2011年のアジア開発銀行の資料では、国民の4割以上が貧困層であるという数字が出ていたフィリピン。昨年のIMF(国際通貨基金)の統計では、GDPで世界第34位、アジアでは13位。一人当たりのGDPはシンガポール、ブルネイ、マレーシア、タイ、インドネシアに続いて東南アジアで第6位の新興工業国となっています。数年前まではアジア経済の〝病人″とまで呼ばれたフィリピン経済は今、農業から、サービスと製造業に基づいた経済に移行しつつあります。

フィリピンの不完全労働力

中でも観光と並んで、この先最も成長が期待されているのが、ビジネスプロセス・アウトソーシング (BPO) です。コールセンター業はこの分野で特に有名で、労働力の安さと教育水準の高さ、元アメリカの植民地であったことから、アジアで唯一公用語が英語であることなどから、フィリピンのコールセンターサービスは欧米企業に大人気です。

近年フィリピンは、日本人や韓国人が語学留学先に選ぶ場所でもあります。フリーランサーの中にも英語教師やバーチャルアシスタントとして、オンラインで働く人たちが多くいます。

フィリピンにいるUberドライバーは現在5千人以上。ドライバーのソーシャルメディアグループは、何千人ものメンバードライバーで構成されています。これらのUberドライバーのほとんどがコールセンターなどで働く専門職員で、夜間または昼間フルタイムの仕事をしつつのパートタイム運転手だそうです。

このようなフィリピンのギグワーカーは、フィリピン統計局が「現在の職場で追加の仕事をしたい、あるいは追加の職業を得たい、あるいはより長い労働時間で新しい仕事をしたいと望む人」と定義されている「不完全労働力」の一部です。この「不完全労働力」は、昨年の19.7%から160万人減少して、現在はフィリピンの全労働力の16.3%を占めています。

ギグがフィリピンに与える影響

ギグエコノミーと呼ばれている、短期間契約やフリーランス労働に特徴づけられるこの労働市場は、フィリピン経済にいったいどのくらいの影響力を持つものでしょうか。

ギグエコノミーの原動力の一つはデジタル技術。 高速ブロードバンド、クラウドに基づくサブスクリプションベースのソフトウェアアプリ、安価なデータストレージなどを使って、ギグワーカーは世界中どこからでもフリーランスの仕事をすることができます。

これまで道路整備などのインフラの遅れがフィリピンの工業化を阻んできたことを考えると、デジタル技術がそれに取って代わることができれば、フィリピン経済の担い手としても希望につながりそうです。

先進諸国にギグエコノミーが拡大しているもう一つの原動力には、ミレニアルズ世代を中心とした新世代の労働者が、自己ペースで好きな時間に、好きな場所から働きたいという欲求を満たしてくれる労働形態として、ギグエコノミーを受け入れていることがあります。これもフィリピンの若者を魅了するでしょう。

フィリピン独自の背景に、1960年代のマルコス政権時代から「余剰労働力の輸出」として進められてきた海外出稼ぎ労働者からの送金総額が、2015年には外資の直接投資額を上回り、フィリピン経済全体が出稼ぎ労働に依存しているという特別な事情があります。ギグエコノミーの発展でいつでもどこからでも働けるのなら、海外へ出稼ぎに出る必要もなくなるのではないか。そう考えると、ギグエコノミーはフィリピン人にとってより大きな魅力をもつものとなりそうです。

世界のギグとフィリピンのギグ

インフラが高度化し、ギグワークがより受け入れられている世界の国々ではすでに、米国のようにオフィス労働者の3分の1に副業があるのが現実です。Freelancerportal、Upwork、 FreelancersUnionは、これまで以上に多くの人がフリーランシングを手掛けていると発表しています。昨年米国では5,500万人、つまり全労働人口の35%がフリーランシングをしました。 LinkedInの予想では、2020年までにこれが43%に上昇するだろうと言われています。そしてTIME誌の調査では、米国フリーランサーの71%がそれに満足していると言うのです。

フィリピンでUpworkとFreelancer.comに登録しているフリーランサー数は100万人を超えています。しかし、彼らが常勤労働者のパートタイム・フリーランサーであるかどうかは明らかではありません。このうちの50万人以上は、追加収入のためにビジネスプロセス・アウトソーシング(BPO)企業で2時間ほどのギグ作業をしている、BPO労働者だということです。

フィリピン政府の取り組み

フィリピン政府は情報通信部(DICT)を通じて、都市の工業化に取り残された田舎の人々に意味ある仕事を提供するものとしてのギグエコノミーの可能性を認識しています。DICTは雇用が少ない農村部にBPOの仕事をもたらしています。

DICTのサイトによると、政府は「潜在的な労働者を訓練して開発する」という課題を掲げ、提供できるサービスの質を一定に保とうとしています。将来的には、そのような企業に利益をもたらすエコシステムの構築に努め、アウトソーシング企業への需要をより多く生み出そうとしています。

まとめ

フィリピン経済へのギグエコノミーの影響は、将来さらに大きくなると予想されます。何よりも政府がこの成長を早めるための役割を果たしており、それは評価されるべきことです。また国民の間に根付いた海外出稼ぎ労働の慣行が、どんな新しい労働形態をも試してみようとする柔軟さとたくましさをもっていることが、フィリピンでギグエコノミーが成長しつつある要因と言えるでしょう。

参考記事:http://www.manilatimes.net/rising-gig-economy/325570/

記事制作/シャヴィット・コハヴ (Shavit Kokhav)