販売予約品としてしか存在していません。流通と物流を自在に操り、世界に衝撃を与え続けているアマゾンですら、物流センターの内部は極秘情報で固まっています。ここにこそ、付加価値の塊があるはずなのです。
まだ流通や物流を「企業のお荷物、コスト、よく分からない」と嘆くなら、あなたのビジネスの進化は止まることになるでしょう。
物流により付加価値を創造。そろそろ、暗黒大陸に乗り入れてみないか?
「いつ、どこで、何が売れ、何が残ったか」、マーケットの生の情報を集められる流通・物流が経営のセンサー、ダッシュボードメーターとして機能しなければ勝機は訪れないでしょう。
すべての産業がこれからの成長を狙うなら、流通・物流の切り口を外しては考えられないでしょう。販売の最前線、製造の肩代わり、情報の分析と活用は流通・物流の一体化によって実現できるからです。
物流を数えて運ぶだけの単機能とみなすか、付加価値創造の拠点として再構築できるかが潮目の別れになるに違いないと思っています。
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1955年生れ東京都出身 慶応大学経済学部卒 証券会社を経て、生産・物流コンサルティング歴30年。28業種200社の物流センター開発と改善指導に携わり、多くの商材でSCM実現化課題を解決してきた。2012年より月刊誌ロジスティクス・トレンド発行人。主な著作に「見える化で進める物流改善」、「物流リスクマネジメント」共に日刊工業新聞社刊。
ノマドジャーナル編集部
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