数多くの企業経営に関わり、「PRプロフェッショナル」として売上拡大に向けた提案を続けているWin-Win・Partners代表の飯野司さん。10代から経営の現場に触れ、2回の起業に成功している事業家でもある。
変化の激しい時代に勝ち残る企業の条件とは何なのか。ご自身の豊富な経験を踏まえて語っていただいた。前編では、飯野さんのこれまでのキャリアについて伺う。
飲食業を通じて学んだ「経営の原点」
Q:飯野さんはこれまでにさまざまな分野で起業し、成功を収めています。ご自身の経営観の原点を教えていただけますでしょうか?
飯野司(以下、飯野):
父親が飲食業を営んでいて、私も小学生の頃からカウンターに出て手伝っていたんです。中学・高校の時分には随分と時間を割いて手伝いましたね。今思えば、それが私の経営の原点です。
飲食業は、お客さまの顔を見れば「おいしいか、まずいか」がすぐに分かります。お客さまのことをちゃんと見て、必要なサービスや料理を提供していくということが大事で。それを間近に見られる環境で、またいろいろな苦労をしながらも店舗を運営している父親の背中を見て、経営に興味を持っていきました
そこで「商売とはお客さまを見ることだ」「お客さまとの対話が大切なんだ」ということを学んだんです。そんな経験から、私は「マーケティング」という言葉を使わずに「顧客洞察力」と言うようにしています。自身でさまざまな事業を起こしたのも、そういう商売をやりたかったんですよ。
Q:飲食店から、医薬品関連事業の世界的大手であるクインタイルズ・トランスナショナル・ジャパンに転職され、その後はさまざまな業界で起業に関わっていらっしゃいます。転職や起業の経緯について教えてください。
飯野:
当時は、飲食以外で人と直に接する仕事がしたかったんですよ。もともとは医療関係の勉強をしていたので、その知識を生かしてクインタイルズでBtoBの事業を学びました。
会社員生活と並行して、友人が起こしたエステ事業の会社を手伝い、次第に経営者として専念していきたいという思いを持つようにもなりましたね。「人をハッピーにできる商売って何だろう?」と考え、友人の会社の傘下でブライダル領域の事業を手掛けるトップビューティーを設立しました。明朗会計の「ブライダルインナー」「ブライダルエステ」「ブライダルシェービング」などをワンストップで提供できるお店を作ったんです。
事業が拡大していき、それなりに成功を収めることができましたが、会社が大きくなるとその分だけ苦労もありました。マネジメントなど、自分にできないことがたくさんあった。「できないことができるようになりたい」とずっと思っていた時代ですね。経営し始めて5年くらいでそこも身を引いて。その後は経営コンサルや企業再生を手掛けるリヴァンプに入社し、経営とコンサルを3年ほど担当しました。
「マネジメントの失敗経験」からコンサルタントの道へ
Q:なぜまったく畑の違うコンサル業界を選んだのでしょうか?
飯野:
それまでに自分がやっていた中小・零細企業のような組織だけではなく、もっと大きな会社をマネジメントしたいと考えたんです。そのためには、より大きな組織の成功者に近づかなければいけないと。自分自身の経験値を高めていくために手っ取り早いと感じたのがコンサル業界だったんですよ。
リヴァンプでは、コンサルタントとして力を付けながら、他人の会社の経営に入って本気でぶつかるという経験ができました。大企業の役員の方々と会話するようになって、自分の今までの商売の経験値が「企業」とはまた違うものだったので、それを買われて一緒に語れるようにもなりました。マネジメントや戦略面でもたくさんの勉強をして、自分の思いが形になっていったのがこの時代でしたね。
Q:飯野さんはずっと実業の世界を経験し、たくさんの人を動かしてきたと思うのですが、その上で感じた「マネジメントの課題」とはどのようなものだったのでしょうか?
飯野:
組織が大きくなっていくと、「自分の思いを社員に伝える」ということが想像以上に難しかったんですよ。自分の言葉で勝手に語っていても、そうそう伝わるものではない。社員の側も、言いたいことがあっても経営者に対しては見えない壁があり、思っていることがなかなか言えない。それでうまくいかないことがたくさんあって。風通しが良い組織であれば会社も成長するのでしょうが、単純に給料を「払う側」と「貰う側」の関係になってしまうと会社は停滞してしまうんですよね。
人に伝える力というものは本当に大切。飲食店などの現場経験から「相手に合わせて伝える」という習慣は持っていたはずなんですが、少し大きな組織の経営者となった途端にできなくなってしまったんです。企業は、そうやって病んでいくんですよ。
Q:現在はたくさんの企業の経営に携わっていらっしゃいますが、どのような思いで取り組んでいるのですか?
飯野:
父親には小さい頃から「”出会えてよかった”と思ってもらえる人間になりなさい」と言われて育ちました。たとえ報酬がタダでも、誰かのために必要だと思ったことはやる。そんな人間にならなければいけないと。
それを本気で実現しようと考えたときに、自分自身で事業を手掛けるしかないと思い立ちました。人の下に付いてやっていると、どうしても商売上それができない。だから自分で商売を起こしたんです。私の会社名にある「Win-Win」にも、パートナーとして「出会ってよかった」と思ってもらえるようにさまざまな会社の経営に参画したいという思いを込めています。
見えない主従関係に縛られない、「社外顧問」ならではの価値
Q:飯野さんは「社外顧問」や「社外取締役」としてのクライアント先への経営参画を貫いていますが、何か理由があるのでしょうか?
飯野:
あります。「見えない主従関係を作らないようにするため」ですね。
社内の取締役は当然、自社の運営・決裁にフルコミットしています。それに対して社外取締役は、「他にも自分の軸となる仕事をしながらアドバイザーのような形で関与する」という立場。企業側は「自分たちとは違う軸を持ったプロである」と見てくれるので、さまざまな提案に聞く耳を持ってくれますし、お互いに尊敬の念を持った良い立ち位置でいられるんです。
お互いに尊敬の念を持っているというのは、とても大切なことだと思います。他の軸で商売をやっているから、対等な経営者同士で話ができる。会社に色に染まることなく、違った角度の経験則で語ることもできます。社内取締役として会社の中に入ってしまうと同じ商売の経験則しか生まれないし、「報酬を払う者」「報酬を受ける者」という見えない主従関係が作られてしまうんですよね。そうすると会社の創始者には勝てない。
Q:飯野さんの過去の経験や、多様な業態の経営に関わってきた知見が生かされているんですね。
飯野:
はい。私は飲食業の世界でお客さまの顔を見て育ちました。ある意味では商売の基本だと思うのですが、それができなくなっている企業が多いんです。お客さまの顔が見えなくなっているのは誰かというと、それは役員だったり社長だったりするわけですね。それを社内から問いただしても聞く耳を持ってくれないかもしれませんが、社外からであれば聞いてくれるんですよ。
だから「社外のパートナー」という立ち位置を貫くのが私の信念。社内取締役へのオファーもいくつかいただきましたが、すべてお断りしました。社外取締役か顧問しか引き受けないと決めています。
《編集後記》
「お客さまを見て商売をする」。言葉にすれば当たり前に思えることだが、組織が大きくなればなるほどそれができなくなっているケースが多い。それは往々にして、経営者自身の課題でもあるという。「マーケティング」という言葉が飛び交うとき、果たしてその言葉の意味は社内で統一されているだろうか。
インタビュー中編では、「顧客洞察力」×「商品力」×「宣伝力」の公式を踏まえて、PRプロフェッショナルとしての見地から企業経営を成功させるために何が必要なのかを伺う。
取材・記事作成:多田 慎介・畠山 和也
専門家:飯野 司
広報プロフェッショナル
学生時代より、父が経営していた飲食業に携わる。
クインタイルズ・トランスナショナル・ジャパンにて営業支援活動に従事した後、美容サービス会社を設立し、全国に21店舗を展開。
その後、REVAMPでの事業再生、新業態開発、チャネル開発、全国認知拡大支援を経て、Win-Win・Partnersを設立。
事業戦略にマッチする企業の紹介、異業種間によるリレーション構築によるチャネル開拓・企業認知拡大・Win-Winモデルの発案、実行支援に取り組んでいる。
現在は、大手やベンチャーなど約20社の顧問や社外取締役、アドバイザーを務める。