状況に応じて「ギグ」、「シェアリング」、「フリーランス」、「オンデマンド」などと名称を変えるエコノミー。名称はどうあれ、世界各地で起こっている経済シフトが、新しい働き方を生み出していることに変わりはありません。

今回は米国ニューヨーク州北部のハドソン川西側にある、人口4万3千人あまりの町ポキプシーのフリーランサー事情をご紹介しましょう。総面積80平方キロのポキプシーは、かつてIBMの製造拠点として栄えたことでも知られています。

今ハドソン渓谷で起こっていること

昨年初め、「混乱:ハドソン渓谷経済の未来」と呼ばれる会議に200人以上の人々が出席しました。開催者のハドソン渓谷経済開発公社は、米国シンクタンク・ピュー研究所の研究を引用して、米国民全体の7割以上が「何らかの種類のオンデマンド・オンラインサービスを利用している」ことを指摘しました。

ギグサービスに取り組んでいる人たちは、その独立性と柔軟性を強調します。彼らの 多くは″自分の価値観に見合ったプロジェクトに取り組む″という考え方に動機づけられています。

ハドソン渓谷でフリーランス業を営む人々には類似点もありますが、一人一人のストーリーや動機は必ずしも同一ではありません。ある人にとってそれは ハドソン渓谷への献身と、この土地でやり抜きたいという願望。他の人にとっては様々な理由から諦められない働き方の一種です。ポキプシーの地元紙はそのような労働者の世界を覗くため、彼らに個人インタビューを試みました。

ポキプシーのフリーランサーたち

ケリー・リンドガードさん〜薬物依存からのリハビリ中の女性たちを雇用しハンドバッグを制作〜

非営利団体Unshatteredは、薬物依存からのリハビリ中の女性たちを雇用しています。雇用された女性たちはミシンを使って、軍服や製造スクラップなどの寄贈品からハンドバッグを作っています。

この団体の創設者でCEOのケリー・リンドガードさんは

私はこういう人たちを、以前は非常に批判的な目で見ていました。自分に責任をもち、正しい判断をして生きるべきだと思っていたんです。でも事情を知ってみると、彼女たちは非常に大きな痛みを抱えていて、それぞれの方法で生きようとしているのがわかりました。

とインタビューに答えています。 さらに、もとIBMに勤めていたリンドガードさんは

企業の梯子を登ることに重点を置き、大きなことをしている意識の高い″達成者″の世界に生きてきました。それを離れるとき、そういったことが恋しくなるだろうと思っていたのですが、今は賢明で多くの驚くべきことを達成し、多くの困難を解決するのが起業家の世界であることもわかりました。そして、それを理解している人々のコミュニティにいることが大好きなんです。

と説明します。

サラ・ベルマンさん〜ビジュアル・アーティスト〜

サラ・ベルマンさんもこの地域に住む、フリーランスのビジュアル・アーティストです。大学卒業当初フリーランスになろうとは思っていなかったそうですが、偶然医療関係の記事を書いていたライターからイラストの依頼を受け、口コミで仕事が増えると、自分で仕事のスケジュールを決められるフリーランシングが、自分に見合っているのではないかと思い始めたそうです。今ではほとんどのクライアントがハドソン渓谷の外どころか、米国外にもいます。ベルマンさんは

この2年間一緒に仕事をしているクライアントとは、会ったことも電話で話したこともありません。すべてがバーチャルです。(中略)フリーランスだから、9時から5時の仕事に就いている人より働いていないというのは、ミスコンセプションだと思う。

と言います。実際に彼女はいつもこの仕事部屋から働いており、オフィス勤めの人より多く仕事をこなしているわけです。忙しいニューヨークの生活を離れ、ハドソン渓谷ではより小さなコミュニティの一員として、自分の仕事に専念できることが大切だと語っています。

スコット・ティリットさん〜コワーキングスペースを運営〜

コワーキングスペースBeahiveを運営しているのは、スコット・ティリットさん。 彼は企業の広報業務を辞め、より意味と目的を与えてくれるものを追求した結果、活気に満ちた南部ダッチェス郡の都市でそれを見つけたのだと言います。Beahiveは、フリーランサーたちが相互作用を起こし、周囲に「仕事のエネルギー」を与える場所を提供するだけでなく、コミュニティ・ハブとしての役割も果たしています。

ハドソン渓谷には努力を育てる資産がある

ハドソン渓谷にはこうした努力を育てる資産があり、フリーランサーたちはそれに魅了されています。自然の美しさは多くの人にとって理想的です。IBMの遺産のおかげで、この地域にはハイテクの存在感もあります。 観光、ヘルスケア、中小企業、工芸品メーカーの利益によって、この地域はIBMの縮小化を乗り越えてきました。非営利のHudsonValley Pattern by Progressの最近の報告によると、この地域へのニューヨーカーの移入が増加しており、ミレニアルズにも人気があるそうです。

まとめ

ニューヨーク州労働省のシニアエコノミスト、ケヴィン・フェルプス氏の言葉を借りれば、現代のギグエコノミーは、1,500万人以上のアメリカ人が職を失った、2000年代後半から2010年代初頭までの大規模な経済衰退の後に生まれたもの。フルタイムのポジションを見つけられなかった多くの人が、やりくりのためにパートの仕事を始めたり、家や車など既存の資産を使ってギグタスクでお金を稼ぐようになったことに始まります。

同時に、スマートフォンのアプリやその他のテクノロジーが「ピアツーピアの取引」を育んだ事情もあります。これらのアプリやプラットフォームは、失業者がギグタスクを見つけるのを助けました。 ギグエコノミーの繁栄を可能にしたのは、経済的、技術的両要素の合流だったことになります。

ギグ労働者の正確な数字はつかみにくいですが、Airbnbの部屋貸しからUberの乗車シェアリングサービスまで、ギグエコノミーに基づく実質的なビジネスモデルが出現したことは明らかです。このような米国の事情から生まれた労働形態は、今や〝生活重視の労働形態″という名のもとに、世界中に広まりつつあるのです。

 

参考記事:http://www.poughkeepsiejournal.com/story/opinion/2017/11/15/hudson-valley-forward-gig-economy/849752001/

記事制作/シャヴィット・コハヴ (Shavit Kokhav)