中小企業向けに販売・在庫管理などのパッケージソフトやBtoB、BtoCのECサイト制作をはじめとした、業務管理サービスを提供している株式会社アイル。右肩上がりで売上を伸ばしていた同社は、さらなる成長のため東証一部への鞍替えを目指すことに。IRの専任者も経験者も不在ながら、プロ人材の協力により着実に企業価値を高め、結果として株価3倍、投資家の個別問い合わせ10倍に至った道程を、岩本亮磨取締役(以下:岩本取締役)と支援に入ったIR・経営戦略のプロ渡邊将志さん(以下:渡邊)に伺いました。

2年後の東証一部上場を目指し、自社を中立的に判断してアドバイスをしてくれる第三者の存在を求めていた

求心力のある代表の牽引で、中小企業の活性化を目指すIT企業

岩本取締役:当社は創業約30年の企業で、事業は大きくシステムソリューション事業とWebソリューション事業に分かれています。システムソリューション事業においては販売・在庫管理などのパッケージソフトを販売しており、Webソリューション事業においてはBtoB、BtoCのECサイト制作や、ECサイトの在庫管理ツールなどの販売を行なっています。ターゲットは主に中堅・中小企業で、中小企業を元気にすることで日本の活性化を目指している企業です。

当社は仕入先もお客様も対等の関係だと考えています。プロとしてアドバイスすべきことははっきり言いますし、イエスと答えるだけの会社ではないことを重視しています。
また、社員を大事にしているというのがわかりやすい文化ですね。特に代表は会社も社員も大好きで、約670名の社員全員の名前を覚えていますし、新卒メンバーの出身大学も言えるほどです。

東証一部への鞍替えを掲げたものの、IRの専任や経験者不在で先行き不透明な状態に不安を抱いていた

岩本取締役:渡邊さんに支援に入っていただいた2年前はJASDAQ市場に上場して10年ほど経過していたタイミングです。東証一部上場への鞍替えに向けて動き出そうとしていたものの、株主数や流通量などには課題がありました。投資家からの問い合わせも年2、3件程度でしたよ。
また、IRの専任や経験者も社内に居ない状態でした。それまでのIR資料は例年の内容を焼き直したもので、「そろそろやらないと」と思っているうちに期間が長引いてしまい、最終日までバタバタしながら作成していました。
鞍替えに際して主幹事証券会社にどうすればいいのか話を聞いてはいたのですが、さらに戦略的な視点でIRを実際どう進めていくべきなのか、基準となる中立な立場からの意見を知りたいというのが本音でしたね。以前は社内の情報だけで視野が狭まりやすかったので、もう少し外部からの情報を仕入れて市場に関する事実や当社の第三者的な評価を知り、その上で改めて信じられるような会社にしたいという思いもありました。

インパクトのある実務経験を持ちながらも腰が低く柔軟。それまでのコンサルの「上から目線」のイメージを払拭してくれたのが渡邊さんだった

岩本取締役:プロシェアリングに興味を持ったのは過去のエグゼクティブ採用の経験からです。当社はJASDAQ市場に上場した後、2008年に外部から役員クラスの方をヘッドハンティングして体制づくりを行なったことがあります。ところが、会社の文化に馴染みにくく思うようには機能しませんでした。ですから社内に雇うのではなく、外部からアドバイサーとしてプロ人材に参画してもらえるのは魅力的でした。

ただ、社長が懸命に自力で築き上げてきた会社だという歴史があるため、コンサルタントの方にマニュアル的な経営論を語られるようだと、素直には受け入れがたいというのも本音でした。そういった繊細な部分を汲み取って支援してくれるコンサルタントの方と出会えるか、不安がありました。

それが、渡邊さんにお会いしたらとても腰が低い方で、対応も柔軟なので驚きました。松井証券でインパクトのあるトップと働いていた経験を持っていることも当社にとっては大きな要素でしたね。自分たちと似た環境で実務経験を積んできた方なら、自分たちがどんな苦労しているのかをわかってくれそうだという安心感がありました。

元松井証券の取締役でIR・経営戦略を担当。独立後5年間で30社の顧問を務め、常時10社以上の案件を同時進行するプロが企業を支援する・しないの判断基準

渡邊:私は2014年10月に独立したので、ちょうど5年が経ちました。一貫して上場企業向けに経営コンサルティングを行なっています。コンサル領域は経営戦略とIRの2つ。IRでは、主に「成長戦略の策定」「IR資料の作成」「投資家対応」に関するアドバイスを行っています。
5年間で30社ほどの支援実績があり、現在は12社の案件が同時進行しています。私は「一人一社でも多くのビジョン実現を支援する」ことを自分のミッションとしているので、自分が持つ経営ノウハウを幅広く世に伝えることを心掛けており、常時10社超に関わる「複業」に務めています。
とはいえ、私には依頼を受けない企業の基準があります。例えば、収益しか考えていない企業は「ビジョン志向」の私と合わないのでお断りしています。また、安定志向の企業も「成長志向」の私には全く興味がありません。あと「3ヶ月で株価を上げたい」など短期に成果を求める企業も受けません。私は「長期志向」ですし、そもそも付け焼き刃でなく、骨太の戦略策定やIR強化にはそれなりの時間がかかるためです。
その点、アイルさんは、「中小企業へのIT支援を通じて日本経済の活性化に貢献する」との明確なミッションがある。現状に満足することなく、東証一部上場を目指してステップアップしていこうという成長意欲がある。2年間かけてじっくりIR強化に取り組む長期的な方針がある。あと、お会いしたすべての役員の方々の人柄がとても良く、役員同士の仲も良い雰囲気が伝わってきました。純粋に「この企業を応援したいし、一緒に働いて楽しいだろうなぁ」と感じたのがお受けした理由です。

IRとは?の基本講座からIR資料作成、投資家対応、体制整備。2年間のきめ細やかな支援が成果に結実

競合他社のIR資料解説講座や投資家対応を通して、投資家が知りたいと思う情報の実像が見えてきた

岩本取締役:これまで当社は、投資家が何を知りたいのかをあまり意識できていませんでしたね。単純に自分たちが見せたい自分たちの良いところを出すということしかしていなかったと、渡邊さんに支援いただいて初めて気づきました。
渡邊さんには競合他社のIR資料を解説してもらう講座を何度か実施してもらいました。他社はどんな見せ方をしているのか、どんな数値を出しているのか、何が良い資料で何が悪い資料なのか、自社に取り入れるべき要素は何なのかといったことを細かく教えてもらいました。講座を通して、自社がどんな方向性で打ち出せば良いのかを感覚的に理解できたと思います。

渡邊:「投資家対応」の支援の1つとして投資家ミーティングにも何度か同席しました。事前にミーティングの流れをレクチャーした上で当日は岩本さんに同行して、プレゼンの内容や投資家の意に沿った受け答えができているかを確認しました。

岩本取締役:ミーティング終了後に、投資家の言葉をどのような視点で受け止めるべきかなどを丁寧に教えてもらいました。準備不足だった部分もわかりましたし、今は当初よりも自信を持って説明できるようになっていると思います。

渡邊:決算の大枠や事業概要については、一部上場企業にふさわしい詳しく、わかりやすい説明ができています。この点は、投資家からの評価も高いはずです。欲を言えば、数値の細かい部分の整理や将来の成長戦略の見せ方などは改善の余地があるので、これらの強化が今後の課題です。

より総括的なIRを行うため、経営企画の下にIR室を置く体制を採用

渡邊:アイルさんにはIR体制に関する提案も行いました。世の中には、独立したIR部門がない場合、2通りの体制があります。1つは財務部門の下にIR室を置いて、CFOや財務担当者がIRを兼任する形で、多くの企業がこの体制を採用しています。上場企業は、四半期ごとに決算短信等の財務報告書を提出する必要があるので、それに合わせてIR資料も作成するパターンです。この体制では、財務の詳細な説明はできますが、事業や戦略の説明が弱くなるデメリットがあります。
もう1つの体制が、社長の直下に経営企画部門を置き、その下にIR室を置く形です。この体制ですと、社長直下の部署のため、財務や事業部門などすべての経営情報が一元的に集まります。それらを踏まえた戦略を立て、投資家に説明することが一つの部署で完結できるので、社長の思いや投資家が知りたいことを網羅的に正確に伝えることができます。実際、私は松井証券時代に経営企画とIR広報を兼任していましたが、とてもやりやすかったので、支援先には必ず提案しています。
アイルさんは当初、財務の下にIR担当がいたので前者の体制でしたが、私から経営企画の下にIR担当を置くメリットを説明して、今は後者の体制になっています。

渡邊さんの適切なアドバイスがあったからこそ、勇み足にならず段階的にIR戦略を進めることができた

岩本取締役:プロジェクトに関してさまざまな対応事項がありますが、渡邊さんからは最初にロードマップで会社が進んでいく大きな流れや方向性のご提案をいただいていたので、それをベースとして頭に入れつつ進めていきました。全てが当初描いたロードマップどおりにはなっていませんが、渡邊さんが段階を踏みながら進行してくれているので、徐々に実行していけば良いのかなと思っています。自分たちだけだと、優先順位もわからず、焦って無理をして失敗したこともあったのではないでしょうか。

渡邊:最近、多くの上場企業が困っているのは、取引所や投資家、社会からの要請・要望があまりに多く、何から手をつければいいかわからなくなっていることです。アニュアルレポート(統合報告書)を作成した方がいいのか、ESGやSDGsの取り組みを始め、それをIR資料に盛り込まなければいけないのか…といったことですね。周りからアレコレ言われるので、気ばかり焦るけど、どうしたらいいか頭の整理ができない。なので、私は案件が始まるときは、「コレは最重要なので最優先」「アレは重要度が低いので先送り」とToDoの仕分け(優先順位付け)をしてIR強化のロードマップをつくります。
アイルさんの場合、2年後の東証一部上場に向けて株価や株主数を上げていくことが大きな目標だったので、時間的な余裕もあり、概ね計画的に実施できたと思います。

株価が3倍に大幅上昇した定量的成果のみならず、自分たちの言葉でIR戦略の意義を伝えられるようになった定性的な成果も大きい

IRの内容や重要性を理解することで、会社全体としてIR強化に努めることができた

岩本取締役:渡邊さんからきっちりと説明を受けることで何をどうやれば良いのかが明確に理解できるようになり、社長に対しても自分の言葉でIRの説明をできるようにもなりました。今は資料に対してほとんど手直しも入りませんし、任せてもらえる状態に近づいています。役員全員が意識を高め、会社としてIRに力を入れる方向に向かうことができたのも、非常に大きな資産です。

プロ人材と企業が足並みを揃え長期的に取り組み続けることで成果は確実に出ると実感

渡邊: 私はIT企業の支援が初めてだったので、支援当初は知らない用語ばかりでチンプンカンプンでした。今はIT業界がどういうものか理解が進みましたし、支援を通してアイルさんから学ぶことは多かったですね。IRの点では、実はロードショー(投資家対応)に同行するのも今回が初めてでした。
また、時間をかけて段階的に取り組めばきちんと成果が出ることもアイルさんに教えていただきました。腰を据えてじっくり取り組む覚悟を持ち、途中で挫折することなく長期間続けていけば努力は報われる。そのことを今回の支援で改めて実感しました。

業界や事業の独自性も好影響となり、支援から2年が経過して株価は3倍、投資家からの個別問い合わせ件数は10倍に

渡邊:株価は、理論的には将来のキャッシュフローをベースに決まりますが、簡便的には「利益×成長期待」で決まります。なので、一時的に成長期待から株価が上がっても、利益が伴わなければ徐々に下がります。アイルさんは、IR強化により「成長期待」が高まったことに加え、「利益」もきっちり上げています。中期経営計画を見ても、今後も利益を堅調に伸ばしていく計画なので、「数年先を見据えれば、決して高すぎる株価ではない」と投資家が判断して株を買い続けた。その結果、株価が3倍になったと考えています。

岩本取締役:投資家さんからは「資料がわかりやすくなって親切だ」と言われますから、渡邊さんに支援いただいた成果だと思いますね。
問い合わせ件数についても、スタート時は2、3社だったのが現在はアポが確定しているだけでもこの四半期で35社です。中小型株に強い証券会社さんが当社を評価してレポートを書いてくれたので、それを見てお問い合わせいただくケースも多いですね。口コミ的に徐々に当社を知ってくれている方が増えている感じがします。

渡邊:四半期で35社の投資家対応なら、十分に「IR一流企業」と言えます。東証一部に上場したことはもちろん大きいですが、ITという成長業界に属していること、その中でも事業に独自性があること、それに利益を大きく伸ばしていることも投資家から高く評価されているはずです。IRでは、投資家と個別に1on1ミーティングを行うことが最も大事であり、効果がありますから、これは目に見える大きな成果です。

豊富な経験を持つ第三者の存在は、IRの内製化を図る上でも心強い後押しとなる

わからないことをわからないと言える環境を作ってくれたからこそ意欲的に取り組めた

岩本取締役:非常にありがたいと思ったのは、渡邊さんが私たちに対して専門知識はわからないという前提で優しく話をしてくれたことです。「これくらいわかるだろう」というトーンで話すことなく、わからないことはわからないとはっきり言える環境を作ってくれたことがうれしかったですね。自分たちも、わからないまま終わらせないようにしようと意識して質問するようにしていました。
ある程度IRのパターンを理解したことで今後は自走していくことも可能だとは思いますが、社会も会社も変化していきますし、引き続きその時々で押さえておくべきポイントを渡邊さんからアドバイスいただきたいと考えています。渡邊さんには以前少し広報の支援もしてもらったのですが、やはり担当者が1名で経験者がおらず、独自で進めていた状態でした。広報の担当者曰く、そんな状況の中で実務経験のある第三者から「それで大丈夫」と言ってもらえることは、非常に心強いそうです。IRも全く同じです。自分たちで根拠を持って進められるようになるまでは、後押しをしてもらう意味でも支援を続けてほしいです。

渡邊:IRの本質は、数値で会社の成長ストーリーを語ることです。過去から現在までに積み上げた実績や強み、それを将来のビジネスチャンスと結びつけ、未来の会社の姿を描く。これを数値ベースで行うことがIR活動で、これができている会社ほど投資家からの評価が高まります。ただ、内部や外部の環境が変われば、未来のストーリーも変わるので、一回つくったら終わりでなく、時代と共に変化していきます。その意味では、IR活動は終わりのない旅のようなものです。

サーキュレーションには世に埋もれている中小企業との架け橋になってほしい

岩本取締役:今回、渡邊さんを紹介いただいたプロシェアリングサービスを展開しているサーキュレーションさんには、渡邊さんのような市場でもトップクラスのプロ人材に選ばれ続けるサービスであってほしいです。
また、中小企業の社長こそ相談相手が全くおらず困っている方が多いと思うので、そういった企業向けに使いやすいサービスを展開してもらえたらうれしいです。

渡邊:私はアイルさんのような超優良企業を紹介してほしいですね(笑)。まだまだ世に埋もれている成長企業は多いはず。経験者のアドバイスも欲しているはず。個人的には、様々な業種や規模の企業様を数多く紹介いただいて、チャレンジングな仕事がしたいです。まずは100社に関わることが目標です。

プロ人材のアドバイスのもと、大目標に向けて焦らずじっくりと取り組むことこそが、株価3倍、問い合わせ件数10倍という成果を成し遂げた最大の秘密なのですね。

本日はお忙しい中、ありがとうございました!


(左)IR・経営戦略のプロ人材渡邊将志さん(中)株式会社アイル岩本亮磨取締役(右)サーキュレーションコンサルタント冨岡宙

企画編集:新井みゆ
写真撮影:Rina Asahi
取材協力企業:株式会社アイル

※ 本記事はサーキュレーションのプロシェアリングサービスにおけるプロジェクト成功事例です。