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日本でも浸透してきた感のある新しい働き方の形、クラウドソーシング
今回のインタビューは、国内最大手のクラウドソーシングサービス「ランサーズ」にCTOとして参画されその成長を支えた田邊賢司さんです。

同社を去った現在は、株式会社wizpraにCTOとして参画するとともに、自社「プロフィットメイカーズ」でサービス開発をおこなうかたわら、サーキュレーションの技術顧問に就任し、複数社でブレーンを務めるなど、多方面で活躍されています。

前編ではクラウドソーシング市場の将来性や課題について、後編では田邊さんのキャリア形成に合わせ、CTOとしてのエンジニアとの関わり、現在のパラレルな働き方の行く末についてお聞きします。

盛り上がりを見せるクラウドソーシング市場

Q:田邊さんがクラウドソーシングの領域、また、パラレルな働き方に関心をもった経緯はなんですか?

田邊 賢司さん(以下、田邊):

私は2014年の4月から約1年半、ランサーズにCTOとしてジョインしていましたが、その前は、友人が代表を務めるトライフォートというソーシャルゲーム会社を手伝っていました。

そこは働き方に理解がある会社で、エンジニアのなかにもリモートで作業する人もいました。
また、まわりでも、たとえばKaizen Platformさんは社員の半数がリモートワークですし、全員フルリモートの形態をとっている開発会社さんも出てきていたので、自然とそういった働き方に興味を持つようになりました。

そうして、クラウドソーシングという新しい業界に大きな可能性を感じるようになりましたね

Q:確かに、リモートワークや副業、クラウドソーシングといったフレキシブルな働き方はこの2~3年でIT・Web業界で浸透してきた感があります。

田邊:

ランサーズでも、これまでの依頼総額は700億円を超え、私が入った当時は30名ほどだった従業員も、今や130名ほどにまで増えました。

ランサーズクラウドワークスといった総合型をはじめ、動画、翻訳、マイクロタスク系、デザイン、ライティング……など、専門分野に特化したサービスもどんどん出てきています。

中でも、サーキュレーションが提供しているOpen Researchのようなプロフェッショナル向けのサービスは、強いニーズがあると感じています。

1時間でいいからプロに相談したいという人が多いなか、エンジニアなり営業なり各分野のプロフェッショナルを探そうと思っても普通の人にはなかなか見つけられない。
そのときに窓口になってくれるサービスがあるなら、それは有難いですよね。

Webとリアルでどう違う?
クラウドソーシングの価値と課題

Q:フリーランスの立場からするとクラウド的な働き方はぜひ取り入れていきたいのですが、「クラウドソーシング=安い」イメージがどうしても先行してしまい、良案件をとれるか心配なところはあります。利用者の声はいかがですか?

田邊:

確かに、ランサーズのなかにも小さな案件は多くありますが、それはリアルでも一緒。それが、ただWebに置き換わっただけの話です。

いわゆる”炎上案件”なども取りざたされますが、それもWebだからこそ目立ってしまうこと。
発注側と受注側の2者間でしかやりとりのおこなわれないリアルのほうが逆に危険で、クラウドソーシングなら、サポートチームが1件1件チェックして公序良俗に反するような案件は当然省きますし、ユーザー同士で意見を交わせる相談室もサイト上に置いてあります。

だから、Web上のほうが実は安全なんです

Q:リアルだと人の目に触れない分泣き寝入りするしかないものが、Webでは不特定多数の目に触れることで抑止力に繋がっているんですね。

田邊:

Webのメリットはほかにもあります。

リアルだと、どうしてもスキル以上にアピールや営業の上手な人に良案件が流れてしまいがちです。
でも、サイト上でなら、フリーランサーのスキルや実績を”見える化”してあげることで、営業トークの苦手な人でも、実力に見合った案件をゲットできる可能性が高まります。

あとはその人に今仕事を依頼できるかのスケジュール機能。
こういうスキルを持った人がこの予定で空いていますというのが今後見えるようになれば、発注受注ともスムーズになりますよね。

Q:クラウドソーシングサービスでは、ユーザーとしては一度信頼関係を築いた相手となら、次はサイトを介さず直接やりとりをしたいというのが正直なところだと思います。
サービス自体の介在価値に関する部分でもありますが、そのあたりの解決策はいかがですか?

田邊:

規約的には一応禁止しているんですが、確かに、サイトから離脱してしまうところはありますね。

クラウドソーシングの課題はまさしくそこ。
今は手数料メインの収益になっていますが、それで続けていくのはやはり難しいと感じています。

だからこそ今後は、クラウドソーシングサービスを使うことで得られる付加価値に対してお金を払うようなシステム作りが必要になってきます。

たとえば、サービスに課金することで健康保険と同様のサービスや、スキルアップのための教育・育成プログラムを受けられたり、宿泊やレジャーなどの提携施設を安く利用できるといった特典があれば納得ですよね。

そういったほかのサービスとの連携も合わせ、クラウドソーシングがよりプラットフォームとして機能していくでしょう。

5年、10年後にみるワークスタイルの変化

Q:将来的に、働き方のスタイルはどう変化していくでしょうか?

田邊:

まずひとつ言えるのは、週5フルタイム正社員としての雇用形態は今より減っていくと思います。

とはいえ、クラウドソーシングが正規雇用の領域を完全に食うかといったら、それは違うかと。ここでの変化は、選択肢が増えるという意味ですね。

たとえば、同じ仕事をするでも、正社員として自分たちの組織のなかでまわすのか、外注先を探すのか、派遣を雇うのか、業務委託するのかといった選択肢のなかに、クラウドソーシングが自然と出てくるイメージです。

日本では、まだまだアーリーアダプター層が先行してサービスを使っている段階ですが、アメリカを中心に、クラウド的なワークスタイルはより進展しています

1998年に創立された世界最初のクラウドソーシングサイト「Elance」をはじめ、海外にはもっと多くのプレーヤーがいて、規模感的にも全然違いますね。

これまでは新卒で就職するのが当たり前だったものが、最初から自分で会社を起こしたり、フリーランスになったりといった選択も、先ほどの育成機能などを使うことで叶うのではないでしょうか。

国内でも徐々に、ランサーズの理念でもある「時間と場所にとらわれない、新しい働き方」の実現に向かっているんです。

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専門家:田邊 賢司
2011年より株式会社インタースペースにおいて、エンジニア部門の立ち上げに携わる。
2012年8月にスマートフォン向けアプリ開発事業を行う株式会社トライフォートの創業メンバーとして参画。新規プロジェクトの企画、サービス戦略の策定、チームメンバーの立ち上げに携わり、創業時から1年半で、150人までの組織に成長させた。
その後、日本最大級のクラウドソーシングサービス企業「ランサーズ」にCTOとして参画し、クラウドソーシングプラットフォームの運営においてエンジニア部門を統括。
エンジニア部門の組織拡大、仕組み化に携わり、サービスの成長に寄与した。2015年9月に株式会社wizpraに参画し、CTOに就任。2015年11月、株式会社サーキュレーションの技術顧問に就任。
ノマドジャーナル編集部
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