ジョブローテーションとは

基本的なジョブローテーション

ジョブローテーションは、組織の中の人事異動や配置換えによく似ているのですが、それらに加えて人事戦略や人材育成の目的を組み込んだ施策です。近年では、業界を問わず多くの企業に取り入れられています。

組織の中の営業、経理、企画、総務などさまざまな職種を一定期間ごとに社員に経験させていく制度。部署が変わるものもあれば、同じ部署内で担う業務が変更されることもあるようです。

対象は、新卒の新入社員や、社内の経営幹部候補人材に特化されていることもあります。
全社員に適用している企業もありますが、ベテランのシニア層よりも若手を対象としたジョブローテーションが一般的となっているようです。

ジョブローテーションの目的

ジョブローテーションの目的は、その対象者の種類によって異なりますが、大きく分けると2つあります。

そのひとつは、人材育成を目的とするものです。さまざまな職種を経験させるという研修的な要素を含んでいます。

新卒の新入社員の場合は、あらかじめ部署や職種を特定して入社させるのではなく、入社してから組織の中にあるさまざまな職種の実務をローテーションで経験させます。その上で適性を見極めたり、本人の意向に沿って配置が決められるのです。

また、将来の経営幹部候補を対象にして能力やスキルの開発、企業理解の促進、組織俯瞰力をつけさせるためにジョブローテーションを行なっているところもあります。

ジョブローテーションのもうひとつの目的は、組織にある業務の属人化を防ぐことです。

ワークライフバランスが重要視されるようになり、社内の特定の誰かしかできない仕事があることは、その社員の負担が大きくなることが指摘されています。

企業にとっても「その社員が退社すればできる人がいない」というのはリスクのひとつ。ジョブローテーションを取り入れて社員に業務共有をさせることで、この問題を解消している企業もでてきています。

期間はどれくらいが適切か

日本で行われているジョブローテーションで、社員がひとつの仕事に携わる期間は一定ではないようです。企業の計画やジョブローテーションの目的によって異なってきます。

業務の共有や職場の活性化、または未経験の新人に経験させるジョブローテーションの場合は、比較的短期間で行われることが多いようです。3~6か月というところが一般的。

将来的に経営などに関わる候補者人材の場合は、1~3年など長期スパンでのローテーションを設定している企業が多いようです。

【企業側メリット】人事戦略となるジョブローテーション

適材適所の配置が適切になる

ジョブローテーションは、適材適所の確実性を上げる効果があります。

社員に実際に職務を経験させることで、人事や上司はより適性のある職務に社員を配置することができるのです。適性の不一致を防げるだけでなく、ジョブローテーションを行なう前の適性認識に留まることなく、その人材に適した職務を与えることができるでしょう。

ネットワーク構築

入社した時からひとつの部署だけで働いてしまうと、組織を構成している他の部署のメンバーと関わる機会が少ないことも多いです。ジョブローテーションによって、部署や職種が違っても、異動する社員と受け入れる社員の交流を生み出すことができます。

その部署での機関が終わっても、業務の際の連携が取りやすくなることは、生産性の向上につながるでしょう。良好なネットワークが築かれていると社内の雰囲気も良くなっていくものです。

企業知識の増強

企業の中のあらゆる部署や職種を経験することで、社員はそれぞれの仕事に関する知識を得ていきます。これによって、企業を構成している要素を全体的に把握できる社員を増やすことにつながるでしょう。

偏った部署や職種の知識だけでは思いつかなかったアイデアの喚起にもなっているようです。見えていなかった点に気付くことも増え、企業にイノベーションが起こりやすくなるでしょう。

マンネリ化の回避

何年も同じ部署、同じメンバー、同じ仕事をしている社員はマンネリ感や退屈さをもつこともあります。

ジョブローテーションで定期的に環境が変わる機会を提供することは、社員にとってよい刺激になるでしょう。新しいことを覚えたり、これまでと異なる人たちと接したりすることは、人材育成の上でも有効のようです。

中小企業では代わりがいるという安定性の確保

大企業の場合は、同じ業務を複数の社員で担うことも多いでしょう。一方で、人数の少ない企業では、ひとつの業務につき何人もの社員を割り当てるマンパワーがないこともあります。小さな企業の取引量や数が、一人でこなせる範囲内ということもあるでしょう。

一人の社員にしかできない仕事が組織内にあることはさまざま面でリスクがあるといわれています。ジョブローテーションを行なうことで、社内業務の属人化を防げるのです。

通常は一人で処理できる業務も、他の社員もこなせる仕事にしておくことで、担当社員の休暇取得を容易にし、繁盛期の協力体制も整いやすくなります。部署内だけでも業務ローテーションを徹底しているところもあるようです。

【企業側デメリット】育成と紙一重のジョブローテーション

熟練度のいる業務の習得は不可

短期間サイクルのジョブローテーションの場合、それぞれの職務について表面的な内容の習得に留まりやすくなります。はじめて経験する仕事がほとんどの条件の中で、短期間では深い部分まで理解することは難しいでしょう。

習得度が浅いため仕事としても、任せられる範囲が狭くなり、比較的難易度の低いものしか割り当てることができません。高い専門性や技術が必要な業種や職種の場合は、ジョブローテーションはスペシャリスト育成の足を引っ張ってしまう確率が高いようです。

育成した社員の退職リスク

ジョブローテーションで、期待を持って育成してきた社員が退職する可能性があることもデメリットのひとつ。

育成戦略の質が高いほど、社員は自分のキャリアへの意識を高めます。優秀な人ほど、自分で道を見出していけるものですし、自社がその道の上にはないと判断することもあるかもしれません。

また、ひとつの職種をじっくり習得できないことが社員にマイナス感情を抱かせる要因になることもあります。

自分に任される仕事の範囲や程度、裁量度の低さは、モチベーションの低下を招きやすいです。自信を構築することが難しい面は否めません。慣れてきたかと思ったら、新しい仕事に移ってまたゼロから覚えていくというサイクルが負担になる社員も多いようです。

【社員側メリット】自分が見えるジョブローテーション

実践で自分の適性がわかる

社員にとってジョブローテーションは、未経験の職種にトライできる機会。実際に実務に携わることで、その知識が得られるだけでなく、どのくらい興味が持てるか、自分に合っているのかという適性も見極めやすくなります。

はじめからひとつの仕事に特定するよりも、他の職種を経験することで比較によりそれぞれのメリットやデメリットが見えてきやすいことも利点。とくに社会人経験のない新卒の新入社員の場合には、納得度の高い仕事に配置されることで離職確率も低いようです。

出世との関連性

企業の中にあるさまざまな仕事を経験することで、事業の全体を見る視点が得られます。
他部署の仕事を理解し、人的ネットワークが構築できることは、ポジションが上になるほど必要性は高まるでしょう。

ジョブローテーションは、ひとつの会社で仕事や関わる人たちの多様化をもたらします。自分の考え方や発想の種類や質も変わっていくでしょう。仕事の成果に役立つことは多いですし、企業も人材育成としてこの点は期待していることなのです。

ジョブローテーションで得られるさまざまな経験は、自分自身のキャリアを考える上でも有効となります。とくにマネージャー職、管理職を目指す人たちにとっては重要な視点が得られるでしょう。将来的な活躍の場がその会社の中でなかったとしてもキャリアアップに必要なことを学べる機会なのです。

【社員側デメリット】専門志向には不向きなジョブローテーション〜得意分野に留まれない〜

自分に得意分野があったり、極めたい専門分野がある人にとっては、ジョブローテーションは向かないとも言われています。関連性の低い仕事に携わることに抵抗感をもつ人もいるかもしれません。

人事や上司と相談してみて、遠回りになる可能性が高いのであれば、断るということも視野に入れてみましょう。企業の制度だったとしても、自分ベースで考えていくことも大切です。

ジョブローテーション制度の課題

自分のキャリアプランを明確に持っていない社員は、人事制度に振り回されるだけになってしまいます。

企業もジョブローテーションを、社員に部署や業務をただ経験させるものとしないことが大切です。育成計画をしっかり立てて、それぞれの社員の適性認識や能力開発に役立つような進め方を策定しましょう。メリットを十分に活かし、デメリットを解消できるよう、柔軟な規定を設ける必要があるかもしれません。