これまで世界各地のギグエコノミーの事情を覗いてきました。今回はカナダに拠点を置くeコマース企業Shopifyの最高執行責任者ハーレイ・フィンケルシュタインさんの見る、ギグエコノミーの展望をご紹介しましょう。フィンケルシュタインさんは、フォーブス誌にギグエコノミーの進化という記事を載せています。

ギグエコノミーの可能性

2000年代後半から2010年代初頭の世界的な経済恐慌の後に起こったギグワークは、最初安定した職を取り戻すまでの当面の「つなぎ」だと多くの人に思われてきました。しかしその10年後には、そうではないことが明らかになりました。当初の予想とは裏腹に、ギグエコノミーの台頭が労働界の伝統をゆるがす兆候を見せ始めてきたのです。米国では今日すでに労働力の3分の1がフリーランサーや契約労働者となり、今後10年以内には大多数の労働者がフリーランサーになるだろうと予想されています。

これが良いことなのか、悪いことなのか、米国では絶えず取りざたされています。仕事の喪失や安定収入への懸念が、あちこちで議論されています。「 ギグワーカー」という言葉を聞けば〝低賃金で過度に仕事をしているミレニアルズ世代″というイメージが、米国人の頭にしばしば浮かんできます。

そして多くの場合、このイメージはたしかに現実と言えます。ただ一つ間違っているのは、ギグエコノミーが自然消滅するだろうという批判的な見方です。実際にはそれとは逆のことが起こっているのです。ギグエコノミーはビジネスの本質を変える可能性のある〝新しい仕事のパラダイムへの過渡的なステップ″かもしれないのです。

青年期のギグ経済

現在のデジタル化された請負仕事中心の生活は、ほとんどの場合持続可能な選択肢ではありません。フリーランサーのためのオンラインマーケットプレースFiverrから受注するギグタスクだけでは、真の経済的自立を確立するには程遠いでしょう。Uberで運転手として働くのも同じことです。

それでもフリーランスハブUpworkの調査によれば、5,700万人のアメリカ人が何らかの形でフリーランスの仕事に携わっており、それはミレニアルズ世代の47%を占めています。彼らの活動は、米国経済に約1.4兆ドルの貢献をしています。良し悪しにかかわらず、ギグワークはすでに米国労働の主流となっているのです。

しかし、とフィンケルシュタインさんは強調します。ギグエコノミーの本当の価値は間欠的な収入の流れではありません。ギグワークは多くの労働者に起業という教義を浸透させ「自らが自らのボスになれる」という考えをもたらしました。これはアメリカ人に強くアピールする考え方と言えます。

ギグワークでは、あらゆる背景をもつ人々が、生計を自分の手に委ねることによって、快適でない企業労働を無理して行う必要から「解放」されています。今日のギグワーカーたちは、予備収入を稼ぐために複数のハッスルワークをしているかもしれませんが、その根底にある願望は本当に素晴らしいものなのです。自分が自分の運命の支配者であり、自ら掲げた目標の達成を追いつづけることができる、というのがフィンケルシュタインさんの主張です。

ギグワークからライフワークへ

フィンケルシュタインさんの見方を採用すれば、副業として始まったギグ作業が、今や労働者の本業になりつつあるということになります。今日の若い起業家たちは「愛していることをやる」という格言の中に育っています。彼らはそれ以下のものには妥協しないでしょう。

フィンケルシュタインさんの祖父が、ライフワークだったコミュニティ活動を追求するためには、引退を待たねばなりませんでした。ギグエコノミーにはそれを「今すぐ行う機会がある」のです。

競争ではなくコラボレーション

ギグエコノミーとシェアリングエコノミーでは、スキルの共有が盛んに行われています。彼らはお互いが潜在能力を発揮できるように、知識とアドバイスを交換します。新しいパラダイムとはこれまでの競争社会とは違った、共有を通じて持続可能な生態系を作り出すことです。

現在大成功をおさめているInstagramやHouzzも、若者の気軽な実験から派生した企業のほんの2事例に過ぎません。

フィンケルシュタインさんは続けます。ギグは我々の仕事のやり方を変える可能性を秘めています。ライフワークとは、個人的に意味のあるもの、本当に好きなもの、そして普通の日常で喜びを見出すことに費やす時間です。 ギグエコノミーはまさに新しい仕事の世界への扉となりうるのです。

まとめ

米国ほどギグエコノミーが浸透していない日本の社会では、今後10年間で労働力の大半がフリーランサーになる社会というのは、想像しにくいものです。ギグワークの良しあしについても、日本で議論されることはそれほどありません。しかし「低賃金で労働時間が長いのがギグワーク」というイメージは、日本でも共通でしょう。

自ら就業時間や作業場所を決められる働き方とは言え、そこに起業への情熱を見出す人は、日本ではまだまだ少ないと思われます。それでも日本のギグエコノミ―の進化は、いつかはやってくるのでしょうか。

記事制作/シャヴィット・コハヴ (Shavit Kokhav)