個人事業主は法人と違い事業規模がそこまで大きくないので、節税しても大した違いはないと考えている人は少なくないかもしれません。しかし、個人事業主には多くの節税方法があり、節税対策をするとしないとでは、1年間に支払う所得税が大きく違うこともしばしばあります。
ここでは、個人事業主が知っておきたい節税方法を解説します。
経費をもれなく入れて節税する
事業をしていて経費になるもの
個人事業主の支出は仕事とプライベートの区別がつけにくいです。そのため経費になるかどうかわからず、結局経費にしないという場合が多いです。重要なのは、その支出と仕事に合理性があるかどうかです。合理性を証明できれば経費となり、節税になります。例えば以下のようなものでも合理性を証明できればOKです。
- 新聞や雑誌
- レストランやカフェの飲食代…取引先との打ち合わせや、外での仕事の合間に一時的な仕事スペースとして使用など
- 取材のための旅行費
- 同業者の商品を購入した研究費
その他にも様々です。仕事のための支出として合理性が証明できるものは、もれなく経費に入れましょう。
不動産投資(賃貸)をしていて経費になるもの
不動産投資(賃貸)は事業所得よりも経費にできる範囲が狭いです。しかし、きっちり経費を管理することで税金を抑えることができます。不動産投資(賃貸)でも、水道光熱費や不動産管理のための雑多な費用など合理性のあるものは当然、経費になります。そのほかに経費になるものには、以下のようなものがあります。
減価償却費
不動産投資(賃貸)で保有する不動産のうち、建物の購入費や建築費は減価償却費として毎年少しずつ経費にできます。減価償却は個人事業主の場合、必ずしなければならない強制償却です。もし減価償却するのを忘れても、経費にしていないだけですでに減価償却したとみなされ、忘れた分を後から経費にすることはできないので注意が必要です。
修繕費
建物の価値を高めたり、耐久性を増す工事は固定資産となるので経費にはなりません。しかし20万円以下の修繕、または3年以内の周期で必要な修繕は経費にすることができます。計画的に修繕を行い、経費にしましょう。
家事按分して経費にできるものを増やそう
仕事とプライベート両方で使っているものは、仕事で使った部分の金額を経費にすることができます。これを「家事按分」といいます。
代表的なものは、自動車や自宅兼事務所の家賃、水道光熱費、電話代などです。
合理的な基準やその割合は自分で決める必要があります。例えば自動車であれば走行距離や日数、自宅兼事務所の家賃であれば面積比、水道光熱費や電話代であれば業務時間や使用頻度などで案分します。
自宅兼事務所の家賃を例にすると、1か月の家賃15万円、家の総床面積60㎡、仕事スペースの床面積が20㎡だとすると、家賃のうち経費にできる金額は、15万円×20㎡/60㎡=5万円となります。
得意先に商品券を渡すときは、相手の名前などをメモしておこう
得意先などに仕事を紹介してもらったお礼などで、商品券を渡すことがあります。商品券の購入代金は仕事に関する支出なので当然、経費になります。ですが領収書だけでは経費として認められない可能性があります。それは以下の理由からです。
- 商品券の場合、領収書だけでは仕事とプライベートどちらで使用したかわからない
- 商品券を使って仕事の道具を購入すれば、仕事の道具の領収書と商品券の領収書がもらえます。そのため、2重で経費に計上している可能性がある
合理性を持たせるためにも、証拠となる相手の名前や渡した理由などを必ずメモしておきましょう。
従業員を雇っている場合は慰安旅行も経費になる
従業員を雇っている場合は、慰安旅行は「福利厚生費」として経費になります。国税庁では、福利厚生で処理できる慰安旅行の範囲を以下のように公表しています。
- 旅行期間が4泊5日以内(海外旅行の場合は現地滞在日数が4泊5日以内)
- 旅行に参加した人数が全体の人数の50%以上
- 旅行に参加しなかった人に金銭等を渡さない
また、旅行の条件を総合的に勘案して反映するため、以下の要件も加わります。
- 旅行費用が社会通念上常識的な範囲内であること
上記の範囲外の慰安旅行の場合でも経費にはなりますが、従業員の給料と扱われ、従業員に所得税が課税されてしまうので注意が必要です。
青色申告の特典を有効活用して節税する
青色申告と白色申告
個人事業主の確定申告には、青色申告と白色申告の2つがあります。原則は白色申告ですが、事業所得、不動産所得、山林所得の場合は、きちんとした帳簿付けや帳簿書類の保存等を行うことを条件に、さまざまな特典のついた青色申告を行うことができます。青色申告の特典を使うことで、所得税を節税することが可能です。
青色申告をするためには、開業後2か月以内、または青色申告をしようとする年の3月15日までに「青色申告承認申請書」を所轄の税務署に提出する必要があります。
青色申告特別控除を利用する
青色申告の特典の1つに「青色申告特別控除」があります。青色申告特別控除は、青色申告するだけで受けることができる控除で、複式簿記の場合は65万円、簡易簿記の場合は10万円が控除額となっています(不動産所得は事業規模の場合のみ65万円)。
これは65万円分経費を増やすことと同じ意味合いを持ち、かなりの節税効果があります。
妻や家族の給料が経費に計上できる
個人事業には家族は1つという考えがあり、妻や家族への給料を経費にすることができません。しかし青色申告で「青色専従者給与に関する届出書」を所轄の税務署に提出し認められた場合は、認められた範囲内の金額であれば妻や家族への給料を経費にすることができます。
赤字を翌年以降に繰り越せる
青色申告を行って発生した事業や不動産の赤字は、翌年以降3年間繰り越すことができます。来年以降に黒字が出ても繰り越した赤字と相殺できるため節税となります。
保険を使って節税する
中小企業倒産防止共済掛金(経営セーフティ共済)への加入
中小企業倒産防止共済掛金(経営セーフティ共済)は、毎月掛金を支払うことで、取引先が倒産し売掛金が回収できない場合に無担保、無保証人で借り入れができる制度です。しかも掛金は経費にすることができます。万が一の時の備えと節税の両方を兼ね備えた保険です。
小規模企業共済への加入
小規模企業共済とは、毎月掛金を支払うことで、個人事業主が仕事を辞めたときに退職金が支給される制度です。掛金は経費にはなりませんが、支払額の全額が所得控除になります。
個人型確定拠出年金(iDeCo)への加入
個人型確定拠出年金(iDeCo)は、自分で掛金を支払って運用できる私的年金の1つです。老後の生活資金などのために加入します。掛金は経費にはなりませんが、支払額の全額が所得控除になります。
生命保険や地震保険への加入
生命保険や地震保険の掛金も所得控除の対象となり、本来の効果にプラスして税金を安くすることができます。また、事業用資産に対する地震保険や火災保険も経費にすることができます。
店舗などの事業用固定資産の取得に伴う生命保険料の中にも経費にできるものがあります。
税法上の特例を使って節税する
少額減価償却資産の特例
原則、1つあたり10万円以上の資産を購入すると固定資産となり、毎年減価償却を行うことになります。しかし、購入年度に購入金額の全額を経費にできる特例があります。それが「少額減価償却資産の特例」です。これは、取得価額が30万円未満のものを購入した場合は、一定の条件のもと年300万円まで、その全額を経費にできるというものです。一定の条件とは以下のとおりです。
①青色申告が条件
この特例は、青色申告を条件としています。白色申告には適用できません。
②平成30年3月31日までに取得したものが対象
この特例は平成30年3月31日までに取得したものが対象です。
ただし、今まで何度も期限が延長されてきたので、今後も延長される可能性はあります。
③適用条文番号「措法28の2」の明記が必要
この特例を受けるためには、減価償却の計算について次のことを行う必要があります。
- 「青色申告決算書」の「減価償却費の計算」の欄に「措法28の2」を明記すること
- 少額減価償却資産の取得価額の明細を別途保管すること
短期前払費用を使った節税方法
例えば、11月に11月から翌年10月までの家賃を支払ったとします。この場合、通常その年の11月~12月分をその年の経費に計上し、翌年1月~10月分は前払費用として経費に計上しません。これをその年の経費にすべて計上可能とするのが、「短期前払費用の特例」です。この特例を受けるためには下記の条件があります。
- 一定の契約に従って継続的にサービスの提供を受けるものである
- 当期中に支払いが済み、1年以内に提供を受けるサービスである
- 毎年継続して前払いしている
- 売上原価とならない
- 重要性が低い
保険料や地代家賃、賃借料などで短期前払費用の特例を受けることができます。
棚卸の計算で低価法を使う節税方法
その年の利益や税額に大きな影響を与える売上原価は、前年度末の棚卸高+今年度の仕入高-今年度末の棚卸高で計算します。
今年度末の棚卸高が低くなると、利益を減らす売上原価が大きくなるため、節税となります。
「低価法」とは簡単にいうと、仕入単価と年末の時価のどちらか低い価格を使って今年度末の棚卸高を計算をする方法です。低価法を使うと常に今年度末の棚卸高が低くなるよう計算されるので、売上原価が大きく、利益が小さくなり節税となります。
※低価法は青色申告をしている個人事業主で、事前に届け出を出して税務署に認められた場合に使うことができます。
サラリーマンの副業の事業所得や不動産所得が赤字の時は税金が戻ってくる
サラリーマンの給料(給与所得)と事業所得や不動産所得が同時にある場合、事業所得や不動産所得で発生した赤字は、給与所得と相殺することができます。その結果給与所得は小さくなるため、毎月の給料から天引きされている所得税が徴収過多の状態になり、確定申告で還付されます。
まとめ
個人事業主にはさまざまな節税方法があります。その中から自分に合った節税方法を選び、実行することで、所得税の納付額を減らすことができます。節税の中には今からでもすぐに実行できるものも多くあります。ぜひ、この記事を参考に節税に取り組んでください。
執筆者:はせがわ・よう
関西在住。会計事務所に10数年勤務後、2016年よりフリーライターとして活動。会計・税務関係の記事をメインに執筆しています。