ついに最終回を迎えた池井戸潤原作のドラマ『下町ロケット』。父親が遺した下町の町工場を継いだ主人公が、さまざまな困難と戦いながら宇宙ロケット開発や心臓手術に使用する人工弁の開発に取り組む物語です。主演の阿部寛さんのほか、個性的なキャスト陣の熱演も大きな話題を呼び、連続ドラマとしては今年最高となる視聴率を獲得しました。

下町の中小企業でありながら、大企業からの圧力や卑劣な商売敵の策略に負けず、自らの信念を貫き通す主人公、佃製作所社長・佃航平と仲間たちのひたむきな姿は、多くの人たちの共感を集めました。

フリーランスとして働くビジネスノマドは、自由を得ている代わりに大きな後ろ盾がない存在です。大企業に翻弄され、苦しめられ、それでも負けない佃製作所に自分の姿を重ねてドラマを見ていた人も多かったのではないでしょうか?

佃航平のものづくりに対する情熱と信念、そして佃製作所の人々が磨き続けるたしかな技術とそれに対する誇りは、『下町ロケット』に登場する彼らのセリフの端々に表れています。われわれは、このドラマの数々の言葉から多くのことを学ぶことができるはずです。

難しいからこそ、やる価値があるんだ。
どんな難問にも、必ず答えはある。
挑戦すれば、必ずその答えを見つけ出せる。
私は、そう信じているんです。

佃 航平 佃製作所社長




(出典:日曜劇場『下町ロケット』TBSテレビ

世界水準の品質を誇る宇宙ロケット用の部品を製作する佃製作所。ビジネスになるかどうかわからないのに、なぜそんな技術を追い求めるのかと問う帝国重工の財前部長に佃が語った言葉です。

最高の信頼性が求められる宇宙ロケット用の技術開発をすることによって、たとえ直近のビジネスが実らなくても今後の生産活動に必ず生きてくるはずだと佃は考えていました。培った技術だけでなく、難しい事業に挑戦して成し遂げるという経験そのものが会社の財産になると考えていたのです。

難しいからと言って挑戦をやめてしまえば、進歩も成長もありません。ビジネスにならないことはしないという考え方もあるかもしれませんが、目先のお金にとらわれて成長の機会を失うことは避けるべきです。佃製作所は、佃のこの考え方のもとで技術を磨き続け、ついに帝国重工への部品納入という大きなビジネスをものにすることができました。

金のことしか考えられなくなったら、そこに技術の進歩はありません。

佃 航平 佃製作所社長




(出典:日曜劇場『下町ロケット』TBSテレビ

卑劣な手段を使って佃製作所の乗っ取りを企てるナカシマ工業。これは、特許侵害をめぐる裁判において、ナカシマ工業の弁護士に向かって語った佃の言葉です。

ナカシマ工業は佃製作所の特許の盲点を突き、そっくりな技術で新たな特許を申請して、先に技術を開発していた佃製作所を特許侵害で訴えていました。人を幸せにしたいという気持ちが技術の発展を支えているのだと熱弁する佃を、ナカシマ工業の弁護士は嘲笑します。

ナカシマ工業にとって大切なのは、特許とそこから得られるお金のみ。しかし、そのような姿勢では、技術をさらに進歩させることなど到底できません。お金のことばかり考えていれば、進歩や成長どころか、いつかナカシマ工業のように卑劣な手段をとってしまう危険性だってあるでしょう。そうならないように、気をつけたいものです。

たとえこの裁判に負けたとしても、
ナカシマに特許を奪われたとしても、屁でもありません。
培ってきた技術力だけは、決して奪えない。
正義は我にありだ!

佃 航平 佃製作所社長




(出典:日曜劇場『下町ロケット』TBSテレビ

同じく、ナカシマ工業との裁判で佃航平が語った言葉です。佃をはじめとする佃製作所の面々が、懸命な努力の末に磨き上げ続けてきた技術に対する誇りを強く感じられる言葉だと思います。

「金儲けのうまい人は、無一文になっても自分自身という財産を持っている」とは、フランスの哲学者、アランの名言です。また、投資の神様とも言われるウォーレン・バフェットは「全てを失っても今の知識があればもう一度成功できる」という言葉を残しています。

佃航平の信念は一貫しています。大切なのは目の前のお金より、たしかな技術。お金や特許を奪われたとしても、培ってきた技術さえあればいつでも復活できるという自信さえ感じられます。

なによりの財産は自分自身の技術と経験。企業の後ろ盾がないビジネスノマドにとって、佃の言葉は強く響くはずです。『下町ロケット』は中小企業の物語ですが、先行き不透明な時代に生きるわれわれ一人ひとりの物語でもあるのです。

寄稿者:大山 くまお
ライター・編集。著書に『名言力 人生を変えるためのすごい言葉』(SB新書)、『平成の名言200 勇気がもらえるあの人の言葉』(宝島SUGOI文庫)、『野原ひろしの名言 「クレヨンしんちゃん」に学ぶ幸せの作り方』、『野原ひろしの超名言 「クレヨンしんちゃん」に学ぶ家族愛』(いずれも双葉社)などがある。構成を担当した書籍に『一生成長し続ける人が大切にしている五賢人の言葉』(小宮一慶著、SBクリエイティブ)など。

ノマドジャーナル編集部
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。